小規模な戦闘だった。RGの偵察部隊と連邦の部隊の接触がきっかけだ。先手を

 打つ事に勝機を見出したRGの指揮官は、部隊に進撃の令を下した。

  周辺は長距離での通信は出来ない、よって援軍が来るのは同じように周辺を警戒

 している部隊だけだろうと判断しての命令だった。それは功を奏し、防衛ラインを

 徐々に押し下げ、周辺からいくつかのMSが集まってきたが、各個撃破されていく。

 「腐りきった連邦に鉄槌を!」

  RG兵が駆るMS、ベルガ・ゼーベが構える大型のショットランサー。いや、そ

 れはただのショットランサーではない、実弾をばら撒くヘビーマシンガン、携帯性

 に優れ威力も優秀なビームライフルとを撃ち分けられる銃身に、ショットランサー

 を取り付けた兵器である。発想はヴァイスリッターが持つオクスタンライフルに端

 を発し、多様性と使い勝手の良さで、RGでも注目を集めている武器だ。

  名を、ドラグーンランス、竜騎兵の槍と名づけられたそれは一撃の元に、数多の

 連邦軍の兵器を葬ってきた。ベルガ・ゼーベのシンボルとも言える武器である。

  ベルガ系のMSの発展型で、RGでは量産体勢に入った主力MSの一つ。本体に

 は特に目立った変更点こそないが、ジェネレーター部の強化、新型エンジンの搭載

 などの、簡単な仕様変更で高スペックが維持できるため、コストパフォーマンスに

 優れている。一撃とはいえ、ドラグーンランスのショットランサーは戦艦の装甲を

 も突き破り、致命傷を与える事が可能な為に攻撃力も申し分ない。

  そのベルガ・ゼーベのドラグーンランスが、銃身から弾丸を撒き散らす。ジェガ

 ンの装甲はあっという間に穴だらけになり、パイロットは反撃を試みるが――

  狙いをつけ引き金を引こうとする前に、ジェガンの持つビームライフルは銃身を

 切り裂かれた。横から、別のベルガ・ゼーベが接近していたのだ。それが振り下ろ

 したビームサーベルの軌跡は、通過点にあったジェガンのライフルの銃身を容易く、

 切り裂いたのである。

 「なにっ!?」

  パイロットの驚愕の声。だが、それが彼が発した最後の言葉となる。動きの止ま

 ったジェガンの胸部、腕部、頭部へと次々にビームライフルのビームが撃ち込まれ
 
 る。白い閃光がRGの兵士の視界を埋め尽くし、ジェガンは壮大な爆発と共に消え

 た。

  RGの兵士達に感慨はない。所詮末端の兵士を殺したところで、連邦に届くわけ

 ではない。彼らの目指すべき敵は、まだ先に。とてつもない階段を駆け上がらねば

 ならない。そしてその過程で――彼らは自らの正しさを主張し、知らしめる。

  唯一つの目的の為に動く、そう言った意味では連邦軍は弱い。上の命令の元、た

 だ駒と化している兵士も多い。目的意識という意味合いでは、RGに連邦軍は遠く

 及ばない。

 「残ったのは俺たちだけか。随分手酷くやられたな」

 「奴だ。そこらの周辺警備にエースが混ざってるとは誤算だった」

 「おまけにあの、デュランダルも合流したか。予想以上に動くのが早かったな」

 「だが、あそこの奴は孤立無援。損傷率も50%オーバー……」

 「勝機! 奴だけでも何としても落とすぞ!」

 「承知。宇宙の民の未来のために」

  二機のベルガ・ゼーベは反転し反応のあった地点に向かう。孤立し、戦闘を行っ

 たのか、機体にやや傷のあるジェガンが一機そこにいた。

 「くっ…新手か…」

  そのジェガンのパイロットである南は、接近してくるMSのスピードから逃げる

 事は出来ないと判断した。ディスプレイで機体の状態を確認する、残弾数は5割を

 切り、装甲の損傷も激しい。おまけにショットランサーを温存した二機。どう考え

 ても自分に分がない。生き残る可能性は――考えそうになって慌てて思考を切り替

 えた。

 (デュランダルが来ている…)

