ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 44  王都決戦 〜本陣〜





    
    城門前にて布陣した本陣は思わぬ苦戦を強いられた。

  飛行モンスターによる急襲は考えられていたが、避難施設の同時攻撃を
   
  狙ってくるところまでは予想できなかったのである。

  そのため戦力を二分する結果となり避難施設と城門前にはさまれながらの戦闘となった。

  現在はやや押してはいるものの、徐々に兵に疲れが見え始め形勢が変わるのは時間の問題と

  思われた。

  が……ここには破壊の女神こと「ルミ」と進呈の魔女「ミナギ」がいるのだ。

  もともと彼らに敗北など一点も無かったことを兵達はこの後知ることとなった。

  







  「ああ〜もう! これだから飛行系モンスターって嫌いなのよ!」

  怒鳴りながらも大剣を振り鳥型モンスター「フラグタヌス」を切り落とすルミ。

  「…どうしてですか?」

  ミナギは不思議そうに尋ねた。

  「決まってるでしょ!ちょろちょろ人の頭の上を飛ぶもんだから……
   狙いにくくてしょうがないわ!」
  
  ズガン!

  飛び上がり横ぶりの剣でルミはモンスターを叩き落す。

  「……飛ばなければいいのですか?」

  「え?そりゃあね。地面にいれば剣が当てやすいし」

  ミナギはそれを聞くと懐から札を取り出した。

  ところどころに「※」印が入った奇妙な札だった。

  「……お安い御用です」

  ミナギがそう言うとあたりを中心に札が四方に散る。

  「……貴方達にこの重力の空間から逃れる術はありません」

  あたりに妙な空間が張られる。

  「……進呈」

  何を進呈なのかルミは良くわからなかった。

  「…グラビティ・ホールド!」

  突然あたりの雰囲気が変わったかと思うと

  次々とフラグタヌスは落ちてきた。

  「な……!?」

  ルミはこの様子をあっけらかんと見ていたが

  「……ぴーす」

  ミナギのすっとぼけた態度に我を取り戻した。

  「…と…とりあえず今がチャンスよ!」

  ここぞとばかりにルミを始め騎士団たちはフラグタヌスに斬りかかった。

  (あの子は怒らせると怖いタイプね)

  ルミはしみじみと思った。

  やがてフラグタヌスが全滅するとミナギも魔法を解除した。

  ルミも剣を納めミナギに近寄る。

  「これで全部かしら?」

  「…いえ…まだ大将さんが残っています」

  大将にさんづけするのはミナギくらいだろうとルミは思った。

  だが、確かに大将はまだ出向いてない。

  気づかずに城に入ったか?

  いやそれはないとルミは思った。ユキトが出掛けに張った結界がある。

  万が一破られればそれは派手な音を立てるように作られている。

  今の所そのような音は発生していない。

  では……?

  ルミの疑問はすぐに解けた。

  頭上から巨大な鳥、ホルドバードに乗った槍を構えた騎士が来たからだ。

  「まさかエルンストがこんな物まで呼べるとはな。しかしこの私が来たからには
   お前達の快進撃もここまでだ」

  エルンストの誘いに乗りまんまと西側から本陣側に逃げ込んだ男ケヴィル。

  しかし召喚したエルンストが先に死んだのは明らかに皮肉といえよう。

  「また鳥〜? ねえミナギさっきのあれもう一回出来ない?」

  「……無理です」

  しかしミナギの返答は意外な物だった。
  
  「あの鳥は魔界の鳥……魔力を退ける翼を持つもの。おそらく私の
   重力魔法は通じないでしょう」

  ルミはがっくりうなだれた。

  あんな高さでは攻撃はまず届かない。

  なにしろルミは遠距離攻撃はほとんど苦手だからだ。

  「……でも」

  「なに?」

  「ルミさんをあそこに飛ばすことぐらいなら私にも出来ます」

  そう言ってルミに先ほどの札を貼り付ける。

  「……その札ははがれないようにしてください」

  「どうしてよ?」

  「…鳥を倒した時どうやって着地するのですか?」

  ルミはぽんと手を打った。

  どうやら倒した後のことまでは考えていなかったらしい。

  「……では行きます。……テレポート!」

  風の上位魔法フライエスケープ。

  ミナギは符を利用した空間魔法の方が得意だが符に魔法をこめたりすることもできる。

  ルミは気がつくと鳥の上にたっていた。

  「……お空の旅……進呈」

  ミナギが地上でそうつぶやいたが誰も聞いてはいなかった。

  











  「くっ!?貴様どうやってここに……?」

  「いちいち説明するのも面倒よ!行くわよ!」
 
  ギィン!

  ケヴィルはルミの大剣を必死の形相で抑える。

  彼女の細腕からこのような力が出るとは思っていなかったからであろう。

  「く……」

  「ほらほらどうしたの?それともさっきの威勢は空元気?」

  ガン!

  槍ごとケヴィルは後方に突き飛ばされた。

  後ろにはもう後が無い。

  「ひいい!?頼む殺さないでくれ!」

  そうやって命乞いをケヴィルが始めた時、

  突然ホルドバードが旋回を始め横転した。

  ルミは咄嗟に剣をホルドバードに突き刺したことで落下を逃れたが

  「ひいいいいいいいいいぃぃぃ……」

  ケヴィルは地上へと落ちていった。

  戦いもせずに尻尾を巻いた男の哀れな末路だった。

  「っていってもこっちもやばいんだけどね……」
  
  何しろこの状態では自慢の剣がつかえない。

  むしろ振り落とそうと思えば簡単に落とされる状況である。

  徐々に突き刺した剣が抜けてきている。
 
  (くっ…この状態じゃどうにも出来ないわよ!)

  ルミはそう思って焦った時。

  気がつくとルミは鳥の背中にいた。

  「え……」

  ルミは何がなんだかわからなかった。

  が、これはチャンスである。

  「まあいいわ!喰らえ乙女流!」

  剣を下向きに構え気を込める。

  「断地裂砕剣!!」

  ズガン!

  ホルドバードの背中につきたてられた剣は背中をひび割れ上に割っていった。

  あたかもこれから割れるかのような地面のごとく。

  やがてホルドバードはその力を失い地面へ吸い込まれるように落ちていく。

  「きゃああああああ!!」

  当然ルミも落ちる。
 
  だが気づいた時またしてもルミは地面にちゃんと立っていた。

  「へ?」

  「…お疲れ様です」

  ミナギが頭を下げる。

  「…その札は…離れたところにも私の魔法の効力が出せる札なんです」

  ミナギは地上からルミの様子をうかがいタイミングよくフライエスケープを使用したのだった。

  「なるほどね…でもこんな戦いはもういいわ。寿命って言うより
   神経太くないとやってられないもの」

  ぐったりと疲れたルミはその場に座り込んだ。

  「……お疲れ?」

  「そうね」

  「……がっつ」

  「言うならもうちょっと元気よくね」

  二人はそんなやり取りをしていた。

  その後本陣にはユキト、アカネ、クゼが合流し残党を一掃していった。

  要塞内部には先発のユウイチ達を始め、サユリ、カズヤがその後を追っている。

  最後の貴族となったマンセム。

  そして怪しげな企みを実行するフォルンケス。

  それに挑んだサイトウ。

  捕らわれのナユキ。

  要塞内部でその答えが出ようとしていた。

                                     続く

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