「ただいま〜」
   明かりがついてる。
   名雪がいるのか…?
  「あ、おかえりなさい」
   エプロン姿の名雪がダイニングから出てきた。
  「あ… ごめんな、ちょっと寄り道してたから…」
  「ううん、わたしもすぐに帰れなかったから…」
   そういや進路がどうとか言ってたっけ…
  「名雪、進路はどうするんだ?」
  「…もう少し考えてみようと思って。先生にもそう言ったら『そうか』って…」
   まぁ、今すぐ決めろというものではないからな…
  「それより、晩飯は… シチュー?」
  「正解だよ〜」




   テーブルの上に並ぶ皿は二人分。
   もう一つの皿が並ぶはずの場所はぽっかりと穴が開いてるようだった。
  「そういえばこの前のシチューの事なんだけど…」
  「あ、香里の特製シチューのこと?」
  「香里のやつ、笑えない冗談言ってさ…」
  「え? 確か、お乳を入れるって事でしょ?」
  「あ、ああ…」
   ストレートに言われるとかえって恥ずかしくなる。
  「あれって本当なんだよ?」
  「へぇー… あれってやっぱりそうだったんだ…」
  ………………
  「…マヂ?」
  「香里に教えてもらってわたしもやってみたらとっても美味しかったよ〜」
   ちょっと待て、母乳は子供ができないと出ないはずじゃ…
   それとも、ある程度の年齢に達すると出るようになっているとか?
   そんなまさか、牛乳じゃあるまいし…
  「まさか… 今晩のも?」
  「うん、これがそうだよ」
   と、言いながら名雪が液体の入ったボウルを見せる。
   中は白い液体で満たされていた。
  「…牛乳?」
  「違うよ〜」
  「わたしの… お乳だよ」
   ………………
   お乳を作る工程を思わず想像してみる。
   胸を出してそのまま牛の乳絞りのようにするんだろうなぁ…
   テレビで見た牛の乳絞りの光景を名雪に当てはめてみる。
   ………………
  
  「えーと、準備OK。後は…」
   周りに誰も居ないことを確認して、胸元をはだける。
   幾分か大きめの乳房が外気にさらされる。
  「んっ…」
   乳房を掴み、ゆっくりと揉む。
   じわじわと乳首から真っ白なお乳が出はじめた。
   それから全体を揉み解していくと、少しずつ勢いよく出始める。
   右が終わったら今度は左。
   出づらくなったら、少しマッサージをする。
   次第に体が火照ってくるのを感じた。
   …誰もいない。
   少しだけなら… いいよね…?
   そのまま空いた手を僅かに湿った下着の中に…

  「………………」
  「のわっ!?」
   気がつくと、ジト目で名雪が俺を見ていた。
  「祐一の… エッチ」
  「し、仕方がないだろ!? だって… その…」
  「………………」
  「…名雪?」
  「あははははっ… やっぱり騙されたね〜」
  「え… って事は?」
  「これ、生クリームだよ」
  「………………」
   見事にしてやられた。
   って言うか悔しい… 騙しやがって…
  「…おりゃっ」
   むにっ
   笑いこけていた名雪の両頬を掴む。
  「わっ!? ひらいよ〜」
   情けない声で講義する。
  「この口か!? この口が嘘をつくのか!?」
  「ふわぁ〜ん、はらひへほ〜」
   もはや何を言ってるのかわからない。
   うーむ、そろそろ離してやろう…
   両手を同時に離すと、一気にまくし立てられた。
  「ひどいよ…」
   それからしばらく名雪は不機嫌なままで、イチゴサンデー一個奢りでかたがついた。
   いつものやりとりがなんとなく嬉しかった。
   財布の中身が少し寂しくなるが…




   もう寝ようとしたところで、名雪が風呂から出てきた。
   まだ乾ききってない髪をタオルで丁寧に拭いていた。
  「ごめんね、髪が乾くまで待ってて〜」
   のんびりとした仕草で台所に向かう。
   居間に来た名雪はタオルを頭に乗せ、両手にコーヒーカップを持っていた。
  「中身は?」
  「ホットミルクだよ〜」
   湯気が立ち上るカップを受け取る。
   カップの中は温かいミルクで満たされている。
   真っ白な液体が僅かに揺れる。
   白…
  「名雪… その…」
  「あ… その… あれが来ちゃったから…」
  「え?」
  「う〜 女の子にそんなこと言わせちゃダメだよ〜」
   顔を真っ赤にしてうつむく名雪。
  「あっ! せい…」
   何か嫌な視線を感じたので止めておく。
  「あ、それで… しばらく別々で寝たいから…」
  「了解」
   まぁ、いろいろと複雑な事情があるんだろう。
   俺にはわからない事だけに何もいえない。
   出されたホットミルクを飲み終えたときには名雪の髪は乾いていた。
   明かりを消し、二階に上がる。
   階段を上がって左が名雪の部屋。
   今日からしばらくはここでしばしのお別れになる。
  「じゃ、おやすみ」
  「おやすみ〜」
   バタン
   一人になれた事で、いろいろと考え事ができるようになった。
   名雪のこと、俺のこと、抱えるものが多すぎて、時に押しつぶされそうになる。
   でも、俺は負けない。名雪を、この家を守りたい。
   俺ができることなら何だってやる覚悟がある。
   薄暗い天井を眺め、まどろみの中、一人だけの大きな決意をした。
  「…っ …ぁ …」
   どこからともなく声が聞こえる。
   やがて、その声も聞こえなくなる。
   意識は深い闇に落ちて行った…


NEXT

SSTOPへ



感想いただけると嬉しいです(完全匿名・全角1000文字まで)