1月 15日 金曜日
これ以上は無理、と言うところまで惰眠を貪ると昼だった。
さすがに水瀬みたいにはいかない。する気もないけど。
まだ見てないビデオが溜まってたので、それらを消化してたら、そろそろバイトという時間だった。
学校はその通り道にある。
平日ならば、今頃は学校帰りの連中がわらわらと校門から出てくる時間帯だ。
まだまだ明るいのに静かな校門はうら寂しい物がある。
まるで、中庭のように。
と、ふと見ると足跡があった。
今日は部活もないので、ここに来る者など居ないはずだ。
一列の足跡はまっすぐ校庭を抜け、中庭に向かっていた。
……まさか。
バイトまでまだ時間があった。
暇つぶしだ。そう、暇つぶし……。
そう思いながら足跡を辿ると、そのまさかがあった。
「何やってんだ、こんな所で」
「……私にもよく分からないです。潤さんは、どうしたんですか?」
「バイトに行く途中だ」
「ここを通るんですか?」
「そんな訳ないだろ。足跡があったんだ、部活もないのにここに来る物好きがどんな奴かと気になってな」
「物好きですか……。そうですね」
悪戯っぽい笑みで続ける。
「何しろ、潤さんを好きになるくらいですから」
正直なのか、皮肉屋なのか……よく分らない子だ。
「もしかして、昼からずっとここに居たのか?」
「えっと……あはは、そうなりますね」
照れたように笑う栞の表情は、どこか悲しげだった。
「今日は、来るつもりなかったんです。でも、気がつくとこの場所に立ってました。どうしてかは、自分でもよく分かりません」
俯き、ゆっくりと語る。
「結局ひとりぼっちで、いつの間にかこんな時間になってて。ほんと、馬鹿ですよね……」
「本当に馬鹿だな」
「ひどいです。そんなこと言う人、嫌いです」
栞は明るい表情でそう言い放つ。
「でも、嬉しかったです。潤さんに、会えましたから……」
「栞、ひとつだけ正直に答えてくれ」
「……分かりました」
「どうして、毎日学校に姿を見せるんだ?」
どうして、俺に会いに来るんだ?
「……分かりません。自分でもよく分からないんです。一度、言いましたよね? 分からない答えを探すために来てる……って。あれ、本当です」
「それで、答えは見つかったのか?」
「……分かりません」
「そうか……もう帰れ。俺はバイトの時間だから付き合ってられん」
「分りました」
そう言って立ち去ろうとして、一旦立ち止まり……。
「また明日です」
その顔はいつもの栞だった。
『何しろ、潤さんを好きになるくらいですから』
俺のことを……本当に?
だからなのか?
商店街で見知った顔を見た。
あゆと……水瀬のお袋さん?
どうやら買い物らしく、ふたりともスーパーの袋を持っていた。
とても仲良く話していた。まるで親子のように。
あゆは今夜もお泊まりするんだろうか?
バイトが始まり、しばらくして商品追加のトラックが来た。
荷物を倉庫に運ぶ途中で見知った顔が目に入る。
相沢だった。
今日は、ここには来ないで近くの牛丼屋に居た。
牛丼弁当を2個も買っている。
どう考えても夜食で2個はヘビー過ぎだ。
昨日抱いた疑念が強まる。
もし明日、学校で牛丼の残骸を見つけたら……。
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