ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 17 雨の中の死闘
体が重い・・・・まるで自分の体じゃないみたいだ・・。
感覚もあまりない。血を・・流しすぎたかな?
だけど・・今・・僕に出来ることは・・・。
目の前の男を、・・相手にすることだけだ!
「はあああ!!」
剣を持つ手に力を込め、真正面から相手に向かうカズヤ。
「ふっ・・愚かな。特攻など我の前では、届かぬと知れ」
男は、呪文を唱え手をカズヤにかざした。
カズヤの周りに黒い牙のようなものが現れる。
「なっ!?」
とっさにカズヤは、剣でそれを払おうとする。
だが、牙はすっとカズヤの剣をよけ、深くカズヤに突き刺さる。
「うわああ!?」
たまらず足を止め、片ひざをつくカズヤ。
「カズヤさん!?」
シオリには何が起こったのかわからなかった。
「ふっ・・闇魔法ダークファング。魔力を持たぬものにこの牙より逃れるすべはない」
くっくっくっ・・と押し殺した笑いをする。
「さて・・次は2本といこう。耐え切れるかな?」
すぐさま、先ほどの牙が今度は2本現れる。
(おかしい・・いかに魔法といえども氣をこめた剣ならば
かき消したりすることが出来るはず)
だが、牙はカズヤの剣を意図的に避けた。
それが意味するのは・・。
(遠隔操作か・・・自律系!!)
カズヤは、どちらかを見極めるため賭けに出た。
おとこの前に牙を無視して特攻する。剣を振る動作までする。
カズヤは、男の一挙一動を、監視していた。
わずかに、指先が動く。それと同時に背中に牙が突き立てられる。
「ぐっ・・」
だが、予想していたことだったのですぐさまそれを払いのける。
「ふははは、たいしたスピードだったがそれでは後一歩届かぬな」
男は高笑いをはじめた。カズヤはにやりと笑ってみせる。
「・・ん?何だ、何がおかしい」
「その答えは、すぐにわかるさ」
カズヤは剣を相手に向け、腰に水平に構える。
(チャンスは一度。この技に全てをかける!)
「カズヤさん・・」
シオリは心配そうに声をかけた。カズヤは振り返らずに
「絶対に・・守ってみせる」
力強くそう答えた。
「行くぞ!!」
最初の時のように特攻をかける。男には玉砕覚悟に見えただろう。
「哀れな小僧だ!せめて3本の牙で楽にしてやろう!!」
すぐさま、現れたのはあの黒い牙。
(チャンスは一瞬・・・!)
男の指が動き、牙が一斉にカズヤに降りかかる!
(今だ!)
カズヤは、氣を高める。そして
「ソニックエッジ!!」
自らのスピードで切り裂く技で一気に間合いを詰める。
牙は虚しく地に刺さる。カズヤの剣は男の横っ腹を切り裂いていった。
「ぐあっ!?・・な・・何?」
自分の狙いが外れたことが、男に動揺を与えた。
しかし、すでに後ろに回ったカズヤは次の攻撃に移っていた。
「くらえ!」
氣が高まり、カズヤの全身、そして剣に収束する。
紡がれしは・・・・風。
「スラッシュゲイル!!」
最後の力を振り絞り、一撃、一撃に気力を込める。
「うおおおお!?」
そして、最後の一撃氣をまとった最大級の一撃が入った。
勢いで町を囲む壁に激突した男。
カズヤはそれを呆然と見送っていたが、
「まだ・・終わりじゃない」
カズヤは、おぼつかない足取りでシオリの元に戻った。
「カズヤさん・・しっかり・・しっかりしてください!」
カズヤは、満身創痍だった。
両の腕は傷だらけ、体はあちこち切り裂かれ、足からも出血がひどかった。
特に腕は、先ほどの技の反動によるダメージもひどかった。
「今・・すぐ・・薬を出しますから」
泣きそうになる意識を必死にとどめるシオリ。
「いや・・まだ・・」
あいつは倒れていない、そう言おうとした時
風を切る、嫌な音を感じた。
「させるか!」
カズヤは剣で、それを落とす。だが、先ほどの牙ではなかった。
鎌のような・・黒い爪。
「うああああ!?」
カズヤは、無残に切り裂かれた。反射的にシオリをかばったのが幸いし
深手にはいたらなかったが、今のカズヤにはどんな怪我も命取りになる。
「カズヤさん!!」
倒れ掛かるカズヤを必死に支えるシオリ。
「やっぱりか・・・」
男はもう目の前にいた。魔法の力か宙に浮いている。
「惜しかったな・・せめて万全の状態で戦っていたら
どうなったかわからんがね。しかし・・」
男の周りに、再び牙と爪が現れる。
「君は私に屈辱を味あわせた。その罪は・・
死を持ってあがなえ!!」
カズヤは、それでも剣を持つ。もう戦う力など残っていないのに。
「カズヤさん!だめ!やめてください!!」
シオリの悲痛な叫びにも、牙も爪も止まらない。
カズヤの足から力が抜けていく。
(ダメだ・・倒れちゃ・・シオリさんを守らなきゃ・・
ユウイチさん達がたどりつくまで・・)
前に力なく倒れるカズヤ。
牙と爪が襲い掛かる。
そこに、
「我もたらすは、強固なる光の盾」
「刻みし陣よ!その後ろに如何なる災いを通すなかれ!」
「マジックシールド!!」
カズヤの前に魔法の盾が張られた。
爪も牙もその前に弾かれ、虚しく消えていく。
倒れかかったカズヤを支える少年の姿。
その姿をカズヤは見ていなかった。
見なくともわかったからだ。
「えう・・ユウ・・イチさん」
シオリは半泣きになりながらその名を呼んだ。
「すまない遅れた。カズヤ・・」
カズヤの意識はない。だが、生きてはいる。
自らの死力を尽くし、安心した表情がそこにある。
「よく頑張ったな・・後は俺たちに任せろ」
ユウイチは、男に向かい強力な剣圧の衝撃波を放つ!
