ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 1 弟
ユウイチとジュンは戸惑っていた。
助けた少女サユリに
「ぜひお礼をしたいので家にいらしてください」
と、言われついてきたら、
目の前には豪邸がある。
話によれば、この国一の貴族の屋敷だそうだ。
そこの長女が、
「さあ、こちらへどうぞ」
サユリだったのである。
「庭だけで、生活できるぐらいのスペースがあるぞ・・・・」
ジュンはどこか抜けた発言をする。
まあ、無理も無い。
彼らも幾多の国を旅してきたものの
このクラスの屋敷にはお目にかかってないからだ。
ましてや中に入るなど本人達にとっては前代未聞である。
「ふえ?どうしたんですか?」
サユリは不思議そうに尋ねる。
「いや・・まさか貴族のお嬢様だとは思ってなかったんでな・・」
「あはは〜お父様は確かに立派かもしれませんが、
サユリはちょっと頭の悪い普通の女の子ですよ〜」
どうやら自分を飾らない人のようだな・・。
ユウイチのサユリに対する第一印象はそんな感じだった。
もちろんいい意味である。
おおむね貴族という上流階級の人間は、
格下の人間を、軽く見下すことが多い。
全部がそうだとはもちろんユウイチも思ってないが。
そのため彼女のような女性は彼らにとっては
好印象を与えた。
「サユリは他に、兄弟とかはいるのか?」
何気に尋ねるジュン。
「えと・・・・同い年の親友が一人と、弟がいますね」
サユリは答えた。
「あ・・弟っすか」
少しがっかりした様子のジュン。
ユウイチは
(またか・・・・本当に悪い癖だな・・)
いつものことだと思っていた。
もうすぐ屋敷の入り口に着こうかというとき
(・・・そこか!?)
植え込みから、何かが飛び出した。
ユウイチは、あらかじめそれが何かをわかっていたので
愛用の剣「ディザイア」を抜く。
そして、
ガキィン!!
小気味よい剣と剣がぶつかる金属音。
そして、もう一つの剣の持ち主は、
「カズヤ!?」
どうやら、彼女の弟のようだ。
髪の色は一緒だが、彼はあまり姉には似ていない。
どちらかというとおとなしめの彼女に対して、
彼からはやんちゃ坊主の印象がある。
「すごいな!僕の剣を受けたのは、マイ姉さんの他にいないのに」
彼は心底楽しそうだ。
なるほど・・・彼も自分がどれだけ強いのか
それを知りたいタイプか・・。
昔の自分と少し重なったのか、ユウイチは微笑む。
「カズヤ!何してるの!お客様に失礼でしょう」
しかし、ユウイチはサユリを手で制す。
「いや・・男なら自分の実力を試してみたくなるさ・・。
カズヤだったな。遠慮は要らない。かかって来い!」
ユウイチはそこから少し、離れ距離を取る。
「はい!お願いします!」
カズヤもまた、距離を取る。
ジュンはサユリを少し離れさせた。
「まあ、大丈夫。手合わせみたいなもんだ」
サユリの心配をよそに二人は、早くも乱打戦に入っていた。
ユウイチが攻めれば、カズヤが流し、カズヤが払えば、ユウイチが打ち下ろす。
雄一のやや重めの長剣に、カズヤの軽めの細身の剣。
どちらも武器による差はほとんど無かった。
「ふっ!」
ユウイチが懐に飛び込む。
カズヤはそれを迎え撃とうと腰を落とし、剣を正眼に構える。
しかし、それこそがユウイチの狙いだった。
構えることで、立ち位置の固定したカズヤの剣を、
素早く打ち払う。
剣は主の下を離れ、庭先に突き刺さった。
「!」
その一瞬で、ユウイチはガードの崩れたカズヤに足払いを放ち、
その首先に剣を向ける。
「勝負あったな・・。いい剣だ。迷いの無い信念のこもった、な・・」
ユウイチは満足げに笑う。
手を貸し、カズヤを起こす。
「すごいですね・・。全く剣閃が見えませんでしたよ」
カズヤはまだしびれの残る手をぶらぶらさせながら
起き上がる。
「ふえ、ユウイチさん凄いですね〜。
もしかしてマイより強いかも?」
「マイ?」
ユウイチは聞きなれない名前をオウム返しに聞き返す。
「ああ、先程話した親友です。今は家の養子になってるから
姉妹のようなものですけど。彼女の家は聖騎士の家系で
聖剣術を会得してるんですが、凄い腕前なんですよ〜」
なるほど、そういうことか。
「ユウイチさんは、どんな剣術を?」
カズヤが、ユウイチに聞く。
やはり、強いものの剣には興味があるのだろう。
「ああ、ここにいるジュンの家系に伝わる
リノーバス流剣術だ」
ユウイチはジュンを指差しながら答える。
「俺はそれの体術のほうを会得している」
ジュンは手甲を見せながら答える。
「ジュンさんも腕が立ちそうですね・・。
いいなあ、僕ももっと強くなりたい」
それは純粋に強さを求める少年の目だった。
かつての自分を思い出すユウイチは
「なあ、ジュン」
「わかってるよ。ここにいる間、カズヤに剣を教えたいって言うんだろ。
構わないよ、カズヤなら申し分ない」
「ええ!?いいんですか?」
カズヤは今にも走り出しそうなくらいの喜びようだ。
「ああ、お前さえよければ」
「僕のほうは大歓迎です!よろしくお願いします!」
見ているこっちのほうが嬉しくなりそうなくらい喜んでいる。
「さあ、それじゃあ話もまとまったところで
そろそろ家に入りましょうか」
サユリがドアを開ける。
中は・・、意外とシンプルな屋敷だ。
しかし、トレジャーハントの経験もあるユウイチたちには
どれも高級品であろうことは容易に分かる。
ユウイチたちはリビングに通された。
しばらくそこでくつろいでいると
サユリがお茶を運んできた。
「あはは〜、いつもはメイドさんたちが入れてくれるのですが
今日はサユリが入れました〜」
高級なカップに注がれたお茶は
一級品ともいえるぐらいおいしかった。
ガチャリ
ドアの開く音がリビングに響く。
見ると、黒髪の少女と、恰幅のいい紳士が入ってきたようだ。
「・・サユリ」
「あ、マイ〜」
サユリは嬉しそうに少女に駆け寄る。
彼女がどうやらマイらしい。
とすると・・。
「先程は娘が世話になったようだね。
私の名は、ズアイフ―オル―クラタ。
ここの主で、この子達の父親だ」
人のよさそうな紳士だ。
二人はそう思った。
長年、旅をしていると人のなりや話す仕草には
どうしても本人の素が見える。
特に、嫌味や見下すといった負の感情は目に見て取れる。
しかし、彼にはそう言ったものは見えなかったのである。
「さて、先程サユリから話は聞いたが・・」
彼は一呼吸置いてこう告げた。
「どうだろう?しばらく我が家に滞在してもらえないかね?」
「「は!?」」
話は、急展開へと進んでいく。
「あはは〜、ぜひそうして下さい」
爆弾発言の当本人はいたってのんきだった。
続く
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