――信哉達のいた研究施設
逃亡した信哉達の機体から研究所の場所を探られるのを恐れた為、追跡部隊の敗
北を知るや否や、川崎は研究所を島ごと移動させた。
元々、この研究所は洋上に浮かぶ海洋都市のような作りになっておりカモフラー
ジュの為に外皮を自然物で覆っている。
定期的に場所を移動する事により足取りを掴まれない様にするための措置だが、
逃亡者の為に、急遽移動する事になったのはこれで二度目である。
誤魔化しきれないと判断した川崎は一部始終を上層部に報告したが、一週間が過
ぎた今も音沙汰がないため、今や不安によるストレスはピークに達していた。
あからさまに不機嫌なのが判るため、必要以上に所員は近寄らないし、川崎自身
誰とも口を利こうとはしなかった。
所長室で、机をいらただしげに指で叩いていた川崎の耳にベルの音が響く。
外部通信からのベルだ。ようやく上層部からの報告が来たらしい、恐る恐る
川崎は通信をオンにした。
「……こちら川崎」
「アザゼル・ツヴァイスネークヘッドのグラムスだ」
ややドスの利いた太い男の声が聞こえる。部署の名前を聞いて川崎は顔をしかめ
た。
(ち、査問会の連中か)
川崎は心の中で舌打ちをした。スネークヘッド、とはアザゼルという名に由来す
る。
堕天使として名を知られるアザゼルは七つの蛇の頭を持っていたとされる。
その姿にちなんで、組織を役割に応じた七つの部署に分けている。ツヴァイ、すな
わち二番目の蛇の頭の名を関してるのは査問、アザゼルという組織の内外の調査を
担当する部署である。
「日本支部担当川崎だな? 今回の件についての処遇が決まったので通達する」
今の川崎の気持ちを例えるならば、断頭台にかけられた死刑囚という表現がぴっ
たりだろう。諜報部であるドライ・スネークヘッドとのつながりもあるツヴァイ・
スネークヘッドの人間にかかれば、どんな誤魔化しも通用しない。
「……此度の不祥事はアグマイヤ様の温情により不問とする。但し、抜けたサンプ
ルの埋め合わせの研究成果を、今月の定期例会にて提出せよとの事だ」
「は?」
「聞こえなかったのか? 今回の件は定期例会で結果を出せば不問にする」
間違いはなかった。正直、死んだ方がマシと思えるような処遇を言い渡されるの
ではと考えていた川崎に、今の言葉は夢ではないのかと思いたくなるような言葉だ
った。
やや不機嫌そうなグラムスの声を考えれば、冗談ではないのだろう。彼にしても
二度も同じ不始末をやらかした男の処遇に対してあまりにも寛大すぎる、と思って
いたのだから。
「確かに伝えたぞ。……ああ、後一つあったな」
「は、はい?」
「不要被験者をコンテナに詰めて、そちらの人員で本部に輸送してくれ」
「コンテナに? しかし、それでは…」
「生死は問わん。だがコンテナに詰めるまでは生かしておけよ」
「畏まりました。…しかし、サンプル輸送はともかく最近妙に異動が
多くないですか?」
「アグマイヤ様が新しいプロジェクトを立ち上げられてな。いずれ全て本部に集め
られる予定だそうだ。所員にはいつでも出向できるよう、身の回りの整理をさせ
ておくように」
「了解しました、では…」
通信が切れた時、川崎はまるで胸踊るような高揚感に包まれていた。定期例会ま
で三週間はある。それまでに結果さえ出せればいいのだ。
異動の事は気になったが、先程の死ぬか生きるかの緊張から解放された事に
比べればそんな事は些細な事でしかなかった。
(まだ上に報告を上げていない、アレがある…。早々に仕上げれば…)
踊りだしそうな気持ちを抑えつつ、川崎は所長室を出て研究室へと向かった。
スキップが混じりそうな軽やかな足取りで進む彼を見て、廊下ですれ違った
一人の研究員は、
「…所長、死刑でも言い渡されたんだろうか…」
先程とはうってかわって浮かれている川崎を見て、妙な不安を覚えたのだった。
エクシードブレイブス 第5話
宇宙への架け橋
「そこだっ!」
「くそっ!」
ミシン音を立てて、吹雪のアサルトマシンガンが火を吹いた。祐一のフラムベル
クの装甲に弾丸が当たるも、厚みを増した装甲の前にあまり効果は成さない。
