ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 15   リオラハ遺跡探索 後編





     
     ゾンビの群れに包囲され、逃げ場を失ったユウイチ。

  とにかく今は、襲い掛かるゾンビを斬るだけしかなかった。

  中心にユウイチがいるため、派手な技を使えないメンバー達は

  何とか、救出策を練っていた。

  「はやくしないと、ユウイチがゾンビの餌になっちゃうよ〜」

  完全に慌てているナユキ。

  「・・用は、ユウイチさんに被害が及ばなければいいんですよね?」

  カズヤが、何かを思いついたらしい。

  「姉さん、精霊魔法に魔法か・・炎から身を守るようなものはなかったっけ?」

  あ、とサユリが声を上げる。

  「ある!ありますよ!偉いよ、カズヤ」

  「後は、その状態でなら、ユウイチさんを傷つけずゾンビを一層出来ます」

  カズヤは一通り話終えた。すかさず剣を抜く。

  「よし!それじゃ、俺の出番だな」

  ジュンが氣を練る。特大の者を撃つ気なのだろう。

  「それじゃ〜いきますよ」

  サユリが詠唱をはじめる。

  

  「偉大なる陽の四元素を司る精霊の一人に我、問い掛けます」

  「我との盟約の元に、その力、我に示せ!」

  「火の精霊イフリートよ!その雄々しき炎で、我らを火の脅威より守りたまえ!!」

  「ファイヤ・シールド!!」

  

  ユウイチの周りに、赤い膜が張られる。

  「これは・・?」

  「ユウイチさん!それは火属性の防御魔法です!!
   ジュンさんの攻撃をくぐってこっちへ来てください!」

  「わかった!!」

  ユウイチが、仲間たちに向かって突進をはじめる。

  「喰らいやがれ!!」

  ジュンがその氣の全てを開放する。

  「破砕炎!!」

  炎獄破を上回る、巨大な炎の波がゾンビたちを包む。

  さすがにその場にいた全員が目を見張った。
 
  いや、ユウイチは走りこんでいたが。

  「す・・すごい」

  カズヤは素直に感心していた。

  その間に、ユウイチは仲間たちと合流する。

  「助かったぜ・・」

  後ろを見れば、ジュンの放った炎の氣は今もなお

  ゾンビたちを焼き払っているが・・・。

  しかし、ユウイチ達にさらに追い討ちがかかる。




 
  ゴアアアアア!!




  後ろを見ると、入ってきた入り口からゾンビの群れが押し寄せている。

  おそらく、あの目玉の化け物が呼び寄せたのだろう。

  「ちくしょう挟み撃ちか・・・」

  しかも倒してもすぐに復活するのだ。

  今もなお、次々にゾンビは地からよみがえっている。

  「これじゃ・・どうしようもないよ」

  ナユキが弱音を吐いたが

  「いや、大丈夫だ。今度は俺が皆を助けるよ」

  ユウイチが自身ありげに、剣を地面に突き立てる。
  
  「ジュン、今からホーリーエンブレムの詠唱に入る。
   皆と一緒に時間を稼いでくれ」

  「おお、あれか。よし、皆、今はユウイチを信じろ。
   ゾンビを近づけるな!」

  ジュンが、入り口側のゾンビを押さえにかかる。

  「・・任せる、ユウイチ」

  マイがそれに続く。

  「わかったよ。私もユウイチを信じる」

  ナユキが、魔法詠唱に入る。

  「姉さん、援護をお願いします」

  「はい、任せなさい」

  カズヤが、化け物側ゾンビに立ち向かう。

  サユリは、全員の援護だ。








  「でりゃあああ!!」

  ジュンの蹴りが、ゾンビを吹き飛ばし、

  「・・ふっ!」
 
  マイの剣が、一刀両断する。

  「はあああぁぁ!」

  カズヤが、その身のこなしで次々とゾンビを切り裂く。

  

  「我、暗闇を照らす一条の光のごとく細き」

  「魔を切り裂く剣のごとき鋭い光の雨をもたらさん!!」

  「ブレード・レイ!!」

  

