「嫌ぁっ!!」
飛び起きたと同時に大声で叫んでいた。
自分でも驚くほどの大声は静まった森によく響いた。
「はぁ… はぁ…」
ひどい夢を見た。
…いや、夢で片付けられるぐらいのものじゃない。
あれは、私が実際にした事。
あの日の事。
何一つ間違いもなく、的確にあの日の事を思い出した。
入ってくるものの熱さや、体に降りかかる精液の熱さや匂い。
少し前まで味わっていたあの真っ白い快楽を思い出した。
「どう… して」
今まであの日の事の夢を見ることはあったけど、あそこまで鮮明じゃなかった。
さっきまで見ていた夢は、まるで撮影されていたかのように鮮明だった。
「嫌ぁ…」
わたしはその場に蹲った。
動きたくなかった。
何も考えたくなかった。
眠ってしまえばもっと楽になったかもしれないけど、またあんな夢を見るのは嫌だ。
わたしは…
忘れられるだけでいいのに…
あの事なんてなかったことにできたらいいのに…
「…自分のしてしまった事を見てどう思ったの?」
「っ!?」
気配がまったくないのに、上から声が聞こえてきた。
思わず、その場でしりもちをついてしまった。
目の前にいるのは、最初にこの森であった女の子だった。
私が座っていて、女の子は私を見下ろしている。
そのせいか、先ほど会った時よりも威圧感が増している気がした。
女の子は表情を変えないまま、無表情で私を見つめている。
「この森はね、記憶と死が満ちている」
突然、女の子が口を開いた。
「迷い込んだ者を追憶の海に放り、後悔させたまま死へと引きずり込む」
「………………」
「思い出しなさい。あなたがしてきた事を。そして…」
一瞬、女の子が顔を伏せたように感じた。
女の子の表情は分からない。
それも一瞬で、すぐに女の子は無表情のまま私を見つめた。
「思い出しなさい、あなたの大切な事を」
ビュウッ!
強い風が吹いた。
「んっ!?」
あまりに強い風に一瞬目を閉じてしまう。
風は一瞬だった。
目を開けると、そこにいたはずの女の子はまるで最初からいなかったように存在していなかった。
「………………」
分からない事がありすぎる。
でも、自然とやるべき事は見えてきた気がした。
力の入らない体を無理やり動かして、立ち上がった。
そのまま、あてのない道を歩き出す。
道はどこに続いているのか分からない。
でも、歩かないと前には進めない。
闇は晴れない。
まだ、朝は来ない…
それでも、歩き続ける。
終わりのない道を歩き続ける…
歩きながら色々な事を考えていた。
祐一は今頃何をしているのか。
香里は今頃何をしているのか。
お母さんはこの森に来たことはあるのか…
考える事は尽きなかった。
次から次へと知りたい事が膨らんでいく。
わたし、どうしてここに来たんだろう…?
一番肝心なことすら覚えていない。
わたし、どうして戻らないといけないのかなぁ…?
祐一が待っているから?
でも祐一は…
そこまで考えてはっとする。
どうして祐一を信じられないんだろう…
ずっとそばにいてくれるって言ったのは祐一。
わたしも、同じ約束をした。
でも…
何を信じたらいいのか、何が本当なのか分からなくなってくる。
わたしは…
何をするために生まれてきたんだろう…?
気がつくと歩みは止まっていた。
何を目指して歩いていたんだろう…?
わたし… 何をしなきゃいけないんだろう…?
自然と、瞼が重たくなってきた。
眠りたくない…
また、あんな夢を見るなんて嫌…
でも、眠気は緩やかに… それでもものすごく強くわたしを襲った。
こんなに眠いのは徹夜をしたとき…
眠りに落ちる前、そんな事を思っていた。
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