ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 19   非道の果てに





     
     中は普通の廃屋だった。所々が朽ち果て蜘蛛の巣などが張っている。

  「いかにもな感じの部屋だな」

  ジュンが言いながら奥のドアを探る。

  「奥から気配を感じる・・行こうか」

  俺はうなずいてナユキを振り返る。

  その目は大丈夫だよと言っていた。

  俺は微笑み返し、ジュンの後に続く。

  




  その部屋は広かった。床には魔法陣がしかれ、辺りには怪しげな

  装飾品や供物がささげてあったりする。

  その中心に奴はいた。

  「追い詰めたぞ・・ネクロマンサー」

  ユウイチは、静かに語りかけた。

  「無粋な呼び方はやめてくれ・・。私にはイグサムという名がある」

  男は心外だと言わんばかりだった。

  「てめえの名前なんざどうでもいい。俺たちの要求は子供達の魂を返して
   とっととこの街から出て行け」

  ジュンが構えを取り威嚇する。

  「・・それは出来ぬ。この機を逃せば次は20年は待たねばならぬ」

  そういって儀式の準備を黙々と続けるイグサム。

  「どうせろくなことじゃないんだよ!すぐに止めさせるよ!」

  ナユキが珍しく激昂している。

  「どんな理由があろうと子供を物のように扱うなんて
   絶対許せないよ!」

  「同感だ。悪いが止めさせてもらうぜ」

  ユウイチは腰の剣を抜く。

  「崇高なる目的を理解できぬ小童共がいきがりおって・・」

  イグサムは立ち上がり呪いの言葉をつぶやいた。
  
  「我が邪魔はさせぬ!長年をかけ磨きかけた闇魔法の恐ろしさ!
   とくと味わえ!!」

  「絶望の影を呼べ!黒き災いを!ダークフレイム!!」
  
  呪文の詠唱が終わると、黒い炎が俺たちを襲った。

  ユウイチは反射的に魔法を放つ。

  
  「我もたらすは、強固なる光の盾」

  「刻みし陣よ!その後ろに如何なる災いを通すなかれ!」

  「マジックシールド!!」

  しかし、魔力の集中する時間が少なかったため

  あまり強固なシールドは張れなかった。

  防ぎきれなかった炎が三人を襲う。
  
  「くっ!」

  「きゃあっ!」

  「つっ!」

  だが、それほどのダメージにはならなかった。

  「この野郎・・・。大体魂なんて何に使う気だ!」

  ジュンが飛び掛りながら怒鳴りつける。

  「我が研究に悪魔との契約がある。悪魔は要求をかなえる
   代わりに魂を人間に要求するのが定説だ」

  しかし、イグサムは語りながらジュンの攻撃を払いのける。

  (こいつ・・魔道士のくせになんて力が・・!?)
 
  しかしジュンの思考はそこで途切れた。
 
  壁に叩きつけられたからだ。

  「私はその理由を考えた。魂という不確かな存在を研究したどり着いたのだ。
   悪魔は魂を喰らい、己が魔力を強化しそして悪魔として成長するのだと」

  狂気をはらんだ声でイグサムは語る。

  「ネクロマンサーと言えど、魂を刈り取るのは容易ではない。
   そこで私は子供に目をつけたのだ。子供の魂はまだ、形が確立していない。
   純粋だと言ってもいいだろう。そういった魂は非常に操作しやすい・・」

