ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 47  悲壮なそして悲しい決意





    
    塔の出現以降事態は不気味な沈黙を保っていた。

  活発化したモンスターが度々襲ってくる程度の事態だったが

  安全を考え避難命令は解かれていない。

  騎士団が中心となり防衛戦が今も続いている。

  ユキト、アカネ、ルミ、ミナギの四人。

  そしてクゼを中心としたメンバーが首都防衛体。

  そして……一週間の時間をおき完全に立ち直ったナユキを加えた
 
  カノンメンバーが突撃隊として編成された。

  現在は作戦考案中である。




















  「突撃決行は午前1時。今から五時間後だ」

  俺はきっぱりと言い切った。

  「各自準備を整えておいてくれ。俺は少し休むよ」

  そう言うと俺は部屋に引っ込んだ。

  休むのは当然だ。

  俺は……俺にしかできないことをするのだから。




















  「ユウイチさん…いつもの余裕がありませんでしたね」

  サユリがぽつりと言った。

  「…仕方ない。魔王の力にじかに触れたのはユウイチだけだから」

  マイが静かに答える。

  「あう……お姉ちゃん。勝てるの? そんなのに」

  マコトが心配そうにナユキの側を離れない。

  「大丈夫だよ。私たちは勝つんだから」

  マコトをあやしながらもその手はかすかに震えている。

  ジュンはただ黙って外を見つめている。

  そうして無情にも時は過ぎていく……。






















  午前0時







  「やっぱりな」

  その声に俺は後ろ振り返った。

  ジュンが立っている。

  俺がこっそり抜け出した表門の前に。

  「何でわかった?」

  「お前との付き合いは長いからな。なんとなくだ」

  そうかと俺達は笑った。

  「捨て駒になる気か? そうして魔王を消耗させ
   その後に俺たちが続く」

  俺は答えない。

  「死ぬ気なのかって聞いてんだよ!」

  ジュンが怒鳴る。

  死ぬ?

  冗談じゃないぜ。

  「俺は死ぬ気はないよ。そんな勇気もないしな」

  「そうかもな。だけど…」

  ジュンはゆっくりと言葉をつなぐ














  「他の誰かのためならお前は死ねる」



















  俺はやはり答えない。

  「散々命を捨てるなとか他人には言うけど、お前は自分の命は
   誰かのために賭けられる」

  聖剣を持つ手に力が入る。

  「お前はそういう奴だよ……他人に同じ思いをさせたくないくせに
   自分のことは放っておきやがる」

  無言だった。

  あたりは暗い。

  まだ夜明け前だから。

  「サユリさんが言ってたぜ。自己犠牲が過ぎるってな」

  「そう見えたのか?」

  「少なくとも、皆気づいてるんじゃないのか?」

  そんなそぶりは見せたつもりじゃないが……。

  だがこれ以上はなしている時間はない。

  「わかってるならいい。後は頼むぞジュン」

  「ようやく認めたか。ってふざけんな。
   誰がお前だけを行かせるか」

  ジュンは構えを取る。

  「力づくでも止めるぜ。ナユキたちが泣くとこなんか見たくないからな」

  「無理だよ」

  ビシ!

  俺は小さな印を指弾で弾いた。

  「な……?」

  ジュンが倒れこむ。

  「眠りの印だよ。小さいから効果はすぐ切れる…」

  俺はジュンに背を向け歩き出す。

  「待て……ユウ…イチ」

  もうジュンの声は聞こえない。

  確かにそのとおりだ。

  俺は捨て駒のつもりかもしれない。

  馬鹿げた話だがな。だが皆が後に続くなら

  こっちの方が勝算がある。

  父さん、母さんから受け継いだ力。

  そしてその誇り高き志。

  俺に恐れる物はない。

  この国を…あんな絶望の赤に染めてたまるものか。

  二度とあんな悲しみを起こさせるものか。

  絶対に止めてやるぞ。ホロズオープ。

  目の前に立つのは絶望の塔。

  ふざけやがって俺が壊してやる。

  そう意気込んで俺は塔を上り始めた。

                                    続く

  

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