だが、けん制の意味合いの強い今の射撃はむしろ当たった事が致命的である。何
しろ、
「うわっ、やべっ! バランスが…!」
「フラついてる場合じゃないぞ、祐一ィッ!!」
背部のブースターを点火し、正面から接近しようとしたフラムベルクは、多少の
弾丸が当たっただけでも、かなり機体がブレる。パイロットがしっかり姿勢制御を
しなければ、まさしく壊れた戦闘機の如く突進するのみである。
そんな安定性のない特攻は、武には取るに足りない。吹雪を僅かに横にスライド
し、すれ違いざまに、ブレードの一撃をフラムベルクの胸部に叩き込む。
交差法気味の一撃は、タイミングを見誤れば吹雪の腕が逆に持っていかれそうな
速度であったが、吹雪は切っ先を滑らすように当てる事で突進してきたフラムベル
クをいなす様に斬り付けた。
「どうわあああっ!?」
それによって機体のダメージもそうだが、完全にバランスを崩したフラムベルク
は無残にも地面に頭から突っ込んだ。それでも勢いは止まらず地面を抉りつつ進み、
吹雪から実に数百メートルは離れた地点でようやく止まる。
そして――
「これで――5敗目、な」
武の嬉しそうな声と共に、吹雪の右腕にある収束メガビームライフルの一撃が
放たれる。実に正確な一撃だった、銃口の向きはフラムベルクの背中を真っ直ぐ
に捉えている。
紫の螺旋を纏ったビームが、フラムベルクを後ろから容赦なく貫き、そこで祐一
の視界はシャットアウトされた。
――ノアシップ内 シミュレーター室
「はい、そこまで。二人ともさっさと出てー」
白衣を纏い、肉感的なボディを持ったやや癖のあるロングヘアの女性――香月夕
呼博士は、モニターに映る結果を見届けた後そう告げた。
シミュレーターのハッチが開き、中からやや疲れた顔の祐一と、余裕綽々の武が
出てきた。
「お疲れさん、これで祐一の戦績は2勝5敗だな」
シミュレーターの傍では信哉がにやにやと笑いながら、今回の結果を告げた。
途端に、祐一は不機嫌な顔になり、
「しょうがないだろ、チューンされたフラムにまだ慣れてないんだよ…」
呟くように言い捨てた。そんな様子が気になったか、武が少しフォローを入れる。
「ま、さっきまでは祐一のニ連勝だったからな。大分慣れてはきたんじゃないのか?」
「でも俺との戦績は俺の6勝1敗だぞ」
しかしそこで信哉がまたしても追い討ちをかける様に言葉をつなぐ。言い返し様
のない事実に、祐一は壁に手を当てて落ち込んだ。
そもそも信哉、祐一、武の三人は意味なくこんな模擬戦を行っているのではない。
先日、改修と修理の終わったフラムベルクとクラウ・ソラスだったが、機体性能が
大幅に上がったこともあり、慣らし運転を兼ねて模擬戦を行っているのだ。
プログラムは一対一の自由戦。互いに七戦行いその勝率を競う、というものだっ
たが大幅に仕様の変わったフラムベルクの性能に祐一が戸惑い、思うように操れな
い所へ信哉たちは遠慮なく、本気で襲い掛かった。その結果が、祐一にも不本意な
戦績である。
「大体、あそこまで仕様が変わっちゃ別物ですよ、博士」
そう、フラムベルクは本来原型となったアルトに近い形で修復された。香月が
存在意義に反するような作りだったフラムベルクに腹を立てたかららしい。
背部と肩部に大型のブースターを取り付け突進力を強化、脚部と腰部にバランス
制御用のスラスターを取り付けて方向変換と姿勢制御を強引に行える機動力強化。
それに伴いジェネレーターを大型のものに変更、加えて装甲を強化したため重量
は増し、以前と比べて運動性は損なわれていないものの扱いは悪くなった。
さらに攻撃力不足を補うために、非実体剣であったフェイズセイバーを
カートリッジ式のリボルバーガンブレードに変更した。非実体剣である事は
変わりない。しかし香月の趣味でちょっとした隠し玉があるのだが、それはさてお
き。
とにかく別物と言っても過言ではないチューンナップなわけで、
さも機体の性能に慣れてないからだ、と言わんばかりに祐一は反論するが、
「そうね。でも、アンタ馬鹿でしょ? いくら扱いきれないからって原型となった
PTと全く逆のコンセプトで機体を組み上げてどうすんのよ? だったら最初か