  「それで、貴様は自身の魔力の糧にするつもりか!!」

  ユウイチは剣を振るいながら怒鳴る。

  怒りをはらんでいた。あまりに身勝手な欲望を語るこの男に。

  「そうだ!人間という壁を私は打ち破るのだ!様々な角度から
   検証した結果、私の魔力はこの日に一番高まる!この機を逃すわけにはいかん!!」

  はっとしてユウイチは床を見た。見覚えのある文字の羅列。
  
  「これは・・悪魔召喚の魔方陣!!」

  ユウイチが怒鳴るとジュンが気づいたように

  「まさか・・・自分を悪魔に見立てて魂を喰らうと言うのか!?」

  「そんな・・人であることを捨てるつもりなの・・?」

  ナユキが悲痛な叫びを上げる。

  「人!?そんなものに捕らわれていては、魔道の道は追求できぬ!!
   それに捨てるのではない!超えるのだ!!」

  ゴウッと音がするとナユキは黒い波動に吹き飛ばされた。

  「あうっ!!」

  壁に叩きつけられそのままずるずると壁から下がるナユキ。

  それを見たユウイチはさらに怒りに燃えた。

  「ふざけるなよ・・。貴様の馬鹿げた茶番にこれ以上付き合ってられるか!!」

  ユウイチは普段以上のスピードで間合いを詰める。

  しかし、時は無情だった。

  「時間だ・・・!!」

  ゴウッ!!

  魔法陣が光を発し、ユウイチ達は魔方陣の外にはじき出される。

  「さあ・・偉大なる魔力よ・・我が手に・・」

  イグサムは足元に小ビンをおき口をあけた。

  魔力に導かれるように淡い光を放つ発光体が徐々にビンから現れる。

  それは、間違いなく子供達の魂だった。
  
  「くそおっ!!」

  ユウイチ、ジュンの二人は魔方陣から発する障壁に攻撃を仕掛ける。

  しかし、障壁はびくともしない。

  「もう遅い・・せめて見届けよ・・。偉大なるネクロマンサーの誕生を!!」

  イグサムは勝ち誇ったように叫んだ。

  しかし、イグサムの様子は特に変わらない。

  「何故だ・・?」

  その時、






  『愚かな人間よ・・・。知に溺れ、欲を極めし奢りし者よ・・』



 

  辺りに不気味な声が響き渡る。





  『だが・・・汝の行為は我の助けとなった・・褒美に・・』




  そして、イグサムは力を手に入れる。



  
  『汝が欲する力をくれてやろう・・・・』



  ただし、その瞬間に彼の崇高なる目的とやらは消え去ったのだが。




  「うごおおおおお!?」

  醜く異形のものに変化するイグサム。

  いつのまにか、解けていた結界の間から魂たちは逃げていく。

  「よし・・子供達は無事か・・・」

  だが、目の前にはもう一つの問題がある。

  「う〜ん・・ユウイチ?」

  ナユキが目を覚ます。

  「よう、最悪のお目覚めだぜ」

  ユウイチが冗談めかして言う。

  今、目の前にはいるのは人でも悪魔でもない。
  
  愚かな道を極めようとした果てにたどり着いたのは

  異形という哀れなイグサムという名の化け物だった。

  「わ・・」

  さすがのナユキも言葉を失ってしまった。
  
  何しろ4本の腕、肩から突き出た刺、鋭い牙。

  そして瘴気。紛れもなく現世の物ではない異界の空気。

  「愚かだな・・。だがこれも一つの道を探求する上の結末か」

  ジュンが抑揚のない声でつぶやいた。

  「せめて・・俺達が貴様の茶番に幕を引いてやるよ」

  ユウイチが剣を再び構える。

  「お前の命を絶つことで!!」

  三人は一斉にイグサムに攻撃を仕掛けた。

  













  ――コールズ邸秘密部屋


  「き・・貴様・・裏切ったのか?」

  壁際に追い詰められコールズは憎しみの言葉を吐いた。

  サイトウは手に紙の束を持ち、答えた。
 
  「最初から貴様の私兵になった覚えはない」

  サイトウは一つ一つ丁寧に紙に目を通し

  「どうやら、全部の研究成果はまとめてあるようだが・・。
   おい、おっさん。まだあるよな?人には言えないような
   ぶっ飛んだ研究がよ?」

  黒い槍を突きつけ、ドスの利いた声でサイトウはコールズを脅す。

  「し・・知らん」
 
  「言ってな。すぐに喋りやすくしてやるからよ」

  ザシュ!

  槍がコールズの指を貫いた。そう、指だけを正確に。

  コールズはたまらず叫びながら、床を転げまわる。

  「まあ・・早めにしゃべった方がいいとは思うけどな」

  サイトウは独り言のように語る。

  地下からコールズの哀れな悲鳴が響き渡った。

                                  続く

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