ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 48 破壊の魂
見ているだけで力を奪われそうな漆黒の塔。
作りは単純だった。
俺は螺旋階段を上がっていく。
時々窓から差し込む月の光が幻想的にも見える。
上りきった先は展望台のような広い場所。
ホロズオープはまるで来るのがわかっていたかのようにこちらを見ていた。
「来たか、奇跡の英雄よ」
「なんのことだ?」
ふっ、と奴は笑う。
「かつてその剣の所持者はみな、そう呼ばれていた。
数多の魔王を葬るという人間には到底起こせぬ奇跡を起こすものとしてな」
俺は奴が何を楽しんでいるのかをわからなかった。
それほど奴の口調はどこか遊びの混じったものだった。
「俺はそんな大層な人間じゃない。悲劇を避けるため
悲しみを起こさせないためにあがくだけの人間だよ」
俺は聖剣を抜いた。
「そういう人間が一番怖いな。奢らぬ、自身の力量をわきまえた上で
なおあがこうとする人間がな…」
奴は俺を過小にも過大にも評価しない。
どうやらそういった慢心をつくことは出来ないようだ。
「なら全力でぶつかるまでだ!」
俺は正面から真っ向勝負を挑んだ。
「だから私は手加減などせぬ。それでこそ…」
奴の姿は消えた。
頭上から攻撃を喰らい俺は前のめりに倒れた。
「絶望を与えられるというものよ」
キィン!
聖剣を支えにして立ち上がる。
「上等だ!」
フオン!
剣を払いけん制しつつ近寄る。
奴を角まで追い詰めた。
「剣龍爪斬!!」
突撃しながら連撃を放つ。
しかし奴の姿がゆがむと俺の剣は虚しく空を切る。
ガキン!
床に剣を打ちつけた。
「遅いな…」
背後から声。
「エビル・スパーク!!」
黒い稲妻が俺にまとわりついた。
「うあああ!!」
体に痺れと激痛がはしる。
俺は間合いを取るため反対側の角まで走った。
剣をじかにつきたて、下向きに構えながら走る。
「おおおおお!!」
そこから奴に向かい跳躍する。
「はあっ!」
頭上を狙った剣は空振りした。
そのままの勢いで反対側の壁にたどり着いた。
カキンと音を立て剣を突き立てた。
「どうした? まだ一太刀も浴びせていないようだが?」
ゆっくりと奴が近づいてくる。
俺は動かなかった。
「まさか、それで全力とは言うまい?」
少し警戒しながらもホロズオープは近づいてくる。
「……我求むは絶対なる破壊。我差し出すは命の輝き」
それは記憶に焼きついた呪文。
「何!?」
四方から光が発し、床に方陣を浮かび上がらせる。
俺は聖剣で印を刻む。
光の輪がホロズオープを捕獲する。
「ぐっ!? しまったこの魔法は…」
「秤をもって等しき量にかけられしその力は」
俺はにやりと笑い呪文をつなぐ。
(後は頼むぜ……ジュン、みんな)
思い出すのは父と母の決意の顔。
守るべき者のため誇り高き顔で死に戦に向かった両親の顔。
俺は…そんな顔をしているだろうか?
ナユキ……もし俺が死んだら…許してはくれないだろうな。
死ぬつもりはない。
その気持ちに偽りはない。
だがはたしてこの魔法が成功した時、俺は生きているだろうか?
いや、生きてなければな。
「さあホロズオープ、俺と命のギャンブルといくか」
最後の呪文をつなぐ。
俺の一生で一度の最大の賭け。
「あらゆる存在を無に帰す崩壊の訪れ!!」
すさまじいエネルギーが方陣を中心に集まっていく。
(生きてやるさ!)
「スピリット トゥ デストロイ!!」
少し時間が前後してクラタ邸表門前
「ジュンさん、起きてください」
アキコは倒れているジュンを起こそうと体を揺らした。
「うあ…? アキコさん?」
ジュンは何とか体を起こした。
そしてすぐに事態に気づく。
「アキコさん! すぐに皆を集めてくれ!」
アキコはジュンの表情からなんらかの事態があった事を感じ
急いでクラタ邸へと入っていった。
「そんなユウイチが一人で?」
ナユキがこのような時間に起きれたのも事態の重さが
彼女を覚醒させたのだろう。
「とにかく急いでいくぜ。まだ間に合うはずだからな」
リビングには知り合い一同が集まっていた。
アユがおもむろにナユキに近づいて、
「ナユキさん……死なないでね。また家のイチゴサンデー食べに来てくれるよね?」
「もちろんだよ、アユちゃん」
アキコはナユキに向かい
「自分の力を信じて。そしてあなたが得た友達の力を信じて頑張りなさい。
そして……無事に帰ってくるのよ」
そう言って自分の娘を抱きしめた。
「カズヤさん…とうとう最後の戦いですね」
重病人の看護の連続で疲れの浮いた顔をしながらシオリはカズヤと話していた。
「そうだね。もう随分色々あったけど」
カズヤは剣を腰に下げた。
「でも今度こそ終わらせる。そしてクラタの名に恥じない剣士として
戦ってくるよ。そして……」
シオリの手を取って、
「必ず帰ってくるから」
「はい」
笑顔でシオリはそう答えた。
「サユリ、マイ、カズヤ」
ズアイフは子供達を呼んだ。
「今生の別れにはなるまいから、これだけは言っておくよ」
三人の顔を交互に眺め、
「お前たちは自慢の子供だよ」
「お父様……」
「…義父様」
「父上」
三人はしばし父親の言葉をかみ締めていた。
「なあカオリ」
「なに?」
二人はややリビングの角の方で話をしていた。
ジュンがやおら真剣な顔でカオリを見つめている。
「一応いっときたいことがあるんだが」
「聞きたくないわ」
ジュンの頭の上にガンと何かがぶつかったような音がしたかもしれない。
「今生の別れの前になんて聞きたくないわね。帰ってきたら…ちゃんと聞くから」
そして後ろを向いてしまった。
「カオリ」
「なによ?」
明らかに不機嫌な声。
「素直じゃないよな」
「ほっといてよ」
進展は明らかに遅そうな二人であった。
そして数分後。
ユウイチを除く決死隊は表門の前に集合した。
「あ、そうそう」
アキコがぽんと手を叩くとナユキに小ビンを手渡した。
「シオリちゃんと共同制作した薬よ。ユウイチさんに手渡してね」
「う……うん」
できれば使わなくてもいい状態でユウイチがいるようにとナユキは祈らずにいられなかった。
「それじゃ…」
ジュンの声に全員がそろえる。
「「「「「行って来ます」」」」」
「行ってらっしゃい」
アキコが手を振りその後姿をいつまでも見送っている。
ズアイフもまた同じように。
やがて彼らの姿は闇夜に消えた。
走りに走り、気がつくと目の前にその塔はあった。
「行きましょう! ユウイチさんが…」
サユリがそう言いかけた時。
ドゴガアアアアア!!
塔の最上部から巨大な光の柱が立った。
すさまじいエネルギーの塊であることは容易にわかった。
そしてジュンは見覚えのあるその光の柱に身震いした。
「見たことがある…」
「…これを?」
マイの問いかけにジュンは、
「かつて俺の父がユウイチを見つけた時に」
その言葉にナユキが駆け出す。
「やばい! 急ぐぞ!」
ジュンもその後を追う。
そして舞台は最終章へ。
続く
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