「緋神、右だ!」

 「わかった、そっちは任せる!」

  往人に指示を受け、信哉はクラウ・ソラスを右方向へ旋回させ、シャトルへ急襲

 するガーリオンの本体目掛けて接近する。

 「こっちへ来るか!?」

 「やらせるかっ!!」

  相手に反撃の隙など与えぬ特攻、振り上げられたブレードは右腕の動きに合わせ
 
 て縦横無尽に振るわれ、さほど強靭でもない相手の装甲を容易く切り裂いた。

 「機体損傷98%…99…ダメだ! 脱出する!!」

  爆音とともに煙をあげ、地上へと落ちていく残骸に目もくれず、クラウ・ソラス

 は次の標的へと向かう。

 「5時、8時方向に増援です! ガーリオン急速接近中!」

  先程からノアシップのオペレーターからの通信は止む事がない。地上もそうだが

 空からの敵機は思わぬ性能を有していた。

  ガーリオンに取り付けられているのは改良型のテスラ・ドライブなのだ。元々、
 
 戦闘機からの派生型であるリオンシリーズは特に高い機動性を持っているが、今回

 襲撃してきたガーリオンはその高い機動力にさらに磨きがかかっている。

  現状、重力下とはいえOFと同等の機動性能を発揮できる人型汎用機動兵器は、
 
 このガーリオンのカスタムタイプといっても過言ではないだろう。

  エネルギーフィールドを展開し、音速に近い速度で機体をぶつけてくるソニック

 ドライバーはまさにPTの形をしたミサイルだ。特機クラスの装甲ですらやりよう

 によっては貫くだろう、その凶器がクラウ・ソラスに襲い掛かる。

 「5時のは俺が行く! 国崎さん、8時のは任せた!」

 「ああ、わかった。ちっ…これじゃいずれ押されるぞ……!」

  『空』がその巨体に似合わず優雅に小回りをして方向を変えて飛んでいく。クラ

 ウ・ソラスはその場で素早く後ろを振り返る。今まさに、クラウ・ソラスに突貫せ

 んとばかりにガーリオンが空を切り裂きながら向かってきていた。

 「生憎その程度で…」

  クラウ・ソラスは右手を掲げ、瞬時に巨大なエネルギー球を作り上げる。そのサ

 イズ、まさにガーリオンを飲み込める程の大きさだ。

 「落ちてはやれねえよっ!!」

  ガーリオンの速度は確かに速かった。だが、それより僅かに反応した信哉の対応

 の方が勝った。

  突き出すような勢いで、クラウ・ソラスはその右手のエネルギー球――バースト

 ショットを放つ! 

  既に高速で移動しているガーリオンにそれを避ける術はなく――また一機の機体

 が地上へと落ちていく…。



エクシードブレイブス 第6話


Dark Knight




  一見、個々が獅子奮迅し、優勢に見えるアンリミテッドだが状況は明らかに追い

 込まれていた。シャトル周辺に近づく敵機の数が徐々に増え始めている。たかだか、

 一部隊の補給を断つためにここまで戦力を投じるとは意外だ、と月詠は思っていた。

  デュランダルは確かに現在の連邦軍の勢力において無視できない部隊なのは間違

 いない。だがRGという組織全体で考えれば、本来ホームグラウンドである宇宙で

 の展開を大きく妨害している、連邦の主力部隊の方をマークすべきだ。

  実際連邦軍は地上でこそRGの行動を許しているが、宇宙方面で展開している戦

 闘においては、RGを退けている。宇宙でのRGは地上の部隊の支援、及び連邦軍
 
 の軍事行動の妨害というレベルに留まっている。

  地上での活動を効果的に広げているのでRGと、宇宙での戦闘を有利に展開して

 いる連邦軍との関係は傷み分けという状況なのだから、ここらでバランスを崩した

 いというのは理解できる。

  しかしそれならば何故ここでデュランダルが標的になるのか。現在、地球での行

 動は情報を宇宙側から統括しているRGに大きな分がある。デュランダルは、所詮

 連邦軍の一部隊に過ぎない。既に30に届く機体をアンリミテッドは撃墜している

 が、そこまでの戦力を投下してまで妨害しなければならない程、RGはデュランダ

 ルを重要視しているというのか?