  その事は南の気持ちに影を落とす。たとえ戦果を上げたところで、彼らの活躍の
 
 前に霞むだろう。連邦では、自分の功績は認められない、たとえデュランダルであ

 っても、生き残った事を喜びこそすれ、自分の戦果を称えてくれる者は居ない。

 ――あそこには自分以上の人間がいるから それ以上でなければ何も――
 


エクシードブレイブス 第14話


喪失の恐怖 忘却の恐怖




 (それでも…死ぬのは…イヤだ)

  短い、本当に短い葛藤の末、南はレバーを手に取り眼前の敵に目を向けた。とに

 かく距離を取る。あのショットランサーは強力だ。かなりダメージの残った装甲と

 戦艦クラスの装甲をも貫ける威力を考えると、直撃すれば死は免れない。ビームラ

 イフルで牽制しつつ、南は味方のいるだろう方向へと下がる。デュランダルに頼り

 たくはないが、それと死ぬのとどちらが嫌か――考えるまでもない。

  それでも出来る限り自分の力で足掻こうとする決意は薄れてはいなかった。

  RGの兵士達は、その南のジェガンを追いつつも、その挙動を観測している。ジ

 ェガンの動きから、相手の行動を予測し作戦を立てるつもりだ。

 「いい判断だ。連邦の名のあるエースに違いない」

 「生かして帰すと面倒だ。何としても落とすぞ」

 「俺がフォワードに付く。援護は任せた」
 
 「了解」

  RGの兵士達はそれだけの言葉を交わすと、即座にフォーメーションを組んだ。

 もっとも二機しかいないのだから、どちらが前でどちらが後ろか、それくらいの違

 いしかないのだが。常に作戦の打ち合わせを行い臨機応変に対応するRGの兵士と、

 功を焦り単独行動の目立つ連邦軍の兵士との差は、時に数の上での戦力差を覆して

 きた。

  事実、十数体近く保有する連邦軍の小隊に対し、襲ってきたRG側は僅か7機。

 数の上でだけで圧倒的有利と判断し、陣形を立て直しもせず、我先にと乱戦に臨ん

 だ連邦軍のジェガンが出足の早い順から撃墜されていく姿は、第三者が見れば実に

 滑稽に見えただろう。

  そんな中だったので南の腕は余計に際立って見えた。武器や、頭部など確実に相

 手の戦力を削げる点をピンポイントで狙う攻撃や、自分の間合いで戦い、決して相

 手の土俵には極力上がらない距離を保つ術など、決して派手ではないのだが、非常

 に効果的な攻撃を正確無比に積み重ねて敵を撃破していく姿が、敵であるRG側の

 兵士にも一目置かせる結果となった。

  とはいえ、技量で戦力差をカバーするにも限界がある。機体性能の差に、2対1

 という不利な状況。加えて、損傷を重ねた自分の機体のカバーと、一人で覆すには、

 不利な条件が揃いすぎてしまった。何とか時間を稼ぎたかったが、既に相手のライ

 フルの射程に入ってしまっている。南は逃げるのを諦め、何とか1対1の戦闘に持

 っていくべく覚悟を決めた。

  振り向き、自分達に対峙する姿勢を見せるジェガンを見て、RGの兵士は南の覚

 悟を感じ取った。

 「気をつけろ、奴はやる気だ」

 「ああ」

  バーニアを吹かしさらに速度を上げて、ベルガ・ゼーベはジェガンとの間合いを

 詰める。牽制にマシンガンを撃ちながら、その機動力を生かしベルガ・ゼーベは縦

 横無尽に移動しつつジェガンに接近する。ジェガンもまた相手の動きに合わせつつ

 ビームライフルを撃つが、互いに弾丸は当たらない。

  ジェガンはやや右方向にスライドしつつベルガ・ゼーベの直線状の軌道から外れ

 つつ射撃を行う。

 (もう少し…もう少し左にずれろ…ッ…!)

