エリコ○6才 〜小さいってことは便利だね〜



        作者 エルラ
        原作 Key・みずいろ



 
 
 別にこれといって栞に文句があるわけじゃない。
 ていうか、大人しくて献身的で、おまけにかわいいときているのだから彼女として申し分なしだ。
 それに文句を言ったら、あのおっかなそうな姉と付き合いだした北川が哀れ……
 いや、それは言わないでおいてやろう。
 あいつは尻に敷かれる趣味があるのかもしれないし、それを変態とか俺に言う資格はない。
 それであいつを変態よわばりするなら、俺だって同類だ。
 と、北川と香里のことは置いといて……
 はっきり言って栞は俺にとってもったいないくらいの彼女だ。
 クラスに弁当を時々持ってきてくれる時も、とても礼儀正しいので俺としても鼻が高い。
 内面的にも外面的にもしっかりしている。
 そんな栞に不満などあるはずがない。
 というか、不満なんかあったらバチが当たりそうだ。
 しかし、俺は最近少し不満を持っている。
 いや、不満って言うか我儘だな。
 その我儘とは……

『いじめてみたい…』

 そう、あの純真そうな栞をいじめてみたいのだ。
 もちろん、いじめるとはいつものようにからかうことじゃない。
 言い換えると『汚してみたい』というさっきの北川以上かもしれない劣情を抱いているのだ。
 具体的には、今手元にあるもの……

 エッチなビデオを栞に見せてみたいわけだ。

 怒るかもしれないが、それでもこれを見て顔を真っ赤に染める栞の顔を見てみたい。
 ビデオ見て栞が怒ったら……
 借りてくるものを間違ったと、とぼけて誤魔化すつもりだ。
 一応栞には、今日は映画のビデオを借りてきたと言ってるしな。
 そして今日はその決行日。
 秋子さんと名雪はそれぞれ仕事と部活で夜まで帰ってこない。
 というか、あの二人絶対気を使ってくれてる気がする。
 土曜日はたいてい夜まで家空けてくれてるし、土曜日の朝は必ずといっていいほど『今日は何時まで帰ってこない』云々ときっちり告げてくれる。
 時々日曜日とか祝日もそんな感じで家を空けてくれることがあるし……
 とりあえず、そんなこんなでイロイロ助かっている。
 二人には感謝だ。









 栞が来る前に先にビデオを居間のデッキに挿入しておく。
 タイトルを見られたらまずい。『エリコ○6才 〜ぶるまぁのささやき〜』なんて露骨過ぎる。
 とりあえずビデオショップで借りてきたオススメの一本だが……果たしてどんな内容なのだろう?
 当然だが、ビデオは今日まで俺の部屋に隠していて、見ていない。
 さすがに秋子さんや名雪がいるときにこんなものを見る度胸は……俺にはない。
 というか、この手のビデオ見るのは久しぶりだ。部屋にテレビとビデオがあればいいんだが……
 卒業したらかバイトかで手に入れるか、大学入学祝いにでも頼むかするべきだな。









 ピンポーン

 と、栞が来たようだ。
 ベストタイミングだ。こっちの準備は完璧。
 もう一度居間を見回して確認する。
 ビデオ挿入済み、ビデオのカバー(当然肌色の世界)もちゃんと隠している。リモコンOK。
 よし…ぬかりはない。
 さて、いい声で泣いてくれよゲッヘッヘ……
 って、ビニール紐片手に俺は何考えてるんだよ。
 それ以前に何でビニール紐が居間にあるんだ?
 ひょっとして俺は無意識のうちに、これで栞を支配しようと……!?
 …………
 ……
「ビバ! ビニール紐」
 悩んで出た結論がそれかよ、俺!
 と、ビニール紐を頭上に掲げて誇らしげにしている自分にツッコミ入れてる場合じゃない。
 鏡に映っている俺の姿はただのアホそのものだった。
 たしか朝、秋子さんが新聞縛ってたからその時に居間に置きっぱなしにされたものだろう。
 俺はビニール紐を適当な戸棚に放り込んで玄関に向かった。









「お邪魔します祐一さん」
「おう、待ってたぞ。上ってくれ」
「はい、えと、どちらに?」
「居間だ。飲み物とおやつもテーブルに用意してる」
「わー、嬉しいですー」
 上機嫌で居間に向かう栞。
 ああ、まったく何も疑ってないのがいじらしい。
 だが、勝負とは非情なものなのだ。
 それに上機嫌なほどいじめがいがあるってものだ。
「あの、祐一さん来ないんですか?」
 居間の前で栞が立ち止まって俺の様子を伺っていた。
「ああ、玄関に鍵かけてから行くから先に座っててくれ」
「あ、はい。じゃあ、お先に」
 栞が居間に入るのを見て、冷や汗を拭う。
 ふう、いかんいかん。こんな序盤から緊張してどうするんだ。
 計画を行動に移せる時は冷静に最速で滞ることなく実行すべし、というあゆの教訓を忘れてはいけないな。
 (注)あゆの食い逃げから祐一が勝手に作り出した教訓である。









