短い春休みも終わってしまって、気が付けばもう新学期。
   親戚の計らいでわたしたちはとりあえず大学までは行けるようになっていた。
   高校卒業したら働かなきゃいけないと思っていただけに、その事を言われたときは本当にびっくりした。
   祐一も同じ事を考えていたみたいで二人で一緒に笑いあった。
   部屋の整理はまだ終わっていない。
   でも、これ以上しなくてもいいのかもしれない。
   あそこはお母さんがいた証だから。
   悲しい思い出はあるけど、大切な場所だから。
   今日もわたしたちは走る。
   最近は早く起きられるようになってきたけど、たまにこうして寝坊をする日もある。
   しかも、今日はよりによって始業式。
   始業式から遅刻なんてしたら香里や北川君になんて言われるだろう。
   久しぶりに全力で走ってみると思ったよりも体がなまってるなと感じた。
   新学期からはちゃんと部活にも出なきゃ。
   まずはみんなにごめんなさいって謝ろうかな。
   最初の一歩は怖いけど、大丈夫。
   わたしは一人じゃないから。
   みんながいるから、頑張れる。
   大切なみんながいるこの場所が、この世界が私のいる場所なんだ。
   ふと風が吹いて私の頬を撫でた。
   思わず風が吹いた方向を見上げる。
   見上げた先には満開の桜が広がるばかりだった。




  「おかあ… さん?」
  「走らないと間に合わないぞ?」
  「あ、うんっ」
   あれは気のせいだったのかな?
   ううん、違う。
   気のせいなんかじゃない。
   きっと、お母さんはいつも傍にいてくれる。
   それはわたしが一番分かる事だから…
   おかあさんはわたし達の事を見ていたのかな?
   わたしがした事も見ていたのかな?
   ときどき道を間違えちゃったりもしたけど大丈夫だよ。
   今はこうして進む道が分かったから。
   おかあさんが死んじゃった事はまだ辛い。
   でも、そのせいで動けなくなっちゃったらおかあさんが悲しいよね?
   だからわたしは少し我慢してみようと思う。
   強さをいろいろな人からもらったから。
   だから、後ろを振り向くのはしばらくやめようと思う。
   がんばって、がんばって…
   一息ついてもいいかなって時はおかあさんのことを思い出すね。
   そのときは楽しい思い出もいっぱい思い出せるかな。
   そうなると嬉しいな。
   だって、おかあさんの思い出は楽しい思い出でたくさんだから…
   いっぱい、大切なものをわたしにくれたから…
   ありがとう、おかあさん。
   今は遠い所にいるけど、また会えるよね?
   だから、さよならじゃないよ。
  「またね、おかあさん」
   私は、そっとその場所から離れた。
  「うわっ、チャイム鳴った!!」
  「わわっ、早く入らないと!」
   懲りずに今日もギリギリの時間で出たのがいけなかった。
   …いまさら後悔しても意味がないけど。
   これじゃあ香里や北川君に笑われちゃうよっ
  「急ぐぞ!」
  「うん!」
   二人で走り出す一歩を踏みしめる。
   大地を蹴って、わたしたちはまだ雪の残る道を走っていった。
  




   俺たちは並んで走る。

   同じ道を踏みしめて、一緒に走る。

   たどり着く先に名雪がいればどこだって構わない。

   絶対にその手を離さないから…

   行こう、同じ道を。

   行こう、前を向いて…








                             labyrinth fin









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