  そう考えると、月詠は大いに疑問を感じざるを得なかった。

 (何か他に裏があるのでしょうか…或いは…)

  今は考えたところで結論は出ない。どちらにせよ、RGがこの作戦を重要視して

 いるというのであれば、ますますシャトルを無事に送り届けねばならない。

 「シャトルの発進まで、後何分ですか!?」

 「点火5分前です!」

  5分、言葉にしてしまえばなんとも短い時間だがそれは限りなく遠い時間に思え

 る。現状で、5分の間シャトルを守り抜くのは少々厳しい。既に防衛ラインが大分

 シャトルよりまで下げられている。大立ち回りの得意なメンバーが多いので健闘し

 ているが、どこか一角が崩されれば脆くも崩れ去る砂上の楼閣も同然。

  敵がこのまま物量作戦で来るならばもたせられるだろうが、果たしてそう上手く

 いくだろうか?

  その月詠の不安は最悪の形で的中する事になる。

 「か、艦長! 6時方向から熱源反応です!」

 「何ですって!? 識別急げ!」

 「解析完了、パーソナルトルーパータイプ! 一機です!」

 「一機…?」

  しかし、その一機はオペレータ達を一瞬にして驚愕させる。

 「な…何このスピード!? ガーリオンを遥かに…」

 「識別完了しました! PTX−015L…ビルトビルガーです!!」





 ――シャトル発着所

  それは――正しく風だった。

  機体の接近に気付き、祐一がフラムベルクを振り向かせるのと同時に、それは視

 界に入った。

 「ちっ、新手か!」

  高速でしかも真正面から向かってくるパーソナルトルーパー・ビルトビルガー。
 
 モチーフにしたアルトアイゼンのコンセプトを受け継いだ機体としての知識は、祐

 一の頭にも入っていた。

  テスラドライブを有し、スリムなフォルムをした近接戦闘用の高速型PT。

  鳥にも似た翼を広げ、その白と紺のカラーの機体がフラムベルクに向かって突進

 してくる。

 「真っ向勝負か、受けて立つ!」

  水飛沫を撒き散らしながら海面スレスレを飛行していたビルトビルガーが、地表

 に上がる。その水際でフラムベルクは射程内にビルガーを捉えた。

 「セイバー! 切り裂けっ!!」

 右手に構えたフェイズセイバーを大きく振り上げ、移動速度のスピードを乗せて、

 振り下ろす!

