ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 26 乙女流
開始の合図と共に、カズヤは正面から飛び込んだ。
(まずは自分から仕掛ける!)
以前よりはるかに増したスピードでルミに向かって斬りつける。
キィン!
彼女も両手で構えた剣でカズヤの剣を受ける。
彼女の剣は両手剣のようだ。
「へえ・・いい太刀だわ。これなら本気でやっても問題ないわね」
突然彼女の剣が光りだす!
「行くわよ!!」
ガァン!!
ものすごい衝撃と共にカズヤが吹き飛ばされる。
カズヤは空中で一回転すると、軽やかに舞台に着地する。
(一瞬であれだけの氣を・・・・)
「情熱一刀派・乙女流・・その極意は氣の流れを制することにあり」
ルミが今までとは打って変わったような静かな声でそう言った。
「ゆえに、代々女性にのみ受け継がれた影の剣」
ヒュオン!
どこにそんな力があるのか、軽々と両手剣を振る。
「表舞台に目立つ剣だけが強いわけじゃないってことを教えてあげる」
剣を斜めに構え、向こうから攻めるルミ。
「どおりゃああ!!」
およそ、女性らしくない掛け声で思いっきり剣を振るう。
それだけで衝撃波が発生する。
「・・!」
カズヤはその攻撃をするりとかわす。
そして、背面から流し切りを放つ。
「てあっ!」
しかし、それはルミの剣にあっさり阻まれる。
「その程度じゃ、通用しないわよ」
ガキンと、剣ごとカズヤを吹き飛ばした。
「うわっ!」
ズザアアと音を立て地面にふんばるカズヤ。
「ふぇ・・カズヤがあんなに軽々と飛ばされてます」
「・・カズヤは体重が軽い」
マイの説明は短かったが、それでも皆が理解するには十分だった。
「でも、あの人そんなに力があるようには見えないけど・・」
ナユキの疑問ももっともだった。
「・・氣を制するそれは、おのれの身体能力を極限まで極めること」
アキコが突然そんなことを言い出した。
「女性のみに可能なそれは、己の気脈を読みそれを
最大限に生かすこと。それが氣を制する乙女流・・」
誰も口を開かない。語るはただアキコのみ。
「かつて噂には聞いたことがありましたけど・・。
実在したんですね」
そして、いつもの頬に手をやるポーズ。
「嘘だろう・・。なんであんな細腕であんなに力が出せる?」
ジュンはあまりの光景にびっくりしていた。
「おそらく・・氣だな。彼女から流れる氣を感じ取ってみろ。
俺たちとは違う。洗練された・・何ていうか無駄のない流れだ」
「ああ。けどそれが一体何の・・」
俺は静かに首を振る。
つまりはわからないということだ。
「さて、まだまだこれからよ!」
重量のある剣で、複雑なコンビネーションの斬撃でカズヤを追い詰めるルミ。
カズヤは、パワーに押され自身の攻撃の機会を無くしていた。
「くっ・・・」
何しろ彼女の攻撃は、一撃が重い。受けるだけでも体に負担がかかる。
おまけに連撃では、こちらが反撃に出ることすらできなかった。
だが、
(・・次の攻撃は!?)
読めた。カズヤは振り下ろしの斬撃をうまいこと受け流した。
彼女の剣が地面にまで突き刺さる。
「えっ!?うそ!!」
さすがにここから次の攻撃はつなげない。チャンスである。
「喰らえ!スパイラルレイブ!!」
螺旋を描く竜巻を自身から巻き起こしルミを飲み込む。
その竜巻は彼女を斬り、ダメージを与えるはずだったが。
「ふんっ!!」
風の流れに乗りながら両手を広げるように気合を放つと
カズヤの風はそのまま消え去ってしまった。
そして、再び着地する。
「おどろいたわ・・ここまでの風を作るなんて」
ルミにはさほどダメージがない。
カズヤも今の事態をどう受け止めるべきか、混乱していた。
「今のも、君と一緒よ。ただ氣を全身から開放しただけ。
氣口っていう出入り口は全身にあるんだから
何も媒体がなくったってこの位の芸当はできるわ」
この位の芸当で技を破られてはたまったものじゃない。
カズヤはそう思った。
「あなたたちとは根本的に氣の使い方が違うのよ」
ルミはそう言いきった。
「どうする?降参する?」
剣を肩に担いで彼女はそう聞いてきた。
カズヤは真っ直ぐ相手を見て
「いいえ、続行します」
剣を再び構えなおす。
「うん。男の子してるじゃん。そうこなくっちゃ」
ルミも正眼に剣を構える。
とはいえ、パワーに得意のスピードを封殺されたカズヤは
不利なことにはかわらない。
カズヤは、彼女の隙をうかがうが、そんなものはない。
ならば、
(なければ作り出す!)
カズヤは剣を水平に構える。
ソニックエッジの時の構えだった。
「カズヤのやつ・・ソニックエッジで先手を取る気か?」
俺は、そいつは少し賭けだと思った。
彼女が果たして、ソニックエッジで怯むかどうか・・・。
しかし、ユウイチの予想とは違う事態が舞台では発生していた。
「ソニックバスター!!」
ソニックエッジを即座に放つカズヤ。
しかし、放たれたのは高速で向かっていく氣の刃だった。
「あいつ・・ソニックエッジのスピードを氣光波にのせたのか!?」
とてもじゃないがあんなスピードで氣光波をはなったらとんでもない斬撃力を出すぞ。
威力としては申し分ない。しかも、
「やば・・」
ルミもこの攻撃は予想していなかったのか、若干遅れて氣光波を避ける。
避けた先の壁は、見事なまでに寸断されている。
さすがに突き破るほどの威力はなかったが。
あれを避けるのに気を取られたルミは、カズヤがどこに行ったのかに気づいていなかった。
「・・!?」
すでに懐に
「クラタ流古流剣術・・」
飛び込んでいた
「ストームランサー!!」
突風と共に突き出される強力な突きが彼女の腹にヒットする。
「きゃああ!?」
技の勢いに乗り壁まで吹き飛んでいく。
ドガアアアアン!!
壁が少し崩れ、彼女もそこに埋まった。
しかし、カズヤは再び剣を構え、彼女が出るのを待った。
(手ごたえがなかった・)
カズヤがそう思った時、破片が派手に飛び散り
それほど、ダメージのない彼女が出てくる。
「今のは咄嗟に体をずらさなかったらやばかったわね・・」
彼女はインパクトの瞬間、反射的に体を後方に倒したのである。
感覚的にカズヤの攻撃を見抜いたのか。まさに野性の感覚である。
「さて・・まだまだ付き合ってもらうから覚悟なさい」
「望むところですよ」
舞台の上の二人はますますヒートアップしていく。
「えう〜カズヤさん、大怪我だけはしないでくださいね・・」
シオリの心配も知らずに。
続く
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