雪が解け、緑が萌え、中庭に人影があっても珍しくなくなった。

『人の命を救うのは医学ではない』
『患者さんの意思が命を救うのです』
『生きたいという強い意思が命を救うんです』
『医学は、その後押しをするだけです』

 医師はそう言っていた。
 投薬を始めた頃、苦痛にのたうち暴れる栞の強烈なパンチを食らって鼻血を吹いた、あの医師だった。
 私は思う。
 『奇跡』もまた、同じではないかと。
 相沢君の周りにいた人たちにも、沢山の奇跡が起きていた。
 誰もが強く……。

『生きたい』

 と、願っていた。

『大好きな人と一緒にいたい』

 そう願っていた。
 奇跡もまた、その願いの後押しをするだけなのかもしれない。
 人の意思には、それだけの力があるのかもしれない。


「……で、もう、いつでも食べられるのに何でそんなに買うのよ」
「……」
「まさか買い占めるとは思わなかったわ」
「奢るって約束だから」
「相手の好みってものを考えなさい」
「大丈夫、私の好物なんだからあの人だって好きなはずですっ」
「はいはい、ラブラブなのは分かったから、いつまでもモジモジしてないで早く行ってあげなさいよ」
「……」
「これ以上待たせたらさすがにあいつも愛想つかすわよ? 薄々そう思い始めたから、無理言って退院早めたんじゃないの?」
「そんなこと言うお姉ちゃん、嫌いですっ」
「分かったから早く行きなさい」
「はいっ!」























で、何やってんだ、こんなところで


来たら、ダメなんですか?

家で寝てないと……治るものも……治らないぞ

大丈夫です。今日から学業再開ですから

再開も何も今日は終業式だぞ

はい

川澄先輩に……ケープのお下がり譲ってもらおうな

……? 何でですか?

卒業した3年生の学年色が新1年生に巡ってくるからな

もう一回……1年生確定だろ?

そんなこと言う人、嫌いですよ

でも……悪くない提案です

約束、覚えてるだろうな

ちゃんと、覚えてますよ

オレ、それはもう食い飽きたぞ

ダメですよ、無理してでも食べてください

折角、いっぱい買って来たんですから

そうだな……もう、ずいぶん暖かくなったもんな

やっぱり、寒い時より

暖かい時に食べた方がおいしいですから

……

起こらないから奇跡っていうんです

そうだったな

でも

私……嘘つきですよね

ああ、そうだ

こんな時、

こんな時は……泣いていいんですよね……?

泣いてくれないとオレが困る

どうして、ですか……?

こんな時……

男が先に泣くわけ……いかないだろ

あはは……そうです、よね

私、本当は死にたくなかったです……っ

お別れなんて嫌です……っ

ひとりぼっちなんて……嫌ですっ

悲しいときには、泣いたっていいんだ

嬉しいときにも、泣いたっていいんだ

今まで、ずっと我慢してきたんだから

はい……っ

少女は、初めて、人の前で泣いた。














最後まで読んでくださりありがとうございました。



後書き(完成当時のもの)

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