ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 8 幸運少女
ユウイチ達は固まっていた。
目の前の光景に。
「うぐぅ〜びっくりしたよ〜」
その少女の声で、はっと動き出す一同。
「ま、まあ単なる偶然だろ」
ジュンの言葉を合図に、それぞれが、
「そ、そうだよね〜」
「あう〜びっくりした」
次々に我を取り戻した。
「大丈夫か?」
ユウイチが少女を起こす。
「うん。ボクは大丈夫」
カチューシャをつけた少女は、
パンパンと服を払うと立ち上がった。
「自己紹介が遅れたけど、ボクはアユだよ。
喫茶店の娘です」
俺とジュンもお互いに挨拶をする。
彼女がそうなのか・・。
しかし、ずいぶん若いのに・・・。
「そうか、その年で家の手伝いとはえらいな」
ユウイチがそう誉めると、
「え〜?でもカオリさんだって、ボクと同い年なんだから。
普通だと思うよ」
ユウイチとジュンが固まった。
「どうしたの?二人とも?」
ジュンは、
「いや・・俺はてっきりマコトちゃんと同じくらいの年かなと」
ユウイチは、
「俺はもっと年下だと思った」
これだけ言われて、腹を立てぬ少女がいるだろうか?
「うぐぅ!酷いよ!ボクはこれでも18歳だよ!?」
うぐぅうぐぅいいながら起こるアユ。
ユウイチ達は慌てて、
「すまん失言だった」
「悪い・・・」
と謝るが、大分ご立腹のようだった。
「まあまあ、アユ。それぐらいで勘弁してやれよ」
奥から、もう一つのワゴンを押して
人柄のよさそうな顔をした、年配の男性が入ってくる。
「よっと・・これで全部そろったな」
料理を並べ終え、男性は満足そうにうなずく。
「さて、まずはあったかいうちに食べてくんな」
全員にグラスが行き渡り、
「それじゃ、乾杯はユウイチ君にしてもらおうか」
ズアイフさんはユウイチのほうを見てそう言った。
え?俺は全員を見渡す。
・・・・・視線が集中している。
しかも、俺の立ち位置はテーブルの中央だし。
「え〜ゴホン」
わざとらしい咳払いの後
「この国での出会いに乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」
こうして、夕食会はスタートした。
「挨拶がまだだったな、俺はキヤイタ。アユの父親で、
喫茶店のマスターだ。夕食用のメニューもおいてあるから
ズアイフ様にはよく利用なさっていただいてるんだ」
キヤイタさんは、はっはっはと笑いながら話した。
「彼の料理は、この国の宮廷料理人に勝るとも劣らない。
両方を口にした私が言うんだから、間違いは無いよ」
ズアイフさんが満足そうに料理を食べている。
確かに、このクラスならこの国どころか世界に通用するぞ・・。
ユウイチは、そんなことを考えながらも次々と料理を食べていた。
すると、アユが
「飲み物のおかわりはいりませんか?」
と声をかけたので、
「ああ、もらうよ」
ユウイチはグラスを差し出した。
「はい、どうぞ・・きゃぁ!?」
アユがボトルを手から滑らせ落とした。
やばい!と思い反射的に手を出すが届かない。
ところが、落とした時にバランスを崩したアユが
ぽんと、足でボトルを支えた。
絶妙なバランスだ。ちなみにまたしてもこけている。
「うぐぅ・・ユウイチくん。早くとって・・」
俺は慌ててボトルを引き上げる。
「やれやれ・・またかい」
キヤイタさんはあきれたように言った。
「兄ちゃんたちもびっくりしたろう?こいつは結構派手に
どじをやらかすんだが・・。驚くなよ?
全部が全部被害にならないんだ」
祐一とジュンが再び固まる。
どうでもいいが今日は固まってばかりだ。
本当にどうでもよかった。
「今じゃ、幸運少女アユなんて呼び名がついてんだよ」
どじなのは不幸じゃないのか?
ジュンはそう思ったが口には出さないことにした。
「なんていうか・・・大変だなアユ」
ユウイチは同情するようにアユを見る。
「うぐぅ・・・初対面の人にまで同情されるなんて
ボクだけだよ・・」
「やったな!世界初だ」
「うぐぅ!嬉しくないよ!」
うぐぅ・・といいながらユウイチに絡むアユ。
からかうと面白いな。
ユウイチはそう思った。
しかし、背後から何者かのプレッシャーを感じた。
「う〜〜〜〜〜〜〜」
「えぅ〜〜〜〜〜〜」
「あはは〜〜〜〜〜」
先刻からさらにパワーアップしている三人娘。
はたから見れば仲良く語らっているようにも見える。
というかユウイチ本人はそのつもりだ。
ところがどっこい、まがりなりにも好意を寄せる少女達から見れば、
それは、面白い光景ではなかったのである。
さらに不幸なことは、ユウイチが超鈍感男だったこともある。
ユウイチはこの後、三人にとっかえひっかえのごとく
引っ掻き回された。
「・・みまみま」
その様子をマイは一心不乱に料理を食べながら眺めていた。
そして思うこと
(・・私の出番が少ない)
善処します(汗
翌朝・・・・・・・。
ズアイフさんの用意した馬車で
ミサカ姉妹、ミナセ親子、ツキミヤ親子、ミシオは
帰っていった。
ナユキは今後の打ち合わせのためここに残っている。
「さて、君達の事務所を自衛団のある中央区に手配しておいた。
早速行ってみなさい」
ズアイフさんが、別の馬車を用意する。
「貴族の居住区では、一般人が駆け込みにくいからな。
用意しておいたよ」
「なるほど」
確かにそのほうが色々と都合がいいだろう。
特に町の人たちにとっては。
「それじゃ向かってくれ」
「かしこまりました」
御者は軽く一礼をし、町へと馬車を走らせた。
「どんな事務所かな?」
「あはは〜楽しみですね」
「わたし猫さんのいる事務所がいいな」
「・・はちみつくまさん」
「なんか秘密基地みたいでわくわくしますね」
「カオリ・・・俺の心はいつも貴女とともに・・」
約1名壊れているのがいたが、ユウイチ達は、
始まりの場所への思いに期待を膨らませていた。
続く
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