 居間で二人してソファーに腰掛けて、一息ついたところでビデオの鑑賞タイムということになった。
「今日はどんな映画を借りてきたんですか?」
 期待に胸を小さいなりに一生懸命膨らませながら栞が訊いてくる。
「…今、何か失礼なこと考えませんでした?」
 す、鋭い。さすが香里の妹だ。名雪より勘がいい。
 単に比較対象が悪すぎるだけのような気もするが……
「いや、そんなことは全然無いぞ」
「どうせまた人の無い胸のことを馬鹿にしてたんでしょうけど」
 ちょっと拗ねながら向こうを向く栞。
「ビンゴ」
 爽やかな笑顔を見せるついでに親指も立てて置く。
「図星だからって開き直らないで下さいっ」
「まあまあ、人間一つくらいは欠点がある方がかわいいもんだぞ」
「…なんだかとても複雑な気分ですけど、一応褒められてるんですよね」
 とりあえずそう言ってやると、栞はなんとも言えない顔をしながらそう言った。
 うう、今日の俺にはこの顔がたまらないぞ。
 さてさて、ビデオを見せたらどんな顔を見せてくれるのかな〜?
 緊張と興奮が混ざったせいか、微妙に思考が弾けて来だした気がする。
「それで、どんな映画なんですか?」
 横道にそれた話を栞が元に戻す。
 いかんいかん、こんな調子で脱線ばっかりしてたらメインディッシュがお預けになってしまうじゃないか。
 早くビデオ鑑賞に持って行こう。
「うーん、恋愛物…かな?」
「わー、私そういうの大好きですー」
 多分お前の大好きな恋愛物とはジャンルが違うと思うぞ。

(注)それはアダルトと言う。

「外国のですか? それとも日本のですか?」
「邦画だと思う」
 何気に難しい言葉で返してみる。
 こうすると不思議と高尚なものに見えてくるな。

(注)単刀直入に言うとアダルト。

「やっぱり、日本の物の方が感情移入できていいですよね」
「ああ、そうだな」
 どんどんビデオの内容に期待を膨らませる栞。
 ああ…いいんだろうか!?
 今間違いなく栞はこれから見る物とまったく別の物を想像している。
 そんな栞にこんな仕打ちをするなんて、俺は……

 俺は!
 俺は!!
 幸せ絶頂だ!!

 今から画面を食い入るように見るであろう栞の眼に遠慮なく叩きつけられる肉の宴。
 期待に胸を膨らませる栞にはそれを防ぐものは何も無い。
 さて、俺を満足させられるよう思いっきり恥ずかしがってくれよ。
 再生スイッチON!
「あっ、始まりますね」
 栞のそんな声と共に、画面には『妹のささやき』と大きな文字が…
 って速攻で何か勘ぐられそうなタイトルだぞ、オイ。
「…なんだか変わったタイトルですね」
 思いっきり訝しまれてるし。
 ええい、ここは誤魔化すに限る!
「妹との禁断の恋愛物なのかも……」
 ってアホか俺は。更に墓穴掘ってるじゃん!
 が、それを訊いた栞は……
「ええっ、そうなんですか!? 面白そうですー」
 とても嬉しそうだった。
 って、何でじゃーーーー!?
「最近普通の恋愛物に飽きてたんですよ」
 おいおい、何か俺とは別の意味で危ない趣味に走りかけてるぞ栞。
「それに、愛があれば多少の困難は乗り越えられるって素敵だと思いません?」
 いや、確かに言葉で聞く分には素敵に聞こえるが……
「つかぬ事をお聞きしますが、それには歳の差とか性別とかも入るのでしょうか?」
 恐る恐る訊いてみる。
「もちろんですよ」
 そんなキッパリ……。
 俺はこれから始まるであろうビデオの登場人物をあらぬ組み合わせに置き換えてみた。

大佐とA級工作員がメイド服でオフィスラブ(両方中年男)

