ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 31 昔語り 前編
カズヤは、突然父に呼び出しを受けた。
父の部屋にノックをして入るカズヤ。
「失礼します、どうしました?父上」
「カズヤか、少し話があってな」
ズアイフは真剣な目で、カズヤと向き合う。
「ユウイチ君たちが来てから早2ヶ月あまり。
お前もずいぶんと成長したと思ってな」
「そんな・・僕などまだまだです」
カズヤは頭を振った。
しかし、そんな様子をズアイフは見ながら
「己に慢心しないことはいいことだ。慢心は油断を生み
そして、自信の歩みを止め鈍らせる」
そう言うと、ズアイフは机の下から剣を取り出した。
カズヤが使っている剣と同タイプの装飾の施された
長剣だった。
「我がクラタ家に代々伝わる、剣。「グロウザー」だ。
おそらく、出土はユウイチ君やマイの持つ剣と同時期のな」
そして、カズヤに剣を突き出す。
「受け取れ、カズヤ。お前にはこの剣を持つ資格がある」
「そんな・・」
カズヤは躊躇していた。自分にそんな資格があるだろうかと?
だが、父は本気だった。
それは、一人の男として認められた証拠。
もし、この剣に自分がふさわしくないのなら・・。
ふさわしくなればいい。
「わかりました、父上。この剣に更なる精進を誓います」
「うむ」
ズアイフは満足してうなずいた。
「失礼しました」
パタンとドアが閉まる。
ズアイフはふと、壁にかけられた肖像画を見る。
「メアリ・・二人とも立派に育っているよ。私・・いや
私たちが思う以上に早くな・・」
一方、ミナセ・ジャム・ファクトリーでは・・・
俺はすっかり日課となったナユキを起こしに来た。
「あらあら、ユウイチさんおはようございます」
「あ、ユウイチだ〜」
玄関をくぐると、アキコさんとマコトが店にいた。
「おはようございます、二人とも」
俺は頭を下げる。
「今日もまだ・・・」
「やっぱりですか」
あいつはおそらく自分で起きるということは出来ないのだろうか?
「お姉ちゃん、寝すぎ」
マコトもあきれていた。
まあ、その気持ちは十分にわかる。
「とりあえず、起こしてきます」
「お願いしますね、ユウイチさん」
ナユキの部屋の前に立ち、ドアを開ける。
「どうせ起きてないしな・・」
だが、この日いつもどおりにナユキの部屋に入ったことを
俺は後悔することになる。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
鏡の前で俺を凝視するナユキ。
固まる俺。
いや、固まったのはナユキが起きていたからではない。
ナユキが・・着替えの最中だったからだ。
しばし、沈黙・・。
やがて、
「きゃあああああああ!!」
ナユキの悲鳴がそれを破った。
「わ、悪い!!」
バタン!
慌てて俺は部屋の外に出た。
「?」
マコトは下で今の悲鳴に首をかしげていた。
「あらあら、ユウイチさんちゃんと責任は取ってくれないと困りますよ」
と、何故か嬉しそうにつぶやいていた。
20分後・・・・。
「ひどいよ、ユウイチ。女の子の部屋にノックもないんだもん」
ナユキはかなり怒っていた。
「すまん・・いつもどおり寝ているかと思って」
そんなのが言い訳にはなるとは思ってないが、
とにかく俺は謝っていた。
「・・いいよ。わざとじゃないのわかったから」
「ほんとか?」
「ただし、今日のデートはユウイチのおごりだよ」
「くっ・・わかった」
俺は承諾せざるを得なかった。
「やった♪それじゃ早く事務所に行こうユウイチ」
さっきまで怒ってたと思ったら、今度はご機嫌か。
全く・・見てて飽きないやつ。
そう思いながら、秋の訪れを感じる道を歩きながら
俺たちは事務所へと向かった。
事務所・・・
「それじゃあ、特に連絡事項はなしと・・」
俺は簡潔な打ち合わせを済ませた。
「じゃあ、いつもどおりくじを引いて見回りですね」
「あ・・サユリさん。悪いが今日はナユキと組ませてくれないか?」
「・・どうして?」
マイが間髪いれずに突っ込んでくる。
うーむ正直に言うのもあれだしなあ。
「ああ、デートですね」
カズヤ!お前!!
