第1話 『発見』



コンコン。ガチャッ


「お姉ちゃん、辞書貸して…、あれ、いませんね。

 ま、それなら勝手に借りちゃいましょう」


テクテクテク

キョロキョロ、ピタ


「あれ、なんかアルバムがあります。

 えっと、『北川 潤 volB』…って、

 えぇ! 北川さんのアルバム? 何でこんな物が?

 ………どれどれ」


パラッ


某月某日

今日、北川君に映画に誘われたので「嫌よ」とはっきり断わり、

凄く悲しそうな顔になった所を、隠しカメラで撮影。

彼の悲しい顔は実にイイ。



「……」




パラッ


某月某日

北川君の寝顔の写真が欲しかったので、お弁当に睡眠薬を入れて渡す。

あんな所、こんな所を撮りまくったおかげで、

フィルムを2個使い切ってしまった。


パラッ


某月某日

北川君を呼び出して罠にはめる、

「何でこんな所に、スネアトラップがあぁ!!」

と逆さ吊りのまま叫んでいた。彼は慌て顔もキュートだ。


パラッ


某月某日

相沢君を通して、北川君をバンジージャンプに誘わせる。

報酬は名雪の隠し撮り写真。変装して尾行、

北川君は恐怖に引きつった顔をしていた。すぐさま望遠カメラで激写。

相沢君は高所恐怖症だったらしい。

それにも関わらず、写真の為に自分も飛んでたので、

ついでに撮っておく。



「お姉ちゃん…。何やってるんですか、貴女は…」



「呼んだかしら」

「えぅ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴ……


「エ、FFのものまね師ぃ!(パニック中)」

「人の物勝手に見るなんて悪い趣味ねぇ」

「お姉ちゃん程じゃないですぅ…」

「………」

「………」

「今日から、栞のアルバムも作らなきゃね」

「え、えぅーーーー!!」






「なぁ、相沢、オレって美坂に嫌われてるんだろうか」

「い、いやそんな事は無いと思うぞ」

「そうかなぁ、なんか愛想いいかと思うと、変につれなかったりするんだが」

「香里はね、好きな男の子には意地悪しちゃうんだよ〜」

「そ、そうなのか?」

「うん、だから、ふぁいとだよ。北川君」

「おぅ、ありがとな」

「…クッ、頑張れよ北川」

「祐一、何で泣いてるの?」



事実を知る者、知らぬ者、

果たして幸せなのはどっちなのやら。

とにもかくにも、これまた一つの愛情というお話。









第2話 『夢見』



コンコン、ガチャ


「おねえちゃーん、ちょっといい?」

「すー、すー」

「ありゃ、寝てますね。こうして寝てると、とても…」


チラッ


『北川 潤』volC



「あんなもの集めてるようには見えないんですけどね…、しかもいつの間にか増えてるし」

「すー、すー」

「ねぇ、お姉ちゃん。北川さんの事、どう思ってるんですか?」

「う〜ん、30万出してもいいわ…」

「…北川さんはペットじゃありませんよ、

 って起きてたんですか!?」


「すー、ムニャ」

「ね、寝言…」

「すー、北川君…こっちに来て」

「……」

「ねぇ…早く…、焦らさないで…」

「わー、もしかして、エッチな夢でも見てるんでしょうか。

 ちょっと、聞いてみちゃいましょう」


「(ニヤッ)……ふっ、引っ掛かったわね…北川君」

「え?」

「そうよ…、私が全ての黒幕だったのよ…」

「お、お姉ちゃん…?」

「ホーッホッホ、さあ私に忠誠を誓いなさい」

「寝ながら笑うなんて器用な人ですね」

「今なら、栞もつけるわよ」

「お、お姉ちゃーんッ!!」

「……ふ、堕ちたわね、北川君」

「き、北川さん。最低ですー!」





ブルッ


「お、どうした? 北川」

「……なんか、理不尽な怒りをぶつけられた様な気が」

「なんだそりゃ?」







所戻って、美坂家


「全く何て夢見てるんですか! 起こしちゃいましょう」


ポロッ


「え? お、お姉ちゃん、泣いてます」

「そう…、北川君、どうしてもあたしから離れていくのね」

 分かったわ……」

「……なんか、悲しそうですね」

「いいのよ、あなたがそう望むなら…、さあ、もう行って、

