ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 32 昔語り 中編
「俺の住んでいた村は山間の小さな村だった・・・」
俺は今まで心の奥底に封じ込めていた風景を思い、懐かしむように
その言葉をつないだ。
「平和な村だった。だが・・この村は非常に大きな役目を背負っていた」
そう・・・子供の俺にはわからなかった。
そして、その役目自体が村を・・・。
「・・・そしてその村はもう・・今はない」
そして蘇る昔の光景・・・・・・・・・・。
「やっ!」
少年は子供には似合わないほどの鋭い剣を打つ。
「甘い!」
そして年配の男性はその剣を軽々と受け止める。
男が小手先を狙うように鋭い一手を放つと
少年の手から剣はするりと離れ、宙を舞った。
「あ・・・」
「残念だったなユウイチ」
ユウイチはちぇっと言いながら落ちた剣を拾った。
「やっぱりお父さんは強いね」
「お前もまだまだこれからだ。もっと精進するんだぞ」
男性は剣を担ぐと、ユウイチに向き直り、
「よし、それじゃロードワーク10本!走って来い!」
「うん!」
ユウイチは背を向けると、山道に向かって走り出した。
「ルークよ・・」
「これは・・・長老」
ユウイチが聞いたのはそこまでの会話だった。
「よしっと・・これで10本」
この村では山で取れる木の実や山菜が多い。
そのため山に入る道は、村の者によって整理され
山には比較的に入りやすくなっていた。
村を見下ろせる小高い丘。
ユウイチはロードワークの終わりにここから見える広い世界が大好きだった。
いつかこの世界に足を進めるのだと。
全てをこの目で見届ける。
少年の胸には壮大な夢が広がっていた。
「お母さんただいま〜。あっ長老様!」
ユウイチは家に長老がいるのを見て慌てて頭を下げた。
「おおユウイチよ。邪魔しとるよ。どうじゃ?
剣は上達したのか?」
「う〜ん。まだダメ。お父さんに一本も入れてないから」
「ほっほっほ、ルークよ。自分に満足しないのはお前譲りかも知れんなあ」
ルークは笑いながら頭をかき、
「そうかもしれませんね」
そう答えた。
奥からおっとりとした女性が飲み物を持ってやってきた。
「長老、どうぞ」
「おおすまぬなイレイヌ。ありがたくいただくとするよ」
長老は差し出された茶をすする。
「ユウイチ、直ぐに夕食の支度をするから部屋で着替えてらっしゃい」
「うん、わかった」
パタンとドアを閉めユウイチは部屋を出た。
着替えて戻ると、ドアの向こうから少し会話が聞こえた。
子供なりの好奇心でユウイチはそっと聞き耳を立てた。
「・・封印・・・まって」
「まずい・・・・手を・」
「・・・には・・魔法・・」
だが、よく聞こえなかった。
ただ、両親も長老も真剣な口調で話していたから
大事なことには違いないはずだ。
ユウイチはばつが悪そうにそっとドアの前を離れた。
その5分後に、ユウイチは何気ない顔で居間へと姿をあらわした。
翌日・・・・。
今日もルークと共に剣の稽古。
「打ち込み!1000本始め!」
まずは基本の型のおさらい。
基本が出来ずして応用など出来はしない。
ルークの教えはそうだった。
そして、昼になる頃にはユウイチは基本の型を全て終えた。
「速くなったなユウイチ。もう稽古を始めて3年になるものな・・・」
7歳の時から仕込まれつづけた、ルークの名もない剣。
「ちゃんとした剣術の師匠がいればお前ももっと強くなれるんだがな・・・」
いずれそうした人物が現れればいいのだがと、ルークは思った。
「それじゃ、仕上げの実戦稽古に入るか。打って来いユウイチ」
「うん!」
途端に子供らしからぬ鋭い目つきに変わる。
この子は・・・天性の剣士だ。
俺にはない才能をいくつも持っている。
直観力・・応用力・・剣士として必要なものをこんな子供の時から使いこなせている。
そして・・・イレイヌ譲りの魔力。
基本を教えただけで方陣魔法の真似事までできてしまった。
魔道士としての成功は無理だろうが、剣士としては剣を封じられても戦えるというのは
なんとも心強い。
早くこいつに世界を見せてやりたい。
俺の息子は・・・どこまで大きくなれるのか?
ルークは息子の成長を非常に楽しみにしていた。
「てぃっ!」
ルークの視界に剣が映る。
「よっ」
カン!
乾いた木剣の音が響く。
「はあっ!」
ルークが打ち込む。右薙ぎの払い。
ユウイチはそれをしゃがみ込みでかわす。
そして、ルークの懐に最短距離の突きを放つ。
「おっと!」
それを横に受け流すルーク。
しかし、ユウイチはそれを見越したように受け流された勢いを利用し
そのまま、足払いに持っていく。
「ふっ!」
だが、それもルークにはお見通しだった。
足払いが完全に抜け今度こそバランスを崩したユウイチの頭に剣が打ち込まれた。
「いてて・・・」
「いい太刀筋だったがまだまだ。さあ、ロードワーク行って来い」
びしっと山道を指すルーク。
「うん」
文句も言わずユウイチは山道に向かって駆け出した。
「あれ?」
途中でユウイチは、禁じられた森への入り口を見た。
禁じられた森・・。絶対封印の施されたその森は決して立ち入ってはならぬ
禁忌の森だった。
その入り口に子供の目から見てもやや豪勢な格好をした男が二人ほど
ごそごそと何かをしていた。
ユウイチはそっと木陰に隠れ様子を見た。
「封印がかかってますよ・・・」
「心配するな。この魔法なら・・」
長老がほどこしていた封印の魔法が見る見るうちに解けていく。
「おお・・」
「感心している場合ではない行くぞ」
男たちは奥の森へと入っていく。
「たいへんだ・・」
ユウイチは、急いで道を引き返し父ルークへの報告へと走った。
この日・・・全てが狂った。
ユウイチの住む村の行く先さえも。
続く
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