  南の狙いは、前衛をつとめるベルガ・ゼーベと何とかサシの勝負に持ち込むこと

 だった。その為には邪魔を入れさせないための手段が必要だ。そんな奇策が唯一つ、

 南にはあった。後方の一機が射線軸をずらす。援護射撃は十分に行えるほど広い視

 界――のはずだった。

 (今しかない!)

  南のジェガンはバーニアを点火し、一直線にベルガ・ゼーベへと特攻する。前衛

 のベルガ・ゼーベは迎撃するがライフルは紙一重で避けられる。ぐんぐん縮まる距

 離に、後衛のベルガ・ゼーベがジェガンを狙うべくライフルを構えるが、前方に突

 如巨大な岩石が現れた。

 「な――にッ!?」

  勿論、それは何もない宇宙に突然現れたわけではない。大なり小なり、宇宙空間

 には小惑星とも言われる岩石が遊している。たまたま漂っていた岩石がベルガ・ゼ

 ーベの前を通り過ぎた、というだけだ。

  無論それは単なる偶然ではない。周辺の状況をからこの状況を作り出したのは、

 ベルガ・ゼーベを誘導した南の作戦に他ならない。

  これは想像以上に効果的だった。何故なら、このタイミングで視界を防がれる

 という事はすなわち援護を断たれたという事だ。当然前衛のベルガ・ゼーベは後方

 を隕石が通過したなど知る由もない。

  期待したはずの援護がなかった――それだけでも連携は脆くも崩れる。本人に、

 襲撃者を撃退できる余裕がなければなおさらだ。

  本当に通過したのは一瞬だ。だが、その一瞬こそ戦場では命取りとなる。数秒に
 
 満たぬ間に塞がれた視界が開けた時、そこには。

  ビームサーベルで貫かれたベルガ・ゼーベの姿があった。

  ジェガンがサーベルの露払いをするとベルガ・ゼーベはしばし震動した後に、爆

 発と共に宇宙に散った。その機を逃す事はない。完全に動きが止まったもう一機の

 ベルガ・ゼーベに向けて、ジェガンはビームライフルを撃つ。

  完全に虚を突かれ、反応が鈍ったパイロットは回避行動をとる事は出来なかった。

 初弾が命中し、ぐらりと全体のバランスが崩れさらにニ撃目が、ドラグーンランス

 を撃ち抜く。これでベルガ・ゼーベはほぼ無力になった――かに見えた。だが、R

 Gのパイロットは最後の最後で、ドラグーンランスのトリガーを引いた。

  ジェガンの撃ったビームとドラグーンランスのショットランサーが僅かにすれ違

 う。咄嗟に南はレバーを倒しジェガンを右にスライドさせる。対してRGのパイロ

 ットは、動けず――ビームはベルガ・ゼーベを撃ち抜いた。

  迫るショットランサーは、ジェガンのスライドする速度よりも僅かに早く、ジェ

 ガンの左腕をかすめる。直撃は避けたが、左腕はそのままランサーにもっていかれ、

 後方で炸裂音が響いた。

 「くっ…何とか…なったか」

  だが南もジェガンもボロボロだ。コンソールにはエラーの表示が埋め尽くされ、

 ビームライフルの残弾数は0。エネルギーも殆ど残らず、加えて南自身が精神的に

 ボロボロだった。

 「後は…どっちが先に来るか…か。はは…どうでもいいけどな」

  たとえどっちが来ようとも、自分にできる事はもう――ない。
  
  かろうじて動作するレーダーに数期の熱源反応がある。一機は識別不能だったが、

 複数存在する機体は全て、たった今入手したばかりのデータと一致した。

 「――敵が先か。デュランダルも存外大した事ないのか」

  ベルガ・ゼーベを率いた敵機、今自分が闘ったのが先遣隊だったのか、あるいは、

 陽動か。どちらにせよやはり今の南にとってさほど関心のある事柄ではない。

  やや遅れて接近しつつある熱源反応。見慣れた連邦軍の識別コード。この速度な

 ら、この周辺でRGの本隊とデュランダルがやりあうのだろうことは容易に予想で