 ぐおおおおおおおおおおっ……
 は、激しすぎる。これ以上はやばい。脳が破壊されかねん。
「でも、見た目が綺麗な方がいいですけどね」
「ああ、まったくだ……」
 いや、マジで。
 純愛ラブストーリーを想像している栞はそういう生々しいものは想像してないのかケロリとしている。
 くそう、この時ばかりは何も知らない栞が羨ましく思えてしまった。
 そうこうやっていると、今度はキャスト等の紹介画面になる。
 『主演エリコ○6才』をはじめ色々な名前が出てくる。
 なんだか妙な名前が多いのでかなりヒヤヒヤものだ。
「なんだか知らない人ばっかりですね」
 げっ、しまった。栞は一週間のドラマを全部見てるくらいのドラマ通だった。
 知ってる俳優とか監督とかが一人も出ないと不審に思うのも当然だ。
 マズイ、なんとかして誤魔化さないと……
「ぎ、牛丼は汁が多いほうが通なんだ」>棒読み
「はい?」
 馬鹿馬鹿馬鹿、俺は何言ってるんだ!? 全然関係ねえ!
 当たり前だが、栞が頭に『?』マークを浮かべてる。
 と思ったら、ポンッと手を叩いて笑顔になる。
「ああ、祐一さん私が恋愛映画に詳しいのを知ってて、マイナーな通好みの作品を探してきてくれたんですね」
 ナイス勘違いだ栞。お前の気転の効く頭の利口さにはいつも助かっているが……
 今回ばかりは大勘違いだ。
 しかもどんどん俺の計画に自分から嵌っていってくれてる。
「まあ、そういう事だ。地雷かもしれないけどな」
「そういう博打も通好みの作品の醍醐味ですよ」
 断言する。
 必要以上に期待をしているお前にはこの映画は大地雷だ。
 なんか後が思いっきり怖くなってきたが……
 怯むな! 怯んじゃ駄目だ!
 俺はそれを期待して今日こんな行動に出たんじゃないか!
 もう引くわけには行かない。こうなったらとことん状況を楽しむべきだ。









 と、俺が心の中で激しいやりとりをしているのと関係なく映画の本編が始まった。
 って、いきなりブルマーかよ!
 画面にはブルマー姿の女の子が登場していた。
 そしてそのまま、エッチなポーズを始める。

    『あ、ああ〜んっ』
    『ぅう〜ん、あ、あ〜ん…』

 そして始まる行為。
 久々にみるエロビデオだが、これはなかなか…かも。
 まあ、ビデオはどうでもいい。俺の興味は……
「…………」
 うおおおおお
 た、堪らない。その顔が見たかったんだよ俺は!
 期待に胸を膨らませて画面を凝視していた栞は、その光景を逃すことなく目に焼き付けて……
 目を点にしながら顔を真っ赤にしていた。
 あまりに突然ことに、声を発することはおろか、目を逸らすことも出来なかったらしい。