 出口へのエスカレーターが、ここの3階にあるから」

「……ところで、この夢、舞台どこなんでしょうか?」

「……北川君」

「……」

「そうやって、あっさり罠に引っ掛かってくれるあなたが、

 あたしは好きよ」


「お、お姉ちゃぁーんッ!!!」






「う〜ん、おはよう、母さん」

「あら、香里。なんだかご機嫌ね」

「フフ、ちょっと良い夢見ちゃって」

「あら、そうなの。よかったわね」

「フフフフ…」



「知らぬが仏ですぅ…」









第3話 『深謀』



ガチャ


「おねーちゃーん、おねーちゃーん」

「なによ、いきなり」

「今、そこのコンビニ行ったら、北川さんが働いてたんですよ。

 それで、アイスおごってもらっちゃいましたー」

「ああ。今時分は、彼あそこで働いてるのよ」

「へー、よく知ってますね」

「ちなみに、シフトは水・金・土で午後5時から8時。

 土曜は午後5時から9時までよ」

「……そこまで知ってると、ちょっと怖いです」


「まあ、それはいいとして」

「さり気なく流しましたね」

「栞も、いい加減アイスは卒業しなさいよ」

「そんなこと言う、お姉ちゃん嫌いです!」

「……栞のアルバム、そろそろ増やそうかしら」

「お姉ちゃん。私が美人で賢いお姉ちゃんが大好きだよ」

「あら、ありがと。フフフフ…」

「あはははは。………でも、アイスだけは譲れません。

 これは私の生きがいですから」

「あなたねぇ…、ん? ちょっと待ってよ」

「?」


「フ…(ニヤソ)」

「ヒィッ!」

「しおり〜」

「な、な、な、なんですか?」

「アイス沢山奢ってあげようか?」

「えぇ! 本当ですかぁ!」

「ウ、ソ」

「おねえちゃぁーーーーん!!!」

「ウソウソ、本当に奢ってあげるわよ。

 ただし、ね……」





パク


「アイス美味しいですね〜」

「そ、そ、そうだね。栞ちゃん(ガチガチガチ)」

「どうしたんですか、北川さん。まだ3個しか食べてませんよ」

「オレ、そろそろ満腹で……」

「ううぅ、酷いです。私と一緒にアイス食べるのが嫌なんですか」

「い、いや、そういうわけじゃ」

「じゃ、一緒に食べてくださいね」

「うぅ、分かったよ…」



「……イイ。

 寒さに震えて、泣きながらアイスを食べる北川君。

 実にいいわ。ランクA+ってところね」


「おかあさーん、あのお姉ちゃん、何やってるの?」

「ああ、あれは写真撮ってるのね。多分野鳥やお花でしょう」

「フーン、でもなんか、すっごいイイ顔で笑ってるけど」






それから、5日後



……ダダダダダダダダ、ガチャ


「うわーん!!」

「どうかした? 栞」

「体重が2キロも増えちゃいましたー!」

「まあ、アレだけアイスを食べれば、そうもなるわね」

「……は、まさか、お姉ちゃん!」

「……」


パシャッ


「タイトルは『口福の後の絶望』」

「だ、騙しましたねぇ!!」

「あら、人聞きの悪い。あたしは、アイスを奢っただけよ。

 食べ過ぎたのはあなたの自業自得」

「北川さんを誘って食べろ、って言ったのはお姉ちゃんなのにー」

「人を呪わば穴二つね」

「うわーん! お姉ちゃんの馬鹿ー!!」



ガチャ、バン!!

ダダダダダダダダ……



「策士は一つの策で、幾つもの効果を得るものよ」


全ては愛すべき妹の為、

姉は心を鬼にして、妹の甘味好きを治そうとするのであった。



「白々しいですぅーーーーー!!!!」









第4話 『回想』



ガチャ


「ただいまー。あれ、お姉ちゃん、何見てるの?」

「ああ、これ? 2年の頃の体育祭のビデオよ」

「へー、あ、北川さんが映ってる」

「それはそうよ、だってこれ特別版なんだから」

「……特別版?」

「北川 潤(体育祭編)」

「じゃ、私自分の部屋行くね」

「まあ、待ちなさいよ。栞」

「えぅー、北川さんが、極悪非道なるお姉ちゃんに思うがまま操られ、弄ばれ、

 朽ち果てて逝く様なんて見たく無いですー」


チャキ…


「し・お・りちゃ〜ん?」

「じょ、冗談です! 冗談ですから!