 きたが――

 「ま、精々勝手にやってくれ」

  自嘲気味に南はそう呟いた。諦めとも違う、どこか空しさの漂うそんな声で。


 浩平たちが戦場についてみると、既に戦闘は終わっており、残骸だけが周囲に漂っ

 ていた。つまり、双方全滅である。

 「くそっ、全滅か!」

  浩平は憤りを隠せない声で怒鳴った。

 「……秋子艦長、生存反応はないのですか?」

 「どう、真琴?」

  茜の問いに秋子は砲撃主でもある真琴に周辺のスキャンをさせている。耳をピコ

 ピコ、尻尾を左右に揺らしながら、真琴はモニターの隅から隅まで目を走らせる。

 「うーんっと、距離2000のところにMSの反応がぽつんとあるよ!」

 「生存反応はどうかしら?」

 「あるから、パイロットは生きてるんじゃない?」

  随分と乱暴な物言いの真琴だったが、それに秋子はやや首を傾げた。

 「あら…それならどうして救難信号が出てないのかしら」
 
 「えっと…どうしてだろ?」

  二人そろって首を傾げている秋子と真琴。その間に、オペレーターが、通信で呼

 びかけるが、

 「艦長、ダメです。応答ありません」

 「意識を失っているのかもしれませんね。。佐祐理さん、舞さん、お二人に救出を
  お願いしてもよろしいかしら?」

  それに答えるようにマザーバンガードのハッチが開いた。そこから急加速で発進

 する、白銀の白い戦闘機。

 「あははーっ、了解ですよ、艦長ー」

 「……了解……」

  可変式LEVと呼ばれ、バフラム戦役を戦い抜いたとされるビッグバイパー。そ

 の設計図を何処からか手にいれ、倉田重工が作り上げた初の可変式OF。

  LEVとは火星圏での作業用ロボットの略称で、一応戦闘用のシリーズも開発さ

 れているがOFは元より、MSやPTなどに遠く及ばないほど機動性、柔軟性に欠

 け、バフラム戦役の時代からあまり戦力としては数えられるほどではなかった。

  そんな中、ビッグバイパーはパイロットの技量もあるがOFに劣らない機動性と

 戦闘力でバフラム戦役を駆け抜けた機体である。ある意味、ここに来てようやくL

 EVも実戦レベルに到達したと言えるのだが、その後発展を見ることなくOFや軍

 縮解除後のMS・PT・特機に埋もれていってしまった。

  一重にLEVがOFや旧世紀の名機に劣るのは、その合金技術の低さにある。そん

 なLEVをどうして開発したのかと言うと、そこには軍縮協定の複雑な事情がある

 のだが、それはさておき――倉田重工はLEVの最高傑作となったビッグバイパー

 の機体部分の大半をメタトロンに置き換え、機動性の強化と可変時の負担と衝撃を

 大幅に減らす事に重点を置いてOFに進化させた。

  パイロットには当然、人型時と戦闘機時の操作方法を覚える必要があったが、複

 座式で、それぞれの形態時にそれぞれのパイロットを割り振る形にする事で、パイ

 ロットの負担も減らしている。

  ただそれでも癖の強い機体であったことに変わりはなく、テストでこの機体のパ

 イロットに合格したのは、倉田の長女、佐祐理と彼女の友人である川澄舞だったの

 である。

  人型と戦闘機形態を上手く利用し、変則的な戦闘スタイルを必要とするこのOF

 を二人は、何とか乗りこなしている。

  戦闘機形態のビッグバイパーが飛び立った直後、オペレーターがレーダーに別の

 反応を見つけた。複数の熱源反応、明らかに部隊と思われるそれを。

 「艦長! 10時の方向に複数の熱源反応あり! 一機はデータ照合なし、複数の
  熱源の方は先程接触した機体とデータが一致します!」

 「では、RGの部隊でほぼ間違いないでしょうね。各機、迎撃せよ!」

