ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 43  王都決戦 〜左翼〜





    
    一方、ユウイチ達の突撃した後の西側の戦闘はほぼ優劣は決した。

  ユキト、アカネの強力な広範囲魔法のおかげでモンスター達はかく乱され、

  それを騎士団が各個撃破するという圧倒的な展開になっていた。

  「やれやれ……これで終わりか?」

  ユキトはサーベルの血払いをして鞘に収めた。

  「まだ油断しない方がいいと思います。これだけで終わるとは思えません」
 
  アカネは依然戦闘態勢は解かなかった。

  あちこちから煙が上がり市街戦ということもありあちこちの家屋にも流れ弾が被弾している。

  とはいえほとんどが無人の逃亡貴族の物だったので、
 
  誰も気にはとめてなかったということもあるのだが。

  「それじゃあ俺たちは防衛ラインまで下がるか。さっき飛行系のモンスターの大群が
   飛んでいったのを見た。おそらく奴ら一気に本拠まで攻める気だろう」

  ユキトがきびすを返すがアカネは動かない。

  「どうした?」

  アカネが緊張した表情で一点を見つめている。

  「まだ……何か来ます」

  アカネは印を組んで構える。

  ユキトは再びサーベルを抜いた。

  奥のほうからすさまじい邪気を撒き散らしながら一人の騎士がこちらに来る。

  だが……乗っている者は人ではなかった。

  首なし騎士……デュラハンである。
 
  「あんな化け物を召喚するとはな。おそらく術者は命が無いだろうが……」

  ユキトの発言は当たっていた。

  この先に召喚者であるエルンゼの首なし死体が転がっていることには

  誰も気づかなかった。

  「全軍に告ぐ! 防衛ラインの救援に向かえ。ここは俺が抑える!」

  ユキトの発言に誰もが驚いたがユキトの実力を知る者達は
 
  いち早く命令どおりに動いた。

  騎士団のメンバーも心配そうだが今は、主の命に従うのが先だと

  彼らも移動した。

  辺りには無言で自らの首を抱え巨大な血塗れた剣を持つ暗黒の騎士と

  ユキトとアカネだけが残った。

  人が去るとあたりは急に静かになる。

  無言でこちらに向かい突進してくるデュラハン。

  ユキトは動かなかった。

  だがデュラハンの剣は虚しく空を斬る。

  「俺はかつて翼を追いし者。そしてたどり着いたのは……風」

  ユキトの周りから一陣の風が舞い上がる。

  マントがはためきユキトの手には魔力が集う。

  「何者も……俺の歩みを止めることはできない」

  そして右手に握られた剣が真空に包まれる。

  「試してみるか? 翼の舞い起こす天の風の威力を?」

  答えは無い。

  ユキトの剣が一閃を放つ。

  音もなく振るわれる静かなる剣。

  デュラハンの鎧の肩当が静かに地面に落ちる。

  中身は無い。ただ邪気がそこから少しずつあふれているだけだ。

  「アカネ、行くぞ。どうやら本気でかからないとな」

  「はい」

  ユキトの一閃は本体を確実に狙った物だった。

  しかし音もなくデュラハンはそれを紙一重で避けた。

  それが二人に本気を出させた。

  ユキトが走りこむ。

  その速さはまさに風のごとく。

  アカネは詠唱に入る。

  信じているからである。ユキトが決して自分に敵を近づけさせないことを。

  「おらっ!」

  キキィン!

  二重の剣撃音が響く。

  彼は速さを風にておぎなう。彼にとって風とは最良の相棒である。
  
  その速さは単純な速さではなかった。

  普通の剣士が「氣」により能力を補佐するように

  彼は魔力で能力を補佐するのである。

  しかしデュラハンとて魔界の騎士。

  ユキトの動きを読み取り一撃必殺の剣を振り下ろす。

  着地して固定状態になったユキトにその一撃はかわせない。

  ……はずだった。

  ズガン!

  しかしデュラハンの剣は虚しく地面に突き刺さる。

  「言ったはずだ……俺は風。空を舞い吹き荒れる風をつかむのは不可能だ」

  そしてユキトは再び空へと飛び上がる。

  「翼を持つものを除いてな」

  風の上位魔法フライエスケープ。

  風を極め、その驚異的なセンスによりかろうじて使いこなせるユキトの空間移動魔法。

  完全に極めれば離れたところへも瞬時に移動できるが、ユキトのレベルでは

  わずかに移動するのがせいぜいである。

  しかし発動すれば瞬時に移動できるというのは接近戦においては

  極めて有効だった。

  「はっ!サイクロン・ウイング!!」
 
  デュラハンの周りを旋回しながら縦横無尽に斬りつける。

  あたかもユキト自身が竜巻のように徐々に螺旋を描く。

  そして華麗に着地する。

  「ユキト! 離れて!」

  アカネの合図を聞きユキトは素早くアカネの元に移動した。

  「これで終わりです」

  アカネの紡いだ印が地面に魔法陣を刻んだ。

  周囲には円形魔法陣が三重にもなって発動される。

  「我との盟約に従い、その力を我に・・」

  「水の精霊ウンディーネよ。あさましき邪なる物を異界へと連れ去り」

  「聖なる濁流にて浄化せよ!!」

  「クリア・カーラント!!」

  デュラハンの周りの空間があたりより断絶される。

  異界にてデュラハンを勢いのある濁流が飲み込んでいく。

  清らかな水はそれだけで魔を滅する力となりてデュラハンを蝕んでいった。

  そして魔法が終わりデュラハンは地に倒れた。

  しかし、それでもなお彼は立ち上がった。

  すでに愛馬は異界へと葬られた。だが己の象徴である首を抱え

  なおもユキトたちに向かおうとする。

  「……誇り高き騎士か」

  ユキトはアカネを後ろにかばった。

  「下がってろ」

  「はい」

  それだけを言うとユキトはデュラハンに向かっていった。

  すでに優劣は決している。だが彼も飄々として入るが一国の王子。

  男としての引き際を与える度量は持ち合わせている。

  キィン! カン!

  何度かの打ち合いの後、デュラハンの剣は空に舞った。
  
  彼の首は兜に覆われ見えなかった。
 
  だが……ユキトには、

  (笑って……いるのか)

  そう感じられた。

  彼を覆っていた風が剣に収束しとどめの一撃を放つ。

  「エッジ・トルネード!!」

  剣を突き刺し、内側から竜巻を発生させ内側から切り裂く大技。

  ユキトが剣を払いぬいた後には暗黒の騎士はただの邪気の塊と化していた。

  そして……姿を消した。

  「お疲れ様です」

  アカネがゆっくりと寄り添ってくる。

  「ああ。さすがに疲れた」

  ユキトは再び剣を鞘にしまう。

  「ユウイチ達は……大丈夫でしょうか」

  「あいつらのことなら心配ないだろう。出会って間もないが
   何故か大丈夫だと思えるんだよ、あいつらは」

  それは理由なき信頼。
 
  そう思わせるユウイチ達の強い絆。

  「行くぞ。俺たちには俺たちのすべきことがある」

  「ええ、どこまでも一緒に」

  二人はその場を後に再び戦場へ。

  傾き始めた夕日が二人の影をつないでいた。

  あたかも二度と離れないかのように………。

                                     続く

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