 メリケンサックはやめてくださいーーッ!!」

「グリグリ」

「痛いッ! こめかみが痛いですーーーッ!」




「ううぅ、結局見る羽目になるんですね…」

「初めから素直になればよかったのに」

「素直になったらこうなったんですー!」

「あ、丁度借り物競争のシーンよ」

「全く……、あれ? 北川さん固まってますけど」

「ああ。実は、コッソリと借りる物を書いた紙をすりかえたの」

「なんて書いたんですか?」

「『あなたの好きな人』」

「えー! そんな事書いたんですか、お姉ちゃん大胆ですねー」

「フッ。甘いわね、栞。見てみなさい」

「あ、辺りを見渡してます。お姉ちゃんを探してるみたいですね」

「そうね。でも、このビデオ撮ってるのあたしなのよ」

「それが、どうしたんですか?」

「これ、屋上から撮ってるのよね」

「なんで、そういう意地悪するんですかぁーッ!!」

「だって…」


……ポッ


「ここで、彼があたしを選んだら恥ずかしいじゃない」

「うぅ…、お姉ちゃんの愛情はよく分かりません」

「栞はお子様だからね」

「誰がお子様ですか! あ、北川さん、諦めて女子の所へ行きました」

「ここからが見物よ」

「行ったはいいけど、言い出せないみたいですね」

「彼、奥手だから。あんな指令出されちゃ動けないでしょうね」

「最終ランナーがゴールしちゃいましたけど」

「ここで、途方に暮れる北川君の顔をズームで映したの。

 よく撮れてるでしょ」

「捨てられた仔犬のような目をしてますよ」

「それが良いのよ」

「……あ、場面が変わりました」



『残念だったわね、北川君』

『み、美坂? どこにいたんだ』

『あら、あたしに借りたいものがあったのかしら?』

『い、い、いや、そんな訳じゃなくてだな』



「い、いけしゃあしゃあと……」

「く! 最高よ、北川君。その表情」

「聞いてないし」



『で、結局何だったの? 借りる物は』

『へ!? い、いや、たいした物じゃないんだ』

『たいした物じゃないなら、簡単に借りられると思うけど』

『あ、ああ、えーっと、えーっと、あ、あなたの……友達?』

『なんで疑問系なのよ? それに北川君の友達なら何人もいるでしょ』

『あ、え、と。ち、違うんだ、そうじゃなくて……、

 えーっと、えーっと……』



「…………」

「お姉ちゃん?」

「………ハッ! いけない、いけない。つい我を失って見入ってたわ」

「今、すごい恍惚としてたよ……」



『み、美坂、本当の事言うと。

 あ、あれには……』

『あ、ゴメン、北川君。あたし、次の種目の準備があるからもう行くわね』

『へ?』

『じゃあねーー』

『あ……、あうぅ……みさかぁ……』



バンッ! バンッ!


「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

「お姉ちゃん、悶絶しながらソファ叩くのやめてください」

「はぁ〜〜〜、やっぱり彼は最高ね」

「そうですね。最高に不幸ですよね。

 お姉ちゃんに好かれるなんて」

「………」

「わ、私、もう部屋に戻るから!」


ガシッ


「まぁ、待ちなさい。次は『北川 潤(文化祭編)』があるから」

「えぅーーーーー、私も十分不幸ですーーーー!!」









第5話 『先回』



コンコン、ガチャ


「あの〜、お姉ちゃん。ちょっといいですか?」

「何よ、栞」

「え〜っと、相談があるんですけど…」

「相談?」

「あ、でも、聞く前に一つだけ約束して欲しくて」

「勿体つけるわね。なによ?」

「お、怒らないで下さいね」

「はぁ?」

「実は……お姉ちゃんにコレを渡して欲しいって頼まれて」


ピラッ


「…ラブレターね」

「わ、私の友達からなんですけど、北川さんに渡して欲しいって」

「フーン、成る程ね、で、コレを送った子の名前は?」

「そ、それを聞いてどうするつもりですか?」

「……フ」


「やっぱり、私の手から渡しますね」

「まぁ、待ちなさいよ栞」

「は、離してください! 

 せっかく出来た友達をお星様にしたくないんですーー!!」


ゴン!


「人聞きが悪いわね。ま、でもその子の気持ちは分かったわ。

 彼に一番近い異性はあたしだから、どれ程の関係なのか調べる為に、

 そんな回りくどい事をした、って事か」

「イタタ……、よく分かりましたね。まあ、恋する女の子は強かですから」

「ふぅん、まぁどっちにしろ、コレはあたしに対する宣戦布告ね。

 ……ふふ、腕が鳴るわ」

「お、お姉ちゃん、何するつもりですか……」

「いやねぇ、栞。手荒な事はしないわよ」





数日後


「ふあぁぁ、ヤレヤレ、今日も疲れたな」

「北川さーん」

「お、栞ちゃん。こんちは」

「こんにちは。あの、北川さん、ちょっと聞きたいんですけど、

 ここ数日、身の回りで何かありました?」

「オレの周りで? うーん、特に何もなかったな」

「そ、そうですか、やっぱり…」

「やっぱり?」

「あ、何でもないです! それじゃ!」

「??」




ガチャ


「お姉ちゃん…、あの子に手紙返して欲しいって言われました」

「あらそう、計画どおりね」

「うぅ、まさか、生徒同士の交友関係から、好きな人を洗い出してくっ付けるなんて」

「まぁ、いいじゃない。あの子も自分の事が好きな男子と付き合えたんだから。

 あの子もあたしも、これで皆幸せよ」

「北川さんは?」

「いつも通りね」

「北川さんが幸せな春を迎えるには、

 まず、この強か過ぎる鬼姉をどうにかしないといけないようですね」


「なにか言った?」


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