  ビルガーはさらに一歩踏み込んで、右手の大きなハサミ――クラッシャーの甲で

 刀身ではなくフラムベルクの腕を受け止める。ガキン、と鈍い音を立ててフラムベ

 ルクの腕が止まる。

 「くっ!」

  瞬時にフラムベルクは半歩下がって距離を取るが――それは祐一の判断ミスであ

 った。


 「甘いな相沢。ここは引くよりも押すべきだ、お前はいつもここ一番での押しに弱
  い。詰めが甘い、とも言うな」

 「……! その声は…!」

  あえて、通信の主は公開通信の回線を使った。当然、その声は信哉をはじめ、他

 のメンバーにも聞こえている。

  半歩下がった事により、ビルガーは十分な加速距離を得た。左手のガトリング砲

 に仕込まれたコールドメタルソードを抜き放つと、祐一が次の一手を考えるより先

 に、ビルガーはフラムベルクの眼前に迫っていた。

  遠慮なく叩き降ろされる剣、縦、横と十字を刻んだ剣閃はフラムベルクの装甲に

 大きな傷跡を残す。

 「うあああっ!!」

  その震動はコックピットを揺さぶり中の祐一にも衝撃を与える。コンソールには

 損害は微小とある。重要な計器類や破損は無いが、今の動きで目の前の相手がまぎ

 れも無い自分のよく知る人物だとわかり、少なからず祐一は動揺していた。

 「北…川…!」

 「懐かしい機体を見て前に出てきてみれば、やはりお前か。で、上にいるのは緋神
  か? あそこを出ていたとはな」

  祐一は答えず、変わりにフラムベルクのブーストを点火した。その動きに気付い

 た北川もビルガーを高機動モードに移行させる。ビルガーの背中のウイングが展開

 し上空へと飛翔する。フラムベルクも追って飛翔する。

  だがそれは――

 「いけません、地上の防衛ラインが…!」

  月詠の声に祐一がはっと気付く。しかし、そこへ武が、

 「気にするな、お前はそいつを追え!」

 「う…いや、けど」

 「因縁吹っかけられて、引き下がってんじゃねえ! こっちは任せろ!」

 「…! 悪い、頼む!」

  一言断ってから祐一は改めて上空のビルガーに目を向ける。ビルガーはこちらに

 視線を向けたまま、何故か空中で静止していた。まるでフラムベルクが来るのを、
 
 待っていたかのように。

 「どういうつもりだ北川! 何でRGにお前がいる!?」

 「どうもこうも、オレは元々コロニー出身だ。何か不都合があるのか?」

  叫びと同時に放たれるフラムベルクの斬撃、それを軽く流す北川の言葉のように、

 ビルガーはひらりと躱す。

 「けど…!」

 「言っておくが、RGを一方的に悪者にするなよ? 一応大義名分もあるし、筋は
  通っている。お前に文句を言われる筋合いはない」

 「……!」

  北川の言う事は正論だ。RGの目的はやる事こそ過激だが、要はコロニーの独立

 運動のようなものである。圧制を強いられたコロニーの民が横暴な地球連邦に対し

 て反乱を起こす、立ち上げの経緯は聞いているが、こうして目の前にいる人間から

 告げられると、なんと重い言葉なのか。返す言葉を祐一は失ってしまった。

 「けどまあ、理屈じゃないよな。RGもそれなりに無関係の奴らを巻き込んでるし。
  先に地球の奴らがやったからって理由にはならねえか」

 「…北川…!」

  憤りは感じる、返したいという怒りもある。けれど、祐一には返す言葉が出てこ

 ない。彼は知らないからだ、何が正しくて何が正しくないのか。

  外へ出てから二週間程度。得てきた情報の真偽を確かめるには時間が少なすぎる。

 或いは正義は向こうにあるのか。いや、それともそもそも正義などというものを掲

 げていたのだろうか自分は。

  様々な状況がぶつかる中、祐一はますます混乱する。そしてその迷いは機体の操

 作に現れ、大振りで雑な攻撃はビルガーを掠めもせず、狙いもつけない射撃は、避

 けるまでもなく弾丸が逸れていく。

 「なあ、相沢。オレはそんなお前を確かめに来たんじゃないんだがな」

  明らかにイライラした口調で北川が咎める。意外な言葉に祐一は疑問の表情を浮

 かべた。

 「正直、正義がどうとかそんなものお前に関係あるのか? お前はただ後ろのシャ
  トルを守りたい、オレは命令だからシャトルを落としたい。そしてその為には互
  いが邪魔だ。だから戦う、それでいいんじゃねえの?」

 「北川…お前は」

  ただ、戦うために来たのか俺と。祐一はその言葉を口には出さず目で問いかける。

 モニター越しに北川が笑うのが見えた。

 「はっ、いい面だ。そうだよ、面倒な理屈も、理由もオレ達には要らない。ただ、
  感じたままに行動するだけだ。それが正しいのか正しくないのかは後で考えれば
  いい、そうだろう?」

