ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 16 魂を喰らいし者
今、ファグナス内では奇妙な病が流行っていた。
それは、9歳から14歳前後の少年少女だけに流行る病で
死んだように眠るという内容だった。
カノンメンバー達も、自体の異常性を重く見て
調査をはじめた矢先のこと、ミシオから緊急の知らせが届く。
ミサカ診療所から連絡があった。
メンバー達はすぐに診療所へと向かうのだった。
「カオリ!何かつかんだのか?」
ユウイチが一番に飛び込む。
「ユウイチ君、ここは病院なのよ。静かにして」
あくまで冷静につとめるカオリ。
ユウイチは、少し落ち着くと部屋を見回した。
ミシオたちのほかにアユも来ている。奇しくも知り合いが全員集まったというわけか。
「それじゃ、話すわね・・。これは・・離魂術を使うものの仕業ね」
離魂術・・・。ユウイチは聞きなれない言葉に首をかしげた。
「ネクロマンサーなどが使う術で、生物の魂を人為的にはがす呪法よ。
どんな目的があるか知らないけど、こんな術を大量に使えるなんて
まともな神経してないわ、犯人は」
カオリが頭を振る。
「子供達を救う方法はただ一つ。術者を倒すことのみよ。
幸い、まだ生命活動を体が行っているから魂が消えたわけではない。
でもいつまで続くかわからないわ」
時間に余裕はない・・。ユウイチは、部隊を細かく分けることにした。
「それじゃ・・俺とナユキ、それから・」
「ユウイチ君、あたしも今回は加えてくれないかしら?」
突然とんでもないことを言い出すカオリ。
「バカ!何を言ってるんだ!危険だぞ!」
「言ったでしょう?この犯人はまともじゃないわ。治療術に長けた
人が常に動けるようにしておいた方が言いと思うけど」
確かに・・カオリの言うことは正論だった。
「わかった。ジュン、カオリと行動してくれ。くれぐれも怪我させるなよ」
「誰に言ってる?ユウイチ。任せとけ」
普段どおりの対応だが、ユウイチにはわかっていた。
ジュンがめちゃくちゃ舞い上がっていることを。
「お姉ちゃん!私も行きます!」
「シオリはダメよ。ここで待ってて」
カオリはシオリをたしなめるが、
「私の薬だって何かの役に立つかもしれません!
それに、同じように仕事をしてるのに、私だけ留守番なんていやです!」
カオリは悩んでいたが
「それじゃ、カズヤをシオリにつけるよ」
「ユウイチ君!?」
「ユウイチさん!?」
この申し出にカオリとシオリの二人は驚いた。
「確かに、仲間はずれってのは気分が悪いしな・。
だが、シオリ?半端な覚悟じゃないだろうな?
捜索に加わったら、悪いが死ぬ可能性だってあるぞ?」
シオリはしばらく下を向いていたが、
「それでも、苦しんでるかもしれない子供達に比べたら
そんなのはへのかっぱです!」
「わかった。カズヤ、ボディーガードはしっかりな」
「あ・・はい!わかりました」
後は・・・サユリさんとマイで決まりか。
「それじゃ、何もなければ2時間後に噴水広場に集合だ。
何かあったらすぐ連絡するんだ!」
ばたばたと、部屋を出て行くメンバー。
ユウイチは、後ろを振り返り
「絶対に助けて見せるからな・・。ミシオ、マコト」
「はい、信じています」
「うん、ユウイチ気をつけてね」
二人は笑顔で答える。一番不安だろう彼女達がなおもみせる
その気丈さに、ユウイチはますます自分を奮い立たせた。
「アユ、仕事が終わったら飯食いに行くから。よろしくな」
「うぐぅ大歓迎だよ。頑張ってね!!」
手を振りさわやかな笑顔で答え、ユウイチもナユキと共に
雨振る路地へと足を走らせた。
しとしとと振るその雨は、余計に気分を重くさせるものだった。
「くそっ・・手がかりも何もねえ・・時間がねえのに」
「常に術を使っているはずだから、魔力の微量な反応があるはずよ。
あきらめないで探しましょう」
「応よ!」
ジュンたちは、北側の路地のあたりを探っていた。
雨のせいで、余計に薄暗い夜の路地だった。
一時間後・・・。
南東の区画にいたカズヤは妙な感じがした。
「・・この気配は・・」
カズヤは今まで何度なく感じた気配を察した。
・・殺気。それもモンスター独特のやな気配である。
正面・・・・二体。カズヤは反射的にシオリを後ろにかばう。
「カズヤさん・・・?」
「下がってて、シオリさん」
振り返らずその動きを手で制し、剣を抜くカズヤ。
こちらの意図を察したか、暗闇から二つの影が同時にカズヤに襲い掛かる。
「甘い!」
しかし、その素早い身のこなしで、その場から動かずに
剣を振るうだけで影を切り裂く。
倒れたモンスターを注意深く調べる。
特に変わった特徴はない・・・。ただ迷い込んだだけだろうか?