ら高機動タイプのリオンにでも乗ってりゃいいでしょうに」
「いや…あの赤くて角のある奴が気に入ったんで」
そう反論するが香月は容赦なく、
「好みで戦場に死にに行く馬鹿はいないわよ」
と、ばっさり斬り捨てられて祐一はさらに落ち込んだ。
香月の言い分は正論である。そもそもアルトアイゼンは高機動戦闘用のPTでは
ない。それを、メインである武装を外してまで機動力を向上させたところで、たか
が知れている。
「まあ、ここに来たからにはそんな甘い言い訳は通用しないと思うことね。うちは
パイロットと機体共に最高の物を用意する事で他と張り合ってるんだから。一人
で十人相手に出来るようになれないなら降ろす様に艦長に言っておくわよ。ほら、
相沢。アンタだけ追加メニュー」
「うげっ! またっすか!?」
「アンタ、実戦で死にたいの? 根本的にフラムの扱い方を身体に叩き込んでやる
のよ。感謝して敬いなさい」
「いや、俺は実戦派なんで…」
「つべこべ言わずにさっさとシミュレーターに入る!」
「へ、へるぷみ〜!」
有無を言わさぬ強い口調で命令する香月。
叫ぶ祐一は辺りを見回すが、既に信哉と武の姿はない。体よく逃げ出したようだ。
香月はくすりと見た者を不安にさせる笑顔でこう言った。
「アンタ、友達に恵まれたわねぇ」
「の、のーーーーー!!」
シミュレータ室に祐一の無念の叫びがこだました。
「何にしてもものすごい腕だという事はわかったよ」
「だろ? あの人ももう少し唯我独尊じゃなきゃ学会の権威にまでなれるんだけど
な…」
逃げ出した信哉と武は香月について話をしていた。彼女――香月は何しろあらゆ
る科学分野のエキスパートである。脳医学からはては最先端の軍事技術に至るまで。
精神面においても技術面においてもパイロットにとってこれほど頼れる人物もい
ないだろう。だが、彼女の反権威的な物言いがたたって彼女は学会において異端児
というか腫れ物扱いで日の目を見ることはなかった。
それだけの知識と技量を持ちながら一自衛団の技術顧問程度の席に落ち着いてい
るのはそう言う理由からであった。
そんな話をしながら歩いていた信哉はポニーテールの少女とすれ違う。両手に
箱を抱え、少しフラフラしながら歩いていたので信哉は声をかけた。
「大丈夫か? 何なら手伝うけど」
「え? あ、大丈夫ですよ」
「そ、そうか?」
箱が大丈夫そうに返事を――否、箱に顔を遮られた少女が答えるが、どう考えても
前が見えないのではないだろうか?
「神尾、無理しないで一つくらい運んでもらえばいいじゃん」
言いつつ、武はひょいと少女から箱を奪う。
「えっと、すみません」
恐縮です、と全身で言わんばかりに少女は頭を下げる。
「いいって気にすんな。んでどこまで運ぶんだこいつ?」
「ラウンジの方に」
「おっけ、信哉も付き合うよな」
「ああ、どうせ一休みするつもりだったし」
武に促されるように信哉も連れ立って歩き出した。神尾と呼ばれた少女も、
ぴょこぴょこ、という表現が似合いそうな感じで歩いてきている。
そういえば自己紹介もしてなかったな、と思い信哉は隣を歩く少女に話しかける。
「えっと神尾さん、でいいのか?」
「うん、私、神尾観鈴って言います」
「そうか、俺は緋神信哉」
「よろしくお願いしますね」
「ああ、こちらこそ。そういえば神尾さんはパイロットじゃないのか?」
「にはは…実技試験で落ちちゃって」
「それでクルーに?」
「はい。友達も頑張ってますから、わたしだけ降りるわけにも行かなくて」
「友達?」
「えっと…遠野さんとかのりんと同じ町の出身なんです」
そこで彼女は前を見た。パイロット以外にもやれる事はある、今の彼女は自分の事を
一切恥じていなかった。そのひたむきさ、前向きな思考は信哉を感心させた。
それとは別に気になった事が信哉の頭に疑問によぎる。
「かのりんって誰?」
「あ、すいません。霧島佳乃って言うわたしの友達なんですけど…」
佳乃だからかのりん、と呼んで欲しいと要求されたという説明に信哉は何となく
納得した。話が途切れたので武が代わりに説明を挟む。
「アンリミテッドも人手不足だからな。神尾の住んでた町で補給したときに
