ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 33 昔語り 後編
ユウイチは急いで自分の見たことをルークに伝えた。
ルークは事の重大さを知り、イレイヌに声をかけ
長老の屋敷へと向かっていった。
戻ってきたルークは装備を身に付けていた。
片手剣に、軽鎧。
力と技のバランスを重視した装備だ。
「ユウイチ、よく知らせてくれたな。これなら手遅れにはならないかもしれない」
そして、イレイヌに向き直り
「行くぞ!イレイヌ!」
「ええ、あなた」
こうして両親は、禁忌の森へと調査へ向かった。
ユウイチは家に入り、誰もいない今の椅子に腰掛け
ただ、両親の帰りを待っていた。
「・・ここからのことは良く知らないんだ」
俺は少し話を中断した。
ナユキはただ、黙って聞いている。
「父は強かった。母の魔法も強力だった。今思い返してみると
二人はおそらく結界を強化しようとしたんだろう」
あそこに封印されていたのは・・・。
とてつもない化け物だったからだ。
「今でも、思い出せるんだな」
家族とのかけがえのない思い出。
10歳のときに全て無くした家族。
もう・・自分の成長を喜んでくれる人はいない。
もう・・暖かな笑顔で迎えてくれる人はいない。
だが、それでも俺は生きることで友を見つけた。
「ジュンさん、ここは・・」
ジュン達はミサカ診療所の前にいた。
「避難所とは言わないが・・見回りも終わったし
ほとぼりが冷めるまでお邪魔しようぜ」
「は・・はあ」
この後、二人は2時間にわたってミサカ姉妹と楽しく談笑していた。
もう・・帰る家はない。
もう・・故郷と呼べる土地はない。
だが・・生きることで慈しみ守りたいと思える大地を見つけた。
「あはは〜マイ食べてますか?」
「・・もう食べられない」
マイとサユリの前にはすでにお互いの顔を確認するのも大変なぐらい
皿やコップがつまさっていた。
周りのウエイトレスや客も思わず引いてしまうほどの量だった。
にもかかわらず、サユリは延々と食べつづけている。
「ユウイチさんのことを吹っ切るにはまだまだ足りませんよ」
そう言ってウエイトレスを呼び、
「すみません〜デラックスファグナスパフェもう一つ追加です〜」
「は・・はい」
もはや、言葉も出ないウエイトレスと
「・・・・」
見ているだけで胸焼けが悪化しそうなマイだった。
生きること・・。それは決して楽しいことだけじゃなかった。
だが、それでもどんなことがあろうと。
「・・俺は自分で生きることを放棄する気はなかった」
ナユキが俺の目を見つめている。
「約束があったんだ」
そして、俺の最後の風景を語りだす。
3時間後、すでに村の大体の人はこの集合場所に集まっている。
「とにかく時間がない。皆は荷物をまとめて早々に村を出るんだ」
「・・・・・誰が封印をといたのだ!」
長老が怒鳴る。
ユウイチは何のことか分からずにいた。
「どうやら冒険者が腕試し気分で勝手に・・・」
ルークはそのように報告をした。
ユウイチは思った。
あれが・・冒険者だっただろうか?
