俺も放棄してしまいたいが、そうもいかない。
越してきて授業の内容が変わったというハンデがある上に、休んでいた分遅れも出ている。
それに、ここで甘えてしまっては漢が廃る…っ!!
…多分。
「(耐えるんだ、耐えるんだ、俺…)」
眠らないように、重い瞼を必死に開け続け耐える。
乗り切るんだっ! 乗り切るんだっ!
「ぁ…」
名雪の声に気づいて、名雪の方に視線をやる。
名雪が起きていた。
目が見開かれ、小声ながら何か言葉を発していた。
あの日の夢を見た後起こる症状。
今の名雪はまさにそれが起こっている時だった。
このときほど精神が安定しないときは無い。
「(マズイな…)」
ここは素直に保健室に…
そう思った瞬間、チャイムが鳴って授業は終わった。
思ったより時間が経っていたみたいだ。
「名雪、大丈夫か?」
「ぁ… ぁぁ… ぃゃぁ…」
くっ… これは次の授業は無理だな…
「歩けるか?」
「………」
小さく頷いたのを確認すると、肩を貸して立ち上がらせた。
そして、そのままの姿勢で教室を出た。
保健室は1階だ。
こういうときにエレベーターがないのが悔やまれる。
「ゅぅぃ… ち…」
小さく、それでもしっかりと聞き取れる声で名雪は俺を呼んだ。
「どうした、歩くの辛いか?」
「トイレ… つれてって…」
「え? トイレ…?」
気がつくと俺は手を引かれ、近くの男子トイレに連れ込まれた。
「名雪、ここ男子トイレだって」
「だいじょうぶ、人… 来ないから…」
確かに、ここは旧校舎に近いトイレで滅多に人は来ない。
だが、何でトイレなんかに…?
名雪はそのまま俺と一緒に個室に入り、ドアにロックをかけた。
「お、おい… 何のつもりだよ…?」
いまいち名雪のしようとしている事が…
その時、俺ははっとした。
名雪の顔が快楽を求めていることに…
6時間目は幸いにも、自習だった。
その夜、俺はベッドの上で昼間の事を思い出していた。
名雪の様子は明らかに普段と違っていた。
急に俺を求めたこと、それも不思議だ。
もしかしたら、見た夢が原因なのかもしれない。
たまたまそういった内容の夢を見たせいで、興奮したのかもしれない。
…考えれば考えるほど眠れなくなる。
隣で寝ている名雪は気持ちよさそうに寝息を立てている。
こういう姿を見ると、昼間のことがまるで夢のように思えてしまう。
どっちが本当の名雪なんだ…?
………………
もういい、寝てしまえ…
瞳を閉じる。
視界は黒一色に染まった。
隣に名雪の寝息を感じる。
…あの日の夢は見ていないみたいだ。
NEXT
SSTOPへ