彼女達が志願してきてさ。んで月詠さんの試験をパスしたから乗ってもらったんだ」
「へえ…」
「けど可笑しかったのは、その後国崎さんが来たときだな。あれはもう爆笑もんだった」
「?」
首を傾げる信哉に武はこみ上げる笑いをこらえる様に話す。その様子を何故か苦笑い
混じりに見守る観鈴。
「国崎さんと神尾ってさ付き合ってるんだと。けどな国崎さんやることがあるって
旅の途中なんだ。その途中でアンリミテッドに拾われたわけなんだけど…」
「拾われた?」
「行き倒れて倒れてるのを、発見した。確か…地上での演習してたときだったと思うけど」
演習の時にどんな発見のされ方をしたのかは知らないが、かなり危険な状態では
ないのだろうか。その時の往人の状況を考えるとかなり不安になる信哉だった。
「まああの鳥型のロボットもあるし、三食給金付きで厄介になるって事が決定した矢先に
あの町に寄ったんだよな」
「おい、まさか…」
「そ、国崎さんを拾ったのは神尾たちが入る一週間くらい前。しかも、国崎さんか
らすれば10日ぶりくらいの再会なんだとさ」
「それは…」
笑える。他人事であれば、の話だが。それはさぞかし往人の居心地は悪かっただろう。
彼がどういった経緯で彼女達と別れ、旅立ったかは知らないがたかだか数日で、
思いもよらぬ形で再会すれば、嬉しいという感情より戸惑いの方が大きいはずだ。
いや理由を考えるとむしろ恥ずかしい。
「あの時の往人さん、ものすごい顔してたよ…」
「もう何から口にしていいかわからん、って感じだったものな」
相変わらず苦笑を続ける観鈴と、含み笑いをする武。そんな二人の様子を見て
信哉は心から往人に同情した。人生一寸先は闇、と言うが自分ならそんな気まずい
再会は御免だと心から祈らずにはいられなかった。
――ノアシップ ブリーフィングルーム
信哉たちがノアシップに乗ってから一週間が過ぎた。日々、トレーニングや
整備に明け暮れていた毎日だったアンリミテッドに出撃の命令が下った。
艦長である月詠がモニターの前に立ち、席についているメンバーの顔を見渡し、
「全員揃っていますね。それでは今回のミッションの説明をします」
そう言って後ろのモニターを振り返る。モニターにはそれほど大きくない島の
地図と中央に赤い三角が表示されている。
「実は先程友軍であるデュランダルの石橋少佐から依頼がありまして、本日の
ミッションは宇宙へ向かうこのシャトルの防衛になります」
「何か重要な物資でも積んでるんですか?」
信哉の質問は至極最もだった。月詠は頷き肯定する。
「ええ、デュランダル隊のメンバーの機体と補給物資。そして倉田重工の
試作機などが積まれています」
「成る程」
補給を断つのは戦略では最もポピュラーな方法だ。無人機ばかりならともかく
人間は食べなければ生きていけないし、機械は燃料が無ければ動かない。
「現在、制宙権をほぼRGという組織に掌握されています。ですのでこちらの動きは
向こうには知られているでしょう。よって今回のシャトル打ち上げも、打ち上げる
前に破壊にかかる動きが予想されます」
「RGって何ですか?」
祐一が当然のように質問をした。月詠は頷き言葉を続ける。
「revolution・generation…世紀の革命を掲げる反連邦派の組織の略称です。
現体制の連邦に強く反発する人間…コロニーの人間が中心になって
構成されている武力集団です。現在も地球にかなりの数が降下しており
連邦軍も手を焼いています」
「へえ…全然知らなかったな」
「RGの立ち上げはバフラム戦役に端を発したものですから、相沢様方が
存じないのも無理ないかもしれません」
「けど、何でそれが地球でも幅を利かせてるんですか?」
反地球派なら、補給や基地など様々な問題を抱えるはずだ。特に連邦軍も数だけは
いる。そう易々と占領できるような軍隊でもないはずである。
「実は、一部の企業がRG側についてMSやPTなどかなりの技術を提供している
のです。その為、RGは一気に地球内でも活動が盛んになっているんですよ」
「ああ…」
いわゆる商売が出来れば相手は問わぬ、という体制の企業だろう。良くも悪くも
