ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 10 影の暗躍
二人が構えてから、どれくらいの時間がすぎただろうか。
微動だにしない二人。
「どうした・・・?来ないのか」
「・・・行くぞ」
サイトウが挑発し、ユウイチがそれに乗る。
カツン・・・。
小石の道に転がる音。
「はぁぁっ!!」
ユウイチがその場で剣を振るう。
すさまじい衝撃波がサイトウを襲う。
「ちっ!」
サイトウは、槍でそれを受け流す。
砂煙が舞い、晴れた時にはユウイチはそこにいなかった。
「上!」
ギィン!
サイトウはその場で槍を上に向け、
ユウイチの上空からの攻撃を受ける。
「やはりこの程度は通用しないか」
ユウイチはにやりと笑う。
「わかってるならやめときゃいいのによ」
サイトウもまた笑う。
二人は、すかさず間合いを取り、再び元の位置に戻る。
「しっ!」
サイトウは槍を下から上へと払い上げる。
飛び込もうとしていたユウイチがそれを横に避ける。
「くらえ!」
すかさず薙ぎ払いで横っ腹に斬撃を放つユウイチ。
しかし、すんでのところで、槍の後ろで攻撃を止められた。
「甘いな・・喰らえ!」
バチィン!
反動でユウイチを突き飛ばし、動きの止まったユウイチに
サイトウは、
「風烈砕!!」
風をまとった連続突きを放ってきた。
「ぐああぁぁぁ!!」
ユウイチは避けきれず、まともに喰らった。
しかし、技を見切り、ユウイチは連撃の途中に、サイトウの槍を弾く。
結果、サイトウは大きく体のバランスを崩す。
「しまった!?」
「今度はこっちの番だ!」
ユウイチが深く腰を落とし前傾姿勢で、サイトウの懐に一気に間合いを詰める。
「リノーバス流・・」
氣のたまった剣が、切り落としで放たれる。
「烈破刃!!」
ザシュウウ!
右肩から斜め状の傷がサイトウにつけられる。
「うあああぁぁ!!」
たまらず肩ひざをつくサイトウ。しかし、片手でユウイチの足を払おうとし
槍を振るう。
「おっと!」
ユウイチはそれを避ける。しかし、着地の時に
足にかかる苦痛にやや顔をしかめた。
(さっきの風烈砕か・・・・)
どうやら、右足はクリーンヒットしたらしい。
「まあいい。勝負はこれからだ」
ユウイチはやや右足をかばいながらも再び剣を構える。
「そう来なくちゃな」
また、サイトウも左手だけで槍を持つ。
二人が再び、一触即発の状態に入ったとき、
「ユウイチさん!大変です!中央通りにモンスターが現れました!」
カズヤの声が響き渡る。
「すぐに集まってくれって・・姉さんから連絡が!」
ユウイチはサイトウの方に向くが
いつのまにかサイトウは、屋根の上に上っていた。
「とんだケチがついちまったな。勝負はお預けだ、ユウイチ」
器用に、屋根を飛び越えあっという間にサイトウは見えなくなった。
ユウイチは、右足の異常を調べ、
「いけるな・・カズヤ!行くぞ!」
「あ・・はい!」
二人は中央通りに向かって駆け出した。
一方・・・中央通りでは、
「参りましたね・・ユウイチさん達は、ここから一番離れた位置にいますよ」
サユリは誤算だったと頭を抱えたが、
「・・二人なら、皆がくるまで抑えられる」
マイは、愛用の剣「ガーディス」を抜いた。
「そうですね、マイ。皆がくるまで頑張りましょう!」
サユリもまた杖を手に、襲い掛かるモンスターに立ち向かう。
目の前にいるのは、植物型巨大モンスター
マンイーターだった。
「だから・・いったろう?ちょっとお遊びがすぎたんだって」
サイトウは、傷の手当てもそこそこに誰かに言い訳をしている。
「全く・・勝手に暴れまわるな。貴様の名前は有名だろうが」
小太りの男が、サイトウに怒鳴りつける。
「しかし、なんだってそんなにユウイチ達が邪魔かねえ?
あいつらのしてるこたあ、この国に取っちゃ
ありがたいことだと思うんだが?」
「ふん・・。町民を守るだと?貴族の生活の歯車に
何ら噛み合わぬものなんぞ、邪魔になるだけではないか」
憤慨して怒る男。
「やれやれ・・権力で思い通りにならねえ奴は消すってか。
たいしたタマだね。まあ・・人のことはいえんがな」
ははは、とサイトウは笑う。
「いいか!表ざたにはなるなよ!秘密裏に消すんだ・・いいな?」
「ああ・・わかったよ・・コールズの旦那」
サイトウはいい加減に返事をしながら部屋の外に出た。
(ま、金さえもらえりゃ俺に思想なんてもんは必要ねえ)
鼻歌をうたいながら、サイトウは部屋に戻る。
「まったく・・どいつもこいつも」
自分の権力で思い通りにならぬものはないと思い込むコールズ。
それこそが、彼の器の小さいところだが、そんなことを振り返るほど
彼は人として出来てはいなかった。
「おい!サイトウを連れ戻すために囮に巻いたのはなんだ?」
執事に怒鳴りつける。
「はい、兼ねてよりの魔道実験により人為的に産み出すことに成功した
マンイーター改良型です」
「ほう・・よし、データを取りそこなうんじゃないぞ!」
執事は頭を下げ
「かしこまりました・・・」
そう言って再び部屋の外に出る。
「くっ・・これじゃいつまでも本体を攻撃できない」
マイは触手を薙ぎ払うので精一杯だった。
いかに手数の多いマイとはいえ、
無数の触手に加え、再生能力が高いとなると
手には負えなかった。
サユリの補助魔法をかけてもらっても、状況は変わらないだろう。
歯を食いしばりながら、サユリは何か手を打たねばと考えていた。
その時、
「マイ!触手の根元をえぐるように斬れ!!」
ジュンの声と共に、
「炎獄破!!」
ゴオオオオオ!!
巨大な炎の衝撃波が、マンイーターを包む。
さすがに炎で焼き払われては、触手もすぐには再生できない。
「・・・チャンス」
マイはこの機を逃さなかった。
「カワスミ流聖剣技・・」
マイの剣が綺麗に円を描く。
「聖剣・氷牙!!」
氷をまとった鋭い弧を描く斬撃が、触手を根元から、
三、四本まとめてぶった切る。
切られた部分は凍りつき、そして氷は生命の活動を停止する。
「ざまあないな。さて、こっからが俺達の反撃だ」
ジュンとナユキが合流する。
「おいおい、俺達も混ぜてくれよ?」
ユウイチと、カズヤも追いついた。
「ユウイチ!?どうしたのその怪我!?」
ナユキが慌てて駆け寄る。サユリも心配そうにユウイチの側に来る。
「心配するな、動けないほどじゃない。それよりも・・」
怒りを剥き出しに、マンイーターが再び動き出す。
「あいつを片付けるのが先だ!」
続く
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