    『はあ〜ん、んぅ〜っ』
    『あっ、あぁ〜ん、も、もう〜っ』

 放心状態になっている栞の目に容赦なく叩きつけられる肌色の世界。
 栞はそれに対して口をパクパクさせるだけで、何もできないでいる。
 わはははっ、想像以上の反応だ。
 あまりにおかしくて腹が痛い。
 っと、そろそろ後始末のこと考えないと……
 ここまでのことをされて栞も黙っているわけがない。
 栞を見ると、そろそろ赤くなってた顔の色が引き始めている。
 いや、もう引いて何か言いたげな顔で画面を見つめてる。
 やばい…これはかなりお怒りか?
 と、思って少し不安になり始めたところで栞の表情が突然変わった。
「…………」
 にこっ
 な、何故そこで笑顔!?
 実はかなり気に入った?
 ……なわけない。今俺の本能はその笑顔にかつてない恐怖を感じていた。
「あ、あの、栞さん?」
 恐る恐る声をかける。
 が、栞はこっちを振り返らずとても愉快そうに画面に見入っている。
「はぁー、祐一さんよりうまいですねこの人」
 ぐはっ!
 なんちゅーきついことを笑顔でさらりと……
「それにおっきいです。祐一さんの倍くらいはあります」
 グサグサッ!
 ひ、人が気にしてることを……
 っていうか、倍はないだろ倍は!
「まあ、人間一つくらいは欠点がある方がかわいいものですし、気にしちゃかわいそうですよね」
 しかも欠点認定ですかい!
「祐一さんの欠点は一つだけでは済まないですけど、その辺は我慢です」
 やばい、ヤバイ。栞さん激しくお怒りですよ。
 ピンポイントに痛いところ突いてきてるし……
「祐一さん」
 や、やめてくれ! その笑顔のままこっちを向かないでくれー!
「一体これはどういうつもりなのか納得のいく説明してもらえますよね?」
 今まで見た笑顔の中で最上級の笑顔……
 しかし、声が笑ってない。
「い、いや…ちょっと栞さんをいじめて、困った顔を見てみたいなあとか思ったりしちゃって出来心でつい」
 ああ、駄目だ。
 もう『間違って借りてきてしまいました』って言い訳が通じる雰囲気じゃない。
「そうですか、奇遇ですね」
「はい?」
 絶縁話を突きつけられると思ったら、意外にも栞は笑顔でそう返してきた。
 でも……
 その笑顔がますます恐ろしく見えるのは気のせいだろうか?
「私も祐一さんをいじめてみたいと思ってたんですよ」
 にっこり
「わ、ワタシに何をするおつもりなんでしょうか?」
 こんなことするんじゃなかった……と今更ながらに大後悔。
「そうですね」
 指を口にあて、天上を見上げながら何か考えているような仕草を見せる。
 何言うのかもう決まってるのにわざとじらしているのは明白だった。
 が、人間はそのやがて来るとわかっている恐ろしい結末を待つ瞬間にこそ恐怖する。
 今まさに俺は、とめどなく脂汗を滲ませながら栞の死刑宣告を待っていた。
 そして、栞がゆっくりと、本当にゆっくりと視線を俺に持ってくる。
 何でもするから、早く言ってくれ!
 これ以上待たされると心臓に悪い。
「そうですね……今日の出来事は秘密にしておきましょう」
「えっ?」
 意外な申し出に緊張が抜ける。
 それは俺にとってとてもありがたい申し出だった。
 さすがは栞。本当にお前はいい彼女だよ。
 ううっ、今日からは心を入れ替えてこんな真似は二度としないと誓うぞ…。
 と、俺が感激して栞を見ると、またあの
 いや、今度こそ本当に最上級の笑みを浮かべていた……
「今から上げる人のうち一人だけには秘密にしておいてあげます」
 にこー
 そして、栞があげた人物は……


  1.名雪
  2.秋子さん
  3.香里
  4.北川


「誰がいいですか?」
 この時ほど栞の笑顔を悪魔のように感じた時はなかった。
 そんなの選ぶまでもない…
「うーん、ちょっとかわいそうになってきましたね」
「そ、そうか!?」
 よかった、信じてたぞ。やっぱりお前は……
「話すとしても残った三人のうちの一人だけにしておきますね」
 にこにこ
 こ、このアクマー!!
「それで、誰にしますか?」
 俺は観念した。
 もう全員じゃないだけマシと思うしかない。


「…秋子さんだけには言わないでください」


















     〜翌週〜

 …ああ、ついにこの時が来てしまった。
 父上、母上、親より先に逝くこの不肖息子をお許しください。
 今日、俺は間違いなく香里に殺される。
 やっぱり秘密にするなら香里にしとくべきだったかと、日曜日の間、前日の選択を後悔してみたりもしたが……
 香里以上に秋子さんに知られてはマズイと本能が告げていた。
 というか……
 仮にも保護者にあたる秋子さんに、居間でそんなビデオを見ていた事、
 ましてやその内容についてや、俺の(以下略)について知られるかと思うと……
 死んだほうがマシなくらいの生き恥もいいところだ。
 ましてや相手はあの秋子さんだ。
 そのあとの反応もまったく予想できないので怖すぎる。
 でも、香里なら……
 …………
 ……
 骨の2、3本で済むことを願おう。
 言うまでもないが、名雪と北川は知られたところでどうでもよかったので最初から選外だ。
 いや、やっぱ少し嫌かも。
 俺は珍しく早く着いた教室で、席につきながら悶々とそんなことを考えていた。
 と、扉が開いて香里が現れる。
 そして、俺の姿を見つけるや否や、一直線にこちらに向かってくる香里。
 ああ、俺の死が近づいてくる……
 だが、俺の目の前に立った香里は笑顔だった。
 ひょっとして栞は思い直して言うのを止めてくれた?
 いやっ、待て。
 この香里の笑顔どこかで……
「相沢君」
 香里の笑顔が一際輝かしくなる。
 そう、この笑顔は……
「男の子は小さくても自慢にならないから大変ね。ま、小さい者同士仲良くしなさい」


 あの栞の笑顔だった。




―完―  ほどなくして相沢祐一、クラス中の笑い者に








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【後書き】
 随分前に書いたものです。
 まだマシな方のものなのでネタSSとして公開。
 確かTrilogyの3章で栞が登場したあたりに突発的に書いた作品ですね。




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