  詠唱と共に、「剣」・「光」・「雨」のルーンで魔法を形成するナユキ。

  完成した魔法によりあたりのゾンビを、薙ぎ払う細い光の雨が現れる。

  触れただけで霧散するゾンビたち。

  ジュンたちは善戦していた。

  しかし、相手は無限大。時間がかかればかかるほど

  体力にも魔力にも限界が近づく。

  だが、その時
  
  「よし!!」

  ユウイチの声が響く。


  「ここに刻みし、聖なる印は」

  「一切の魔の存在許さぬ、退魔の空間を作り出す」

  「消え去れ!不浄なる存在よ!!」

  「ホーリーエンブレム!!」

  

  ユウイチが、詠唱と共につき立てた剣を、半円状に振る。

  ユウイチを中心に、陣が広がりついには部屋全体を覆うほどになった。

  陣が完成すると、ゾンビ達は地に帰っていく。

  目の前にはあの目玉の化け物だけが残っている。

  「後はコイツだけか・・」

  少し、息切れを起こしているジュン。

  「ここで、しくじるわけにはいかねえ。ユウイチ、とどめは任せた」

  ジュンが、飛び掛り触手を封じる。マイとカズヤもそれに続く。

  いつのまにか、コンビネーションの取れてきた、カノンメンバー達。

  「ああ、任せとけ」

  ユウイチが、一気に走りこみ懐に飛び込む。

  その速さは、まさに高速。

  「うらああぁぁ!!」

  スピードと重心を全て剣に預け、払いぬけた。

  その剣閃は化け物を一刀両断にする。



  あたりに



  声にならぬ



  悲鳴が響いた。











  

  「だめだ。奥は空っぽだぜ」

  ジュンが戻る。どうやら化け物を封印するためだけだったらしい。

  「まあ、それなりの収穫はあった。戻ろうか」
  
  次々に部屋を出る、俺はふと中心にある

  オネを祭ったと言う銅像を見る。

  それは、小さな少女だった。

  







  俺たちは、ミシオに結果報告をした。

  「それじゃ・・危険が無いわけではない?」

  「ああ、ズアイフさんに頼んで、立ち入り禁止にしとくよ」

  ユウイチは、そう答えた。

  怪我こそ無いが、全員疲労しきっていたからだ。

  「ありがとうございます。皆さんお疲れ様でした」

  ミシオは、一礼をすると事務所を出て行った。

  「さて・・明日は今後の対策を立てるか。今日は解散」

  ユウイチの一言で、皆、家に帰ることにした。

  戦う少年達も、この時ばかりは年相応の笑顔を浮かべていた。















  「ちっ・・全く使えん部下だ」

  コールズは苦々しげに酒をあおっている。
 
  当分表立った行動を封じられたからだ。

  「何とかしなければ・・わしの地位も危ない」





  「・・よろしければ相談にのりましょうか・・?」



  くぐもった男の声が当たりに響く。

  「誰だ!わしの屋敷に無断で!!」

  あたりに叫ぶコールズ。ふと見ると

  部屋の窓の側に、フードをすっぽりかぶった男がいる。

  「な・・そこから来たと言うのか・・?」

  ここは、ちょうど塔の部屋。高さはかなりある。
 
  屋根から来たにしろ、下から上ったにしろ

  かなりの人物であることは伺えた。

  「・・私はこれからこの街で『一仕事』しますゆえ・・。
   彼らの目も私に向くでしょう・・・」

  「貴様を隠れ蓑にしろと・・・?」

  コールズは、考えた。ここで相手に足元を見られるわけにはいかない。

  「見返りはなんだ?」
 
  「・・いえ・・特に・・ただ・・子供が簡単に集まる場所を教えて
   ・・いただけませんか?」

  子供・・か・・。

  「・・この街のはずれの地区にある孤児院のガキどもならどうだ?
   身よりも無いし、都合がよいのではないかな?」

  「・・ご協力感謝・・」

  ふっと、すでに男は消えていた。

  「何者だ・・?まあいい。奴にせいぜい囮にたってもらうか」

  今度は、上機嫌で酒をあおるコールズ。

  単純な男である。




  そして、部屋の外からそれを伺う男。

  「やれやれ・・旦那の言うとおり、ろくでもない奴が集まってきやがる」

  サイトウは、一部始終を眺め顔をしかめた。

  「さっさと尻尾つかましてくんねえかな・・・」

  サイトウはそっと部屋の側を離れた。

  様々な思惑が交錯し始めている。

                                      続く

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