 「ああ――そうだったな」

  まだ、あの牢獄のような研究所にいた頃。がむしゃらに生きる事だけを考えてい

 た。自分が何を望み、何のために行動するのか。

  理由は最初に要らない、後付のような理屈も入らない。ただ――今そうしなけれ

 ばならないと思ったからそうするだけだ。

  それは――北川の口癖だったのだ。

 「研究所以来だな、勝ち星は貰うぜ」

  にやりと笑みを浮かべる北川。

 「上等だ。この剣の錆にしてやる!」

  不適に返す祐一。だが、北川は呆れたように呟いた。

 「……お前のビームセイバーは錆びるのか?」

 「う、うるさい! 言葉のあやってやつだよ、馬鹿!」

 「どうやら馬鹿だけは変わってないようで安心したぜ。行くぞ!」

  クラッシャーが大きく開く。獲物を喰らう、ビルトビルガーの得意武器。

  セイバーが水平に構えられる。標的を切り裂く、フラムベルクの必殺の剣。

  二機がブーストを点火させるのはほぼ同時だった。そして最高速に達するのも、
 
 ほぼ同時。

  だが、速度はビルガーの方が上だ。いくら突進力を強化したところで最高速は、

 高機動タイプには決して及ばない。だから、フラムベルクが確実にその牙を突き

 立てるには――

 (クラッシャーの機動を見切って…断つ!)

  肉を切らせて骨を断つ。クラッシャーは単に機体を挟み込むだけでなく、強力な

 炸裂弾を至近距離で炸裂させる事により、挟んだ箇所を破壊するのが真髄。

  すなわち、コックピット部分に喰らいつかれたらそれだけで一撃必殺に相当する。

 アルトアイゼンのリボルビングステークのような質量は無いが、確実に獲物を潰す

 ための武器としては、見事にそのコンセプトを受け継いでいるといえよう。

  逆に言えば、破損されても構わない箇所でならクラッシャーを受けても致命傷に

 はならない。それが出来なければ祐一の敗北は決定する。

  正しく一か八かの勝負、速度で劣る分、先手を取れない祐一のかなり分の悪い勝

 負である事は否めない。

  けれど、心のどこかで高揚を感じる自分がいる事に祐一は気付いていた。先程は

 戸惑ったが、北川は研究所を出ても北川のままだった。敵味方で分かれたのは、多

 少ショックだったが、仕方の無い事だ。自分は地球、相手はコロニー。立場が違え

 ば立ち居地が変わってしまうのは当然のことなのだから。

  それでも――勝つ為に自分の動揺を突く事を良しとせず、北川は言葉一つで自分

 の動揺を打ち消した。どこかフェアな自分を気取る、それが祐一の知る北川だった。

  負ければ奴は遠慮なく命をとるだろう、だがそれはお互い様。自分も積極的に、

 コックピットを狙うつもりは無いが、当たってしまえばそれまでの事。

 「死んでも恨むなよ、北川ぁっ!!」

 「お互い様だ、相沢ぁっ!!」

  命のやり取りをするはずなのに、何故こうも頬が緩むのか。自分は変なのか、相

 手は知人だ。これは殺し合いだ。そう考えるはずなのに。

  ――どうして互いに笑みを浮かべているのか、祐一はとても不思議だった。

  フラムベルクとビルトビルガーが交差する。先に伸びた攻撃は――ビルガーだっ

 た。

 「もらったぁっ!!」

  フラムベルクの胸部、限りなくコックピットに近い部分を狙う死神の一撃。刹那、

 祐一はギリギリの局面で左腕を突き上げた。

  広げられたハサミは、フラムベルクのチェーンガンごと左腕をがっちりと掴んで

 いた。ここならば炸裂したとしても致命傷には至らない。もっとも腕がごっそりな

 くなれば夕呼に何を言われるものか、と少しだけ冷や汗がよぎったりもした祐一だ

 った。

 「ちぃっ! 狙いが馬鹿正直すぎたか…!」

 「うおりゃあっ!!」

  位置的にコックピット付近を狙うには届かない、ならば相手の武装を奪う! そ

 の発想が瞬時に祐一の頭に閃き、フェイズセイバーはビルトビルガーの右腕を、一

 刀両断に斬り捨てる!

