ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 29  激突する技と技





     
    
  舞台には、相変らず金属音だけが響いている。

  最初の激突以降、お互いが、ダメージを与えられず、

  「はあっ!」

  ユウイチが薙ぎ払えば、ルミがそれを落とし、

  「やあっ!」

  ルミが振り下ろせば、ユウイチがそれを横に流す。

  両者、均衡した戦いによる体力の削りあいが続いていた。

  しかし、実際には氣の削りあいである。

  氣なくして、彼女にダメージを与えられる術を持たぬユウイチ。

  同じく、氣がなければ格段に防御力の落ちるルミ。

  お互いにとって、雌雄を決するのは奇しくも同じ氣だったのである。











  「長いな・・」

  ジュンが時計を見てつぶやいた。

  「そうですね。あれからお互いに一歩も引いてませんから」

  秋子さんが、冷静にそれに答える。

  「それにしても、彼女たいしたもんだな。俺たちより
   はるかに、氣の使用量は多いはずなんだが・・」

  ジュンはルミの動きを監察しながら、

  「ユウイチと張り合っている。まだ、余裕があるな」

  そう答えた。

  「でも、気のせいかユウイチさん押されてませんか?」

  カズヤが気づいたようにいう。

  「・・攻めに徹しきれないから、不利ではある」

  マイがそれだけ答えて試合に視線を戻す。

  ナユキ、アユにいたっては会話をする余裕もなく、

  ただ、ユウイチの戦い振りをじっと見ていた。

  「うーん、ユウイチさんにとってはかなり厳しい戦いですね〜」

  サユリもユウイチが劣勢と見たらしい。

  「あ、二人の動きが・・」

  カズヤの一言で、一斉に試合に集中した。

















  くそっ、さっきから手ごたえのある一撃が入らない!

  いや、入れれそうにはなるんだが、ルミのやつが手早く防御するから・・。

  氣による防御力強化だけじゃないんだな・・。
 
  俺は、ルミに攻撃を入れつつ相手の防御の癖をつかもうとしたが、

  ルミは、まるで柳のようにつかみ所のない、それでいて

  バランスの取れた防御をするので、次の手が読めなかった。

  「そこぉっ!」

  俺はしゃがみこみから足払いを狙う。

  「!?」

  さすがに、これは読めなかったらしい。

  彼女の動きが止まる。

  右から左へ払う足払いを、

  「ちっ!」

  かろうじて、足のばねでかわすルミ。
 
  だが、そこからが俺の狙いだ!

  「烈破刃!!」

  切り上げの烈破刃をルミに向かって放つ。

  彼女には、こて試し程度の気光剣では通用しない。

  きちんとした技でないとダメだと悟った俺は、ずっと彼女の隙をうかがっていた。

  またとないチャンスだった。

  しかし、剣が届く瞬間、彼女の姿が消えた。

  いや、消えたのではない。

  真横に移動したのだ。空を動いて。

  カズヤがスピードを乗せるのに使った、足からの気光の使用。

  それで、移動したに違いない。

  「甘いわ!」

  完全にがら空きになった、俺の左肩に剣が振り下ろされる。

  何とか体をひねったが、俺は地面に叩きつけられた。

  「ぐあああっ!」

  頭が・・回る。景色がゆがむ・・・。

  だが、意識を失うすんでのところで、俺は体を起こした。

  そして、すかさず間合いを取ったが遅かった。

  すでに起き上がった俺の懐に彼女はいた。

  ドォン!!

  予選で、相手を吹き飛ばした氣光剣。

  あの時とは比べ物にならない。俺はまぶしい閃光に包まれ

  背中に激痛を感じたことしかわからなかった。
















  「うそ・・」

  呆然と立ち尽くすナユキ。

  他のメンバーも口を開けない。

  それは、見るものを圧倒する攻撃力だった。

  






  「情熱一刀派・乙女流、爆裂閃。シンプルだけどそれだけ強力なのよ・・・」
  
  もう、起き上がれはしないでしょうけど。

  あたしは、壁に激突した好敵手をただ、見ていた。












  「あっ・・ナユキ!」

  カオリが叫ぶ。  

  黙って、走り出すナユキ。

  ユウイチの見える場所へ。

  ユウイチに声の届く場所へ。

  ユウイチに、自分の見える場所まで!

  それだけを思い、ナユキは走った。














  体が重い・・。

  目の前が真っ暗だ・・。

  ダメか・・俺は負けたのか・・?

  体を起こそうとするが、指一本動かない。
  
  意識がまた遠くなろうとする・・・。

  












  「ユウイチ!負けないで!」



















  その一言が、俺を現実に戻した。

  そうだ、まだ全力を尽くしてない!

  俺は失いかけた意識を一気に取り戻し

  破片を思いっきりどけた。













  ドガアアン!!










  俺は瓦礫を払いのけ、立ち上がった。

  そして、ナユキを見つけると

  ナユキに剣を向け

  「まだ、負けないよ」

  俺はそれだけ言って舞台に戻った。








  「てっきりあのまま落ちたと思ったんだけど」

  ルミは嬉しそうに、剣を再び構えた。

  「生憎と、あきらめるには惜しい約束があるんでね」
  
  俺は剣を、腰に水平に構える。

  「これが最後の勝負だ」

  「望むところよ」

  俺は、ルミとの戦いで一つの結論を出した。
 
  彼女を制するのは・・リノーバス流剣聖奥義しかないと・・・・。

  今の俺なら・・できる。

  そう確信した俺は、奥義の構えを取る。

  リノーバス流剣聖奥義・三の太刀の構えを・・・・。

                                     続く

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