ルークはすでに立ち去った後だった彼らを見ていないといった。
「今はそんなことより避難が先です長老!」
長老ははっとしたように村人に伝えた。
「聞いてのとおりだ。とにかく皆は避難せよ」
バラバラに出口に向かい散り散りになる村人達。
ルークは剣を構え、イレイヌはそれにつきそうように立ち上がった。
「あの結界がいつまで持つか・・」
ルークは不安そうにそうつぶやいた。
だが、
「うわあああ!?」
悲鳴が上がる。
ユウイチは窓からそっとのぞき見た。
そして彼は見た。
地獄を。
燃え上がる村
血まみれの村人達
好きだった少女
皆・・奪っていく赤い炎
そして・・・モンスターの集団
だが、ユウイチは見た。
その中心にいる人語を操り、モンスターに指示を出す、
化け物以上の存在を。
ルークは窓から離し、イレイヌと打ち合わせる。
最早生き残りは彼らだけだからだ。
「イレイヌ、俺が時間を稼ぐ。・・あの方陣魔法を」
「わかったわ。とっくに覚悟は出来ている」
ルークはそう言った妻を抱き寄せ
「未練は山ほどあるが・・愛する我が子を愛する妻と守れるなら
それもまたよし」
「ええ、せめて私たちの手でこの子の未来を守りましょう」
「ああ」
そしてユウイチに向き直り
「ユウイチ、心配するな。外が静かになったら村の入り口からとにかく歩け。
街道につながっているから誰かがきっと通りかかるはず」
「お父さんは・・?」
「すまないが、父さんも母さんも一緒にはいけない。ここで・・お別れだ」
「嫌だ!行くなら・・」
ユウイチは泣き叫びそうになるのをイレイヌに抑えられた。
「いきなさい・・ユウイチ」
「ダメだ!お母さん・・!」
「行くんだ!ユウイチ!」
「いっちゃやだあ!!」
ユウイチは両親の尋常ならぬ態度に感じ取っていた。
ここで別れればきっと二度と会うことはない・・。
子供心にそう感じた。
「仕方ない・・イレイヌ」
「ええ」
イレイヌはユウイチの額に指を当て、何かをつぶやいた。
「・・・」
ユウイチは言葉を発せずそのまま床に倒れた。
意識はあるが、体が言うことを聞かなかった。
「直ぐ動けるようになるわ」
それは自分が死んだ時なのだが、イレイヌはあえてそれを口にしなかった。
「ユウイチ、この悲劇を忘れるな。そして憎しみに心をゆだねるな。
俺はお前に守るべきことの大切さを教えたはずだ」
「あなたには、並外れた力がある。それをどう使うのかはあなたの自由」
ルークは強さをイレイヌは優しさを語るようにこう言った。
「悲しみを知れユウイチ。全ての人を救うなど人には出来はしない。
だが、お前の手に抱えられるくらいの人を守ることはお前にならできる」
「力の意味を知りなさいユウイチ。力そのものに善も悪もない。
全ては振るうものの心を映すことと知りなさい」
そして二人は
「立派に生きろ。父はどこからでもお前のことを見守っている」
「あなたの行く先に光がありますように」
そして二人は出て行く。
(行かないで!お父さん!お母さん!)
ユウイチの声は言葉にならなかった。
ただ、涙だけがとめどなくあふれていた。
「200年の長きに渡り眠っていたとはいえ・・ここまで魔力が鈍ろうとはな」
魔神・・いや魔王とも呼べる存在がそこにはいた。
ルークはとんでもないプレッシャーを感じたがそれに怯まず
「ならば、俺たちの手でも何とか葬れるか」
そう言って剣を構える。
周りにいたモンスター達は一斉に襲い掛かるが
無言で三立ち。薙ぎ、切り下ろし、払いを放つ。
一瞬でモンスター達は切り裂かれた。
「人間にしてはやるな。よかろう寝起きの運動にはちょうどいい」
「はっ!再び眠らせてやるよ!」
ルークは、魔王と打ち合いを始めた。
その後ろでイレイヌが方陣を組む。
「我求むは絶対なる破壊。我差し出すは命の輝き」
徐々に方陣がルークと魔王を包囲し始める。
そのことに魔王は気づかない。
「秤をもって等しき量にかけられしその力は」
ガキン!