 「了解!!」

  秋子の号令の元、マザーバンガード周辺で陣形を組んでいたデュランダルの面々

 はやや、速度を上げて進撃する。

 「よし、先手はオレが貰うぜ!」

 「……どうして浩平が、先陣を切っているんですか!」

 「馬鹿者! 戦闘中に己の役割を履き違えるとは何事だ!」

 「す、すいません」

  茜と石橋、両方に叱咤を受け浩平はコックピットの中ですごすごと縮んだ。その

 間に、石橋のグラディエーターが前に出て、浩平のνガンダムはやや後方へ下がる。

 「……折原…アンタ長生きするわよ」

 「本当にね。でもひかり? この後こだまに怒鳴られるんじゃない?」

 「あー、そうかもねー。あの子、そう言う部分には容赦ないから」

  しみじみとひかりと雪見が呆れる。お調子者の烙印は今に限った事じゃないが、

 説教がくどくて長い、ひかりと雪見の友人である里見こだまに怒られるのは、ちょ

 っとだけ憂鬱になる浩平だった。

 「あの小さい身体で、ぷんすか怒られてもなあ…」

  本人が聞いていたらますます怒らせるような事を呟きながら、浩平は所定の位置

 である陣形のやや中央にνガンダムを陣取らせるのであった。

 


 「マスタッシュ大尉、どうやら双方全滅の模様。先遣隊、連絡付きません」

 「そうか…少し遅れたからな。同志達には悪いことをした」

  特機とPTの中間サイズの機動兵器のパイロットは静かに淡々と呟いた。黄色の

 カラーリングに無骨な腕と太目の脚部、しかし間接などは人間に近いまでに動かせ

 る柔軟性と硬性を兼ね備えた金属で構成された格闘タイプのロボット。

 「仕方ありません、大尉のサーペントの調整が間に合わなかったのですから」

 「とはいえ、このまま引き上げるわけにも行くまい。周辺に敵機の反応はあるか」

 「はい、ここから距離2000の位置に、連邦軍の識別コードを確認。どうやら、
  偵察隊の生き残りのようです」

 「ふむ…状態はどうだ?」

 「いつもながら腹の具合が良くありません」

 「馬鹿者! 誰がお前の腹の具合を訊いた?」

 「す、すみません、腹が鳴ったものでつい! 機体は著しく損傷しておりとても戦
  闘が出来るとは思えませんが、生存反応はあります」

 「まったく……。ジョニー、お前が拿捕に向かえ。何か情報を聞き出せるかもしれ
  ん。それと、腹が弱いなら胃腸薬を飲んでおけよ」

 「はっ、了解です!」

  編隊を組んで移動中のベルガ・ゼーベの集団から一機、コースを外れて動いたも

 のが、南のジェガンへと向けて発進する。

 「大尉! 2時方向より戦艦クラスの熱源反応を確認! こいつは…マザーバンガ
  ードです!」

 「やはり、この周辺を探っていたか。敵ながら見事」

  マスタッシュはニヤリと無精ひげの生えた口元に笑みを浮かべた。

 「仕掛ける、仕損じるなよ新米ども!」

 「了解!!」

  一際大きい声で返事をし、ベルガ・ゼーベは各自散開する。しかし互いに援護が

 出来る距離を保ち、陣形としての役割を整えている動きは訓練の賜物だろう。

  そんな中、サーペントは少しベルガ・ゼーベから離れた位置へ向かって移動する。

 それを見た一人の兵士がサーペントのパイロットに通信を開く。

 「大尉? どちらへ?」

 「なに、少し挨拶をしておこうと思っただけだ」

  その声に抑揚はない。しかし、口元には相変わらずの笑みが。何に喜び、何が彼

 を高揚させるのか、それはまだわからない。

 「旧友と教え子に――な」

                             第十五話に続く

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