  しかし、僅かに切っ先が腕に食い込む程度で止まる。切り裂くにはやや踏み込み

 が足りなかったようだ。

 「甘かったな、相沢」

 「いや――予定通りだ」

  銃声のような轟音が響き、フラムベルクが何かの反動で後方に下がる。ビルガー

 にはフラムベルクのセイバーの切っ先が突き刺さっている。

  柄から切り離された刀身は既に刃の形を保ってはおらず、膨らむ風船のようにじ

 わじわと巨大化していく。

 「膨張反応…!? しまったコイツは…!」

  北川がそれの意図に気付いたが時既に遅し。臨界点に達した瞬間、爆音と共に刀

 身であったものは爆発し、ビルガーの右腕を木っ端微塵に吹き飛ばした。

  切断面からケーブルや火花が散り、ビルガーの右腕は遥か下の海のほうへと落下

 していく。ここに勝敗は決した。右腕無くしてはソードを抜く事も敵わない、貧弱

 な中距離用のマシンガンやチェーンガンではフラムベルクを落とすには至らない。

  これが、夕呼の用意したフラムベルクの『隠し玉』である。ガンブレードの、リ

 ボルバーにはフェイズセイバーの刀身用のカートリッジが装填されてあり、トリガ

 ーを引く事で、今のように刀身を銃身から撃ち出す事が可能なのだ。

  加えて刀身はおよそビームライフル十数発に相当するエネルギーを固定圧縮して

 あるため、刀身という形を維持する銃身から解き放たれるや否や、そのエネルギー

 は行き場を求めて膨れ上がる。臨界点を突破すればどうなるかは――ビルガーの姿

 が物語っている。

 「そんな切り札があったとはな…」

  北川が悔しそうに呻き、ここに祐一は勝利を確信した。

 「これで勝ち星一つだな」

  セイバーを突きつけ、高らかに宣言する祐一。だが、

 「ああ、そうだな。――但し、オレの勝ち星だ。」

  そう慢心させる事が北川の本当の狙いだと――今、気がついた。

  ビルガーがフラムベルクの遥か上を飛ぶ。右腕を失った事でややバランスが悪い

 ようだが、その速度は落ちてはいない。北川が見事に速度を維持させている。

  ビルガーの周囲は音速の衝撃波に包まれ、その威力はガーリオンのソニックブレ

 イカーに匹敵する。いや、硬度を考えればそれ以上か?

 「なっ…!?」

  驚愕の声を上げる祐一。だが遅い、初速から最高速に至るまでの時間はフラムベ

 ルクは致命的なまでに遅い。既に最高速を突破しているビルガーの攻撃を避けれる

 はずもない。

  高機動モードの最高速をもって、その機体とウイングの切れ味と衝撃波で敵を粉

 砕するビルガーの奥の手。

 「切り札は先に切るもんじゃないぜ、相沢。これが俺のビルガーの切り札――ビク
  ティム・ビークだ」
 
  上から下に、下から上に、右から左に、左から右に。目視出来ないほどの速度で、

 フラムベルクに体当たりし、装甲を削っていくビルガー。

  その度にフラムベルクは反動でよろめき、完全に空中でお手玉にされている。

 「ぐあああっ!!」

  その度に、眩暈がするような衝撃が中の祐一を襲う。既に視界は定まらず、フラ

 フラと乗り物酔いでも起こしたかのような気持ちの悪さが祐一を支配する。

  機体の操作もままならず、空中で静止しているフラムベルクに、ビルガーは止め

 の一撃を見舞うべく、やや距離をとる。

  最高速に達したウイングで切りつける、ビクティム・ビークの締めの一撃だ。喰

 らえば、今のフラムベルクなら容易に切り裂かれるだろう。

 「ぐ…くそ…っ!」

  コンソールには既に装甲が80%以上破損しているメッセージが表示されている。

 だが、ビルガーのあれは直進攻撃ではない。フラムベルクが移動すれば当然、方向

 を修正するだろうし、紙一重で避けようと思えばビルガーの周囲に発生した衝撃波

 で粉砕されるだろう。既に向かってきているビルガーを迎え撃つ余裕が今の、フラ

 ムベルクにも祐一にもない。

 (万事…休す…か)

  今、百舌の嘴が獲物を捕らえんと迫る中、祐一はそれを只見ているしか出来なか

 った。

                             第七話に続く

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