「うごおお!?」
男は宙に浮いていたのでよく飛んだ。
「後で相手をしてやるよ・・」
そう言うと、ユウイチはカズヤを雨の当たらないとこに運び込んだ。
幸い、ここら辺は雨宿りの出来る休憩所がいくつかあった。
「シオリ、もうすぐ他のメンバーも来る。それまでカズヤのことを頼む」
「はい・・任せてください。お姉ちゃんが来るまで・・
死なせたりしません」
シオリはすぐに応急手当をはじめた。
「よし・・ナユキ!行くぞ!」
「うん!」
二人は、再び路地に戻る。
路地にはあの男が、頭に血が上ったような状態で戻ってきていた。
「おのれ・・どいつもコイツも私の崇高なる目的を邪魔しおって!
皆殺しだ!」
男は叫びながら呪文を詠唱する。
「子供を犠牲にするようなことが崇高な目的だと!?
ふざけるものいいかげんにしろ!!」
「絶対に許してあげないよ!!」
ユウイチがディザイアを抜き、ナユキが魔法の詠唱をする。
「はあっ!」
宙に浮かぶ男に対し、ユウイチはその跳躍力で同じ高さまで来る瞬間をあわせ
「双墜斬!!」
対空剣技の二連撃で、地へと叩き落す。
男は受身も取れぬまま、地面に叩きつけられる。
「ぐぼはぁ!?」
そこに、ナユキの放つ魔法が襲い掛かる。
「古代の魔印より紡ぎだされし炎よ・・・邪悪なる者に」
「聖炎の裁きを与えん!!」
「ルーン・オブ・マジック」
「セイントフレイム!!」
聖なる炎が男に覆い被さっていく。
動きが鈍いのはカズヤの奮戦のおかげだろう。
避けることもかなわぬまま、男は炎に飲み込まれていく。
「ぐっ・・これしきの炎など!!!」
自らの魔力で、炎をかき消した。
「わ・・びっくり」
ナユキはちっとも驚いたように見えなかった。
「さすがにネクロマンサーか・・魔力の高さは侮れないな」
ユウイチは、隙をうかがうように男と対峙する。
「こうなれば・・・出でよ死霊どもよ!!」
あたりに、怨霊の叫びや悲鳴が響き渡る。
次から次へと、ゴーストモンスターたちが現れ始める。
「くっ・・逃げる気か!?」
「私には時間がないのだ。貴様らを殺すなどこやつらで十分よ!」
男は、ふわりふわりと再び闇に消えようとする。
「くっ・・逃がすか!!」
ユウイチは男を追いかけようとしたが
死霊たちがその道を阻む。
ゴースト系のモンスターには直接攻撃は効果がない。
氣による攻撃か、魔法以外は通用しない。
「邪魔だあ!!」
カズヤの奮戦を無駄にしてたまるか!!
「剣舞・乱風!!」
氣の宿った乱撃で次々にゴーストを闇に返すユウイチ。
「えい!こっちにきちゃだめだよ!!」
ナユキも魔法で迎撃するが数が多すぎる。
「ふははは、そうやって死霊と戯れているがいい・・」
男の姿が見えなくなっていく。
「くそぉっ!!」
ユウイチが叫び声を上げた。
「まだだ!あいつの追跡は俺に任せろ!!」
ジュンの声がした。
声の方を見るとすでに、屋根からあいつの後を追っている。
「任せた!深追いはするなよ!」
「ああ!」
そういってジュンも闇の中に消えた。
「ユウイチさん!」
「・・ユウイチ」
サユリさんとマイも合流した。
「皆そろったのか!あれ?カオリは」
「カズヤについています・・」
そうか・・サユリさんもカズヤを見たのか・。
「後でカズヤにはご褒美を上げないといけませんね〜」
だが、心配を振り切るかのように笑顔で答える。
「ああ、そうだな」
ユウイチも心配するなという表情で
「名医と名薬剤師がついてるんだ。大丈夫さ」
「はい!」
そして、四人は円陣を組んだ。
「速攻でケリをつけるぞ!」
「「おう!」」
「・・おう」
その叫びと共に、四人はゴーストたちに向かっていった。
「ふふ・・カノンの奴らはやはり彼奴のほうを優先したか」
コールズは安心しきったように書斎の本棚をずらす。
「さて・・研究ははかどっておるかな?」
コツン・・コツンと音が響く階段を下りていく。
「なるほどな・・・こんな所にあったのか」
本棚の隠し階段を眺め、サイトウはつぶやいた。
「ようやく尻尾をつかましてくれたな・・タヌキ親父め」
音を立てないよう慎重に階段を下りていくサイトウ。
カノンの知りえぬところで動く思惑がここにもあった。
いつの間にか雨はやんでいた。
だが、今だ雲は晴れずにファグナスを覆っている。
続く
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