「うん、そうなんだよ〜。たまにだからいいでしょう?」
ナユキが肯定してしまってはもはや言い訳無用か・・。
「・・そういうことなんだ。仕事はちゃんとするから・・」
「わかりました〜いいですよ」
どうやらサユリさんは承諾してくれた。
というか、いくら気心の知れた仲間内とはいえ
この状況はかなり恥ずかしい。
「い・・行くぞナユキ」
「わ、待ってユウイチ」
俺たちは事務所を出た。
・・・手をつないで。
「やるなーユウイチ。ナユキ狙いだったのか」
その言葉に、グンと部屋の重力が増した気がした。
俺は瞬間的にやばいと思った。
カズヤとアイコンタクトを取る。
「それじゃあ、俺たちも見回り行ってくる!」
「マイ姉さん、後でね!」
音速の速さで、俺たちは消えた。
「・・皆ずるい」
マイは一人残され途方にくれた。
「・・マイ?」
「・・(びくっ)」
正直、親友にこんな一面があるとは驚きだった。
いや、単にこういうことが起きるような男が近くにいないせいもあった
かもしれないが。
「一緒に、甘味所に行こうね〜マイ」
「・・(こくこく)」
マイに拒否権はなかった。
「それじゃあ、れっつごー」
「・・ぐしゅぐしゅ」
マイはこうして、サユリのうさばらしツアーに付き合うことになった・・。
「やれやれ・・とりあえずどこに行く?」
「とりあえず、ご飯食べようよ。もうお昼だよ?」
おっと、そんな時間だったか。
俺たちは、キヤイタさんの喫茶店に入った。
「いらっしゃいませ〜」
ウエイトレス姿のあゆが出迎える。
「こんにちは〜あゆちゃん」
「よっ、飯食いに来たぜ」
「いらっしゃい、二人とも〜。そこの窓際のテーブルにどうぞ」
俺たちは、窓際の席に案内された。
「何にするの?」
あゆがオーダーを聞いてくる。
「俺はマスターのお勧め」
「私、Aランチ」
俺とあゆはまた?という顔をした。
ナユキがAランチにこだわる理由。
それは、イチゴのケーキがついてくるからだ。
「まあいいや。あゆそれで頼む」
「うぐぅ、少々お待ちくださいませ〜」
そして、開いた席の食器を片付けてカウンターの方へ・・
「うぐぅ!?」
何故かつまずいて転ぶあゆ。
ああ・・食器が・・・・シンクへダイブした・・。
シンクにはたっぷり水が張ってあったらしい。
つまり被害ゼロ。
「あいつの幸運はどこから来るんだ・・・?」
「さあ・・?」
俺たちは二人で顔を見合わせた。
「ご馳走様」
俺は二人分の勘定をマスターに支払った。
「おう、まいどあり!」
俺たちは、挨拶を済ませ喫茶店を出た。
「さてと、それじゃあ見回りをするか」
「うん、でもユウイチ」
そう言って、ぎゅっと俺の手をつかむ。
「手ぐらいつかんでもいいよね?デートらしく」
「・・ああ」
俺は照れくさいからと言いたかったが、ナユキが嬉しそうなのでやめた。
いつものルートを回る。
街並み。
活気にあふれ、人たちが横行し、そして道端で談笑する人たち。
幸せそうな恋人たち、余生を楽しむ老人。
かつて・・俺が失った光景がここにもある。
そう、世界中が全てこんな光景だったわけではない。
まだ、全てを見たわけではないが、人が人同士のつながりを無くした国もあった。
だが・・この国は限りなく俺が失った光景に近かった。
「ユウイチ?」
ナユキの声で、俺ははっと現実に戻る。
「どうかしたか?」
俺は平静なふりを装ってナユキに声をかける。
「ううん・・なんでもないよ・・ただユウイチが寂しそうだったから
心配で・。もしかして、私とデートするの嫌だったかなあって・・」
しまった。余計な心配を・・。
俺は自分のうかつさを恥じた。
今は隣りにナユキがいるのに・・。
「ごめん。ちょっと考え事してた。お前と一緒にいるのが嫌だったわけじゃない」
そう言って俺はナユキに向き直り、
「なあ・・この国を見渡せような場所はないかな?」
「到着〜」
ナユキの案内でついたのは、展望台。
六角形の形で作られたファグナスの中心にある城を囲むように立つ四本の塔。
それが、この展望台なのだそうだ。
幸い、周りには誰もいなかった。
俺は、眼科に広がる景色を眺める。
風も暖かい。
俺は、ナユキになら・・話してしまいたいと思っていた。
「ナユキ」
「なあに?」
無邪気な笑顔をこちらに向けるナユキ。
「少し・・昔話をするよ」
続く
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