ダイニングに射し込む朝の光。
 その中でわたしは目を覚ます。
 どうやら居眠りをしていたらしい。
「ん…」
 頭をゆっくりと振ってから、自分のいる場所を見回してみる。
 朝の陽射しとスズメが鳴く声。
 静かだな。
 この広い家で名雪と二人だけ。
 ずっと二人で過ごしてきたけれど、この広い家に二人だけでは寂しすぎた。
 わたしはいいのだけれど、名雪にはかわいそうな思いをさせてきた。
 せめて、あの人がいれば良かったのだけれど…。
 でも、祐一さんが来てくれた。
 わたしは嬉しかった。
 名雪に新しい家族が増えたから。
 そこに、
 その祐一さんが起きてきた。
「おはようございます、祐一さん」
 わたしはいつものように祐一さんに笑顔を送る。
「おはようございます」
 祐一さんもいつものように笑顔で挨拶を返してくれる。
 さあ、いつもの一日の始まりである。
 わたしは食事の仕度を始める。
「日曜日なのに早起きですね」
「昨日は早く寝ちゃったんですよ」
「祐一さん」
「はい」
「早く孫の顔が見たいです」
 ずざざーっ。
 食器を用意していた祐一さんが、器用にお皿を持ちながら転んだ。
 そして震えながら床に突っ伏している。
「あら? 大丈夫」
「大丈夫じゃないです」
 そんなに凄いことを言ったかしら…。
「すみません」
「い、いえ」
 なんだかよろよろとしながら立ち上がる祐一さん。
「朝から話題が激し過ぎますよ」
「ごめんなさい」
「だいたい最近少し変ですよ、秋子さん」
「そうですか?」
「この前の買い物のときは、俺の腕に組みついてくるし」
「いけませんか?」
 ちょっと悲しい。
「北川達に誤解されてましたよ。
 次の日、学校で質問攻めにあったし。
 どこの学校の娘だとか、彼氏はいるのかとか」
「わたしもまだ若く見られるのね」
 あのときは、わたしが祐一さんの母親に見えているのかが気になって、試してみたのだけれど。
 どうやら、そうは見えなかったらしい。
「コーヒーにしますか、紅茶にしますか?」
「コーヒーお願いします」
 祐一さんが椅子に座ってパンにバターを塗る。
 見ていて気持ちの良い食べ方をする。
 朝食を用意した身としては、嬉しい限りである。
「祐一さん」
「はい」
「孫は六人ほしいです」
 ぶばぁっ!
 祐一さんが突然、飲んでいたコーヒーを吹き出す。
「行儀が悪いですよ」
 わたしはテーブルを拭きながら諭す。
「この家は広いですから。だから、早く全部の部屋を埋めないと」
「そうそう、前から気になっていたんですけど
 なんでこの家ってこんなに広いんですか?」
「六人ということでしたので」
「六人?」
「そうです。六人、子供がいるつもりで、名雪のお父さんがこの家を残してくれたんです」
 祐一さんはわたしに気を使ってか、言葉に詰まっている。
「他にもいろいろ残していってくれてますよ、あの人は」
 少しのあいだ居心地が悪そうにコーヒーをすすっていた祐一さんが、意を決したようにわたしと目を合わす。
「あの…秋子さん。聞いてもいいですか?」
「ええ」
「名雪の父親はどんな人だったんですか?」
 祐一さんにはそんなところがあるから、いつかは聞かれると思っていた。
 名雪のためにも、祐一さんには話しておいた方が良いのかもしれない。
「名雪よりも祐一さんの方が早かったですね、その質問」
「名雪、何も知らないらしいですね」
 名雪も質問してくれば、いつでも応じるつもりだった。
 でも、名雪は一度も聞いてこなかった。
「あの人は……そうですね。とっても賑やかな人でした」









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