方陣が完成し、魔王は完全に捕縛された。
「な・・これは!?」
「ふう、単純なやつで助かるぜ」
ルークはその場を離れイレイヌと手をつなぐ。
「あらゆる存在を無に帰す崩壊の訪れ!!」
そして方陣が輝きだす。
(さらばだ・・ユウイチ)
(さようなら・・ユウイチ)
そして中のユウイチは聞いていた。
母が命がけで紡ぐその魔法を。
決して忘れてはならないと。
「「スピリット トゥ デストロイ!!」」
轟音が、眩き閃光が、すさまじき衝撃が
辺りを包んだ。
そのまぶしさにユウイチは気を失った。
どれだけの時間がたったのだろう。
ユウイチは気づくと屋根と壁を無くした集会所に寝ていた。
辺りを見て無性に悲しさに包まれた。
何もなかった。
廃屋がそれを囲むように残っているだけだ。
クレーターのようなものはない。円状に何もなくなった空間が
広がっていた。
それをみてユウイチは理解した。
もう・・父と母はこの世にいない。
そして帰るべき故郷もない。
ただ、呆然と立つユウイチの後ろから声が聞こえた。
「この少年が・・まさか」
その声にゆっくりと振り返る。
同い年くらいの少年を連れた年配の男性だ。
ルークと同じくらいの年だろうか。
「少年、名は?」
「・・ユウイチ」
ユウイチはそれだけを答えた。
「ここは君の住んでいた村か?」
「・・うん」
男はユウイチの前にしゃがみ込んだ。
「何があったかは聞かん。だが悲しみを抱えているのはわかる」
そして、男はこう言った。
「あえて聞こう。お前はこれから何を望んで生きる?」
ユウイチはすぐに答えなど出せなかった。
わかるはずもない。
こんな悲しみを抱えてどうしろというのか。
何もかも嫌になりそうな瞬間
『ユウイチ、この悲劇を忘れるな。そして憎しみに心をゆだねるな。
俺はお前に守るべきことの大切さを教えたはずだ』
耳に響くのは父の言葉。
『力の意味を知りなさいユウイチ。力そのものに善も悪もない。
全ては振るうものの心を映すことと知りなさい』
心に残るのは母の言葉。
難しいことはわからない。
ただ、今は自分の精一杯で生きた両親に恥じるような自分にはなりたくない
という思いがユウイチを動かした。
「・・強くなりたい」
「何故、強さを求める」
ユウイチは真っ直ぐな目で答えた。
「こんな悲しみを二度と起こさせないために!」
それは自分自身への誓い。
そして、両親達へと届いてくれといわんばかりに大きな声。
何よりも真っ直ぐな誓い。
「ならば俺と共に来い。俺の息子と一緒に強くなれ。
そして」
ガンと剣をつきたてた。
「『希望』を守れる男になれ。」
夕日の向こうに映えるその剣は何より美しかった。
この5年後、師であるジュンの父親はなくなった。
それ以降3年間。ジュンと共に世界を渡り歩き今にいたる・・・。
「今の俺ならあの時の問いに答えられそうな気がしてな」
俺はナユキを見てそう言った。
「俺は世界を救うなんて傲慢なことはいえない。守れなかった人だっている」
ナユキは目をそらさない。
「だが、決して俺はその目の前の悲劇から逃げない。力の限りあがいてみせる」
そして、俺は
「自分の大切なものくらい自分で守ってみせる。俺はそのために生きる」
ナユキを抱きしめてそう言った。
「守るよ・・絶対に」
「うん・・でも・・私もユウイチを支えてあげるから・・」
ナユキが答えてくれる。
「ユウイチは・・私に希望をくれたから。自分の力が怖くて
閉じこもっていた私に、光を見せてくれた」
そして俺たちはどちらからともなく離れた。
「ユウイチがつらい時には私が支えてあげるよ。
必ずね・・」
「ああ・・」
塔の上から見える景色はもう夕日に染まっていた。
もう、恐れることはない。
俺はようやく本当の意味で剣を振れる。
師から託されたこのディザイアを・・。
迷いなくただ自分の信念を貫くために・・・。
「全ての計画は整いました」
「そうか。では始めるとしよう」
「我らの明るき未来のために」
「この国を根本から改善しようぞ」
4人の人影は奥にいる人物に視線をやる。
「全てはファグナスの未来のために」
続く
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