ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 28  決勝戦





     
    
  決勝戦当日、午後3時。

  満員の観客席に、よく晴れた天気。

  まさに、決勝にふさわしい舞台を天も用意してくれたということか。

  ユウイチ、ルミの両名は控え室でただ、己の出番が来るのを待っていた。

  他のメンバーは観客席にいる。

  






  「なあ、ルミ」

  俺は隣りにいるルミの名を呼んだ。

  「なによ、ユウイチ」

  「どうして、それほどまでに強さを求めるんだ?」

  かねてよりの疑問を俺は口にした。

  彼女は純粋に強さを求めている。

  それは、戦いに対する姿勢でもわかった。

  「なに?女が剣を持つもんじゃないって?」

  「いや、そういう意味じゃない」

  俺が聞きたいのは・・・・。

  「何故・・戦いに身を投じるか。理由を知りたいだけだ。
   別に言いたくなきゃそれでいい」

  「・・・・・・」

  ルミはしばらく黙っていたが、

  「簡単よ、常に上を目指すため。剣しか脳のないあたしが
   唯一、人に誇れる生き方。それを貫くため」

  俺は、その真っ直ぐな理由をただ、凄いと感じた。

  「そうか、たいしたもんだな」

  「ユウイチは・・複雑な理由がありそうだね」

  俺はその言葉に、ハッと顔を上げた。

  「目を見ればわかるよ。あんたは・・・相当の悲劇を目の当たりにしてる。
   悲しみを・・宿した目だから」

  否定できなかった。

  一瞬、目の前に今も忘れられぬ悲劇がフラッシュバックする。

  







  「・・・・誰が封印をといたのだ!!」

  長老が怒鳴る。

  俺は何かわからずただ、村の皆が暗い表情をしていることだけはわかった。

  「どうやら、冒険者が腕試し気分で勝手に・・」

  父がそんな報告をしているのを覚えてた。

  そして、また場面は変わる。








  「あなた・・本当にいいのね?」

  「俺たち二人なら・・なんとか」
 
  父は俺を地下の部屋に連れてきた。

  一瞬だった。もう、俺たちしかいないと思った。

  「大丈夫だ・・・・父さん達が守ってやるから」

  「ここから外へ出られるから、ユウイチはいきなさい」

  俺は一人で行かなきゃならないのか?

  いやだ!行くなら・・父さん達も一緒に・・

  







  


  「・・イチ。ユウイチ?」

  俺はルミの言葉で我にかえった。

  過去・・・・の風景。

  ジュン以外は知らない。悲しみの過去。  

  他のメンバーですら気づいてはいなかったのに。

  いや、気づいてないと思っているのは自分だけかもしれない。

  俺は・・そんな目をしているのか?

  「でも・・あんたの剣には迷いがない。憎しみも・・怒りも感じられない。
   ただ、不器用なまでに一途な思いが見える。少なくともあたしにはね」

  「これから・・剣を交えるんだ。嫌でもわかるだろう」

  俺はそういって立ち上がった。

  「あんたの理由は聞かないよ。でもこれだけは覚えておいて」

  振り返りルミの言葉を待つ。

  「どんな時だって、人は一人じゃない。ユウイチにはちゃんと
   後ろと隣りに仲間がいる。そのことを忘れちゃダメよ」

  そう言って、さっさと入り口に向かう。

  「いい勝負を」

  「ああ」

  キィン

  お互いの剣を交差させる。

  乾いた金属音が控え室に響いた。

  「二人とも、舞台に上がってください!」

  進行員の声が聞こえる。

  「はい!」

  「はい」

  俺たちは、舞台へと向かった。

  ほんの少しの期待、そして湧き上がる強者との戦いに対する胸の高鳴り。

  











  「それでは、ただいまより決勝戦を始めます!!」

  ワアアアアアア!!

  その言葉に湧き上がる観客。
  
  観客席からは、すでに二人の姿が確認された。

  「おっ、出てきたぞ」

  ジュンが二人を見つける。

  「ユウイチさんの剣・・はたして彼女に通用するでしょうか?」

  いつになく慎重な意見を言うミシオ。

  「ユウイチくんは負けないよ。ねえナユキさん」

  「うん、大丈夫だよ」
 
  アユとナユキの二人が自信を持って答える。

  「どっちが勝つかは最後まで見ないとわからないわよ」

  香里も冷静にそう答えた。

  「あっ、始まりますよ!」

  カズヤの声で、全員の視線は舞台の上の二人に集中した。















  「それでは、決勝戦・・・」

  お互いが、すかさず戦闘体制に入る。

  「始め!!」

  同時に二人は前進した。

  ルミは両手剣を振りかぶり、眼前に切り下ろす!

  だが、俺はその剣を柳のように受け流し、

  がら空きの頭上にやや、上部を狙う右薙ぎを放った。

  「はあっ!」

  ガッ!

  しかし、手ごたえはまるで、切れない剣で巨木に斬りつけたような手ごたえだった。

  「やあっ!!」

  ルミが地に突き刺した剣を支えに、周囲に衝撃波を起こす。

  俺はたまらず後ろに下がる。

  「くっ!」

  直撃は避けたが、彼女の防御力、攻撃力は予想以上だった。

  「ただの攻撃なら・・あたしには通用しないよ」

  彼女の剣が淡く光っている。

  氣を常にまとっているのだ。俺たちとは絶対的に氣の量が違う。

  「無駄遣いじゃ、こっちが先に息切れするな・・」

  俺は剣を正眼に構え、集中する。
 
  相手との間合いを慎重にはかる。

  じりじり・・じりじり・・。

  向こうが、俺との間合いを詰めようと動き出す瞬間!

  俺はその動作に移る瞬間を見逃さなかった。

  「剣氣・巻旋風!!」

  螺旋を描くような回転と共に、剣氣の渦の衝撃波を遠間に放つ!

  「!」

  ルミは、全身を止め防御の姿勢に入り、氣を流そうとする。

  だが、それが俺の狙いだ!

  さらに高めた氣を込めた剣でルミを衝撃波ごと切り裂く!

  振りかぶり、軽く飛び勢いをつけて剣を振り下ろす!

  「旋風断(つむじだち)!!」

  真空波ごと相手を切り裂く大技だ。
 
  ザクッ!

  軽かったが、彼女自身への手ごたえは確かにあった。

  そのまま、後ろに彼女は吹っ飛んでいった。

  ドガアアアン!

  舞台に大きく叩きつけられる彼女。

  だが、右頬に痛みが走る。

  触ると、切れていた。

  「まさか・・・」

  真空波を切り裂き、吹っ飛ぶ間際に切りつけたのか・・・?

  彼女はゆっくり起き上がる。

  肩から少し出血が見える。手ごたえよりダメージは大きかったらしい。

  「惜しかったわね、本当は肩の支点を狙ったんだけど」

  右肩をつぶす気だったのか・・。

  あらためてルミの凄さを見た気がした。
 
  「今のは効いたわ・・。自分の血を見るのは久々よ」

  「そいつは光栄だな」

  すっと、再び俺たちは剣を構えた。

  「まだ・・」

  「勝負はこれからだな」

  二人で顔を見合わせ微かに笑う。

  決勝戦はまだ始まったばかりだった。


                                     続く

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