カズヤがそう思い始めたとき
「・・魔力!?」
カズヤは感じた先をにらみつける。確かに黒いローブを羽織った人物から
禍々しい魔力を感じたのである。
その人物はこちらに気づいたのか、ゆっくりと近寄ってくる。
強い・・・。反射的にカズヤはそう感じ取った。
「シオリさん、これでユウイチさんたちに連絡を」
そっと心通石を後ろ手に渡す。
「あ・・はい。でもカズヤさんは?」
「僕はここであいつを食い止める。シオリさんは
ここで引き返して」
「そんな!危ないです!」
「誰かが残らないと、あいつの行方がわからなくなる!」
カズヤは、油断なく相手の動きをうかがっている。
しかし、その人物は
「ほう・・たった一人で私の相手をするつもりか・・?
命は大事にしたほうがいいぞ・・」
声の感じからして男だろう。
カズヤは臆することなく叫ぶ。
「倒せずとも・・時間稼ぎくらいなら!」
「ふふふ・・威勢のよいことだ。しかし、娘をかばいながらでも
そのようなことがいえるかね?」
しまった!カズヤは咄嗟にシオリに振り返る。
彼女は連絡に夢中で気づいていない!!
暗闇の中に、わずかに動く気配が見える。
あわてて、駆けより彼女をかばう。
間に合ってくれ!!カズヤは心の中で叫んだ。
「え・・あれ?」
シオリは自分がどうなったのか気づかなかった。
しかし、自身の腕に伝わる暖かい液体のおかげで
事態を理解した。
「カズヤさん!?」
カズヤはその腕の中にシオリをかばったのだ。
左腕からは少し血が流れている。
「気づかなかったよ・・。あのモンスターは・・」
「ふふふ・・気配を感じ取ったか・・。私が使役する「エビルハンター」だ。
夜の闇にまぎれ、人を襲う化け物・・」
すでに、カズヤはあたりを囲まれていることに気が付いている。
「さあ・・死になさい。せいぜい叫び声を上げてねえ!!」
男がさっと腕を上げる。
「シオリさん・・連絡は?」
「あ・・はい。ユウイチさんたちにはつながりました」
カズヤはにやっと笑う。
「それなら、大丈夫だね」
ぐっと力を入れ、立ち上がるカズヤ。
「ここで力尽きても!!」
ザン!ザシュ!!
スピードを生かし、次々にモンスターを切り裂くカズヤ。
戦いを繰り返し実戦の中で成長した証である。
その戦い振りに、男は少しばかり驚いたようだ。
「バカな・・?何故あれほど動ける!?
くっ・ならば小娘の方から殺してしまえ!!」
ハンター達が一斉にシオリに襲い掛かる。
「きゃあああ!?」
「させるかあ!!」
ドカッ!!
カズヤの背中にハンターの牙や爪が突き立てられる。
しかし、カズヤは怯まない。
剣を横に振り、モンスターを振り払い向き直る。
「シオリさん・・離れちゃダメだよ・・」
自分の背後にいるシオリに一言言うと、
「氣よ・・我が剣に集え・・・。悪しき者を切り裂く螺旋の旋風となれ!」
カズヤが体を一回転させ、天に向かって剣をかざす!
「スパイラルレイブ!!」
それは竜巻だった。カズヤの中で練られた氣は風となり、
カズヤを中心に荒れ狂う。
カズヤはしっかりと立っていた。その背にしっかりとシオリをかばいながら。
竜巻にもまれ、切り刻まれ技が終わると同時に、モンスターたちもその姿を消した。
「なんだと・・こんなガキに私の使い魔が・・」
男はかなり動揺している。
「彼女には・・シオリさんには指一本だって触れさせやしない・・」
すでに体はぼろぼろのカズヤだったが、戦意は失われてはいなかった。
「おのれ・・小僧。私にたてついたことを後悔するがいい・」
男が戦闘体制に入る。ゆっくりとカズヤ達に近寄ってくる。
カズヤに果たして勝機はあるのか?
今だ、雨はやまず、ファグナスは不穏な雲に包まれていた。
続く
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