戦争中というのは軍事産業が最も儲かるのは昔からだ。
そして自分達に火の粉さえ降りかからなければ、儲けるために手段を選ばない、
という企業は沢山あるだろう。
綺麗事で会社は成り立たない、という言い訳を胸に抱いた企業が。
それはさておき、そう言った事情で地球圏は内外に多数の敵を抱えている事を
信哉達は理解した。そこで、と月詠は再び説明に入る。
「かなりの確率でRGの妨害が入る事が予想されます。今回のミッションは無事
シャトルを打ち上げるまでRGの部隊をシャトルに近づけない事です。
なお、敵側の戦力は未知数です。よって空と陸の両方に部隊を配置します」
「…ということは」
ほわーとした感じで美凪が辺りを見回す。
「…私と国崎さんと緋神さんは空ですね」
「まあ、そうだろうな」
信哉は頷いた。ということは地上は祐一達に回るわけだが、戦力を配置した図を
イメージすると、一人がカバーする範囲はかなり広い。
「月詠さん、もう少し戦力はもらえないんですか」
「デュランダルも私達もあまり連邦の上の方々にはよく思われてませんので…」
体よく断られるだろうという言葉を切った月詠だったが、その様子で信哉は
彼女の意図を理解した。要するに勝手気ままにやるなら好きなようにしろ、という
事なのだ。
「ま、何とかやるしかないさ」
「うむ、気持ちで負けていては、勝てる戦も勝てぬぞ緋神」
武と冥夜に励まされ、信哉は頷き返した。
「以上です、まもなく戦闘区域に入ります。各員第一級戦闘配備!」
「「「「「了解!!」」」」」
――シャトル打ち上げ場 上空
「すまぬな月詠艦長。無理を申して」
「気になさらずに石橋少佐。こちらもデュランダルにはお世話になっていますから」
既に出撃した部隊は各々の位置についていた。微妙な沈黙の支配する中、月詠は
通信用のモニターに映る、男性と話をしていた。
質実剛健を絵に描いたような厳しい顔つき、幾多の戦場を潜り抜けた猛者だけが
持ちえる佇まいを持つ剛直な男性、石橋剛三少佐。
デュランダル隊のメンバーの殆どは彼を教官に訓練を積んでいる為、いわば彼は
教え子の為に宇宙に上がるわけだ。
「やはり彼らも戦力不足は否めないようでな」
「マザーバンガードの方は万全なのですか?」
「いや、度重なる戦闘で少々無理が来ているようだ。幸い、彼の息のかかっていない
倉田重工の施設がコロニーにあるそうなので、合流後はそちらに向かう予定だ」
「そうですか、それなら…」
無事に済むと良いですね、という言葉は緊急警戒のサイレンでかき消された。
「周辺に熱源反応! 6時! 8時の方向から来ます!」
「識別は!?」
「コード認証完了! この識別は…RG! 数分で戦闘可能区域に侵入します!」
「解析完了しました。RGの部隊は空はガーリオンタイプ、陸からはギラ・ドーガが
確認されています!」
やはり、というべきか。空と地上からの同時攻撃。RGからすればどうあっても
このシャトルを上げることは避けたいらしい。だが、裏を返せばこのシャトルを上げる
ことが出来れば戦局を大きく変える事ができる。
「…やはり来たか」
「ご心配なく、私達が必ず無事送り届けます。各機、散開して攻撃せよ!」
月詠の号令と共に、待機していた機体が動き出す。ノアシップも戦闘態勢に
移行し、艦内はにわかに騒がしくなった。
「副砲は全てスタンバイ! 広範囲で索敵を! シャトル周辺の敵機情報を常に
最前線の部隊に転送なさい!」
「了解! 各機のモニターにデータ転送します!」
「副砲1番から6番まで使用可能!」
月詠は力強く頷いた。戦闘の準備は整った、何としてもこの宇宙への架け橋を
守らなくてはならない。こんなところでつまづくわけに行かないのだ。
「主砲エネルギー充填開始! 1番から6番全て敵をロックオン! …撃て!!」
ノアシップの艦側部に取り付けられた連装のビーム砲がそれぞれの照準に向いて
ビーム砲を放ち、空のガーリオンを牽制する。それが狼煙となり、周辺は戦闘
状態に入った。
――宇宙への架け橋は果たして架かるのか?
第六話に続く
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