ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 2  契約





     
    「それは・・・。ここで暮らせということですか?」
  
     ユウイチは何とかそれだけを口にした。

  ジュンは放心状態で固まっている。

  「ああ、そういうことだ。実はだな・・」

  葉巻をくわえ、ズアイフさんが話し出したのは

  「最近モンスターの進入が激しいというのは聞いたね?」

  「ええ」


  「この街の騎士団は、貴族優先で街を守ろうなどとは思っておらん。
   前は、このマイの両親がいたおかげで、それほどでもなかったが、
   二人が亡くなり、所属していた部隊が消えてからは、
   街の人たちが自衛をするような形になってしまったんだ」

  なるほど、とユウイチは思った。

  そうでなくては、街に簡単にモンスターが入る説明がつかない。
  
     とてもじゃないが素人が自衛をしたところでどうにかなるものでもない。

  足止めにすらならないだろう。

  「私としても、この惨状を上からどうにかするので手一杯だ。
   そこで、三食と部屋を提供する代わりに、 
   街の自衛・・というよりは何でも屋だな。
   ただし、力持たぬもののためにその力を使って欲しい。権力に流されず・・
   君達が正しいと思うことをやる。要求するのはそれだけだ」

  ふむ・・確かにそういう理由なら分からなくも無い。

  「でもどうして、出会ったばかりの俺たちなのです?」
  ユウイチは尋ねた。

  「先程君達が助けたのは、金で雇った護衛だったのだよ。
   彼らのような人間でも、モンスター1匹にすら太刀打ちできない。
   それを簡単に撃破した実力と・・」

  一呼吸置いて

  「娘は君が気に入ったそうだからね」

  にやっと笑って見せた。

  「お、お父様!」

  サユリは顔を真っ赤にして怒鳴っている。

  「俺は・・・?」
  ジュンがさびしげにつぶやくと、
  
  「あ〜すみません。姉さんは思い込みが結構強いタイプで・・。
   一度、のめり込むと中々帰ってこないんです」

  カズヤが申し訳なさそうに謝る。

  「娘は人を見る目がある。この子が大丈夫ですよというのなら
   私は信じるよ」

  そういうものなのか・・?

  しかし、俺達は別に急ぐ旅ではない。

  この人たちとならうまくやっていけるだろう。

  断る理由も無いしな。

  「わかりました。そういうことでしたらお引き受けします。
   ジュン、お前もいいよな」

  「ああ。もちろんだ。」

  即答で答える。
  さすがは長年の相棒だ。


  「よし!話は決まった!これからよろしくな。
   ユウイチ君、ジュン君」


  「「はい」」

  俺達は、サユリさんの案内で
  部屋へと通されることになった。










  そこは客間の一室で、そこからすぐの階段で
  サユリさんたちの部屋へもいけるそうだ。


  「ジュンさんは隣の部屋を使ってください。
   ユウイチさんは、こっちですよ〜」

  一人一部屋か・・・。めちゃ待遇だな。

  「すみません世話になります」

  「いえいえ、こちらこそですよ〜」

  俺達は荷物を整理して、
 
  部屋へ入った。


  「いい部屋だ・・・本当に客用か?」

  今までの旅でのどの宿でも、ここまでの
  
  待遇は受けたことは無いぞ?

  その時、ノックの音が


  コンコン


  「どうぞ」

  「お邪魔します〜」
  「・・お邪魔します」

  入ってきたのはマイとサユリだった。


  「あはは〜何か足りないものは無いですか?」

  サユリは部屋を見回しながらユウイチに尋ねた。

  「いや十分すぎるほどだ。えっとサユリさん。   
   隣にいるのは・・マイだったよな?」

  「はい〜。紹介するのを忘れてまして」
 
  ぽかっ

  マイがサユリにチョップを入れる。

  「・・忘れちゃダメ」
  「あはは〜ごめんねえマイ〜」

  見て取れるくらいの仲良しだな。

  「ほら、マイ。挨拶」

  「・・マイです。・・特技は剣。・・よろしく」

  ぺこりと頭を下げる。

  「ああ、俺はユウイチだ。さっき一緒にいたのがジュン。
   よろしくな、マイ」

  そういいながら頭をなでる。

  「・・・(赤)」

  マイは何故か照れてしまった。

  「あはは〜よかったねえマイ〜」

  サユリさんも嬉しそうに喜んでいる。

  「それじゃユウイチさん。後で夕食ですので食堂にきてくださいね」

  「・・また後」

  「ああ、ジュンにも伝えておく。それじゃ後で」

  サユリさんたちはそう言って部屋を出た。

  


  その頃、偶然ユウイチの部屋に入るサユリたちを目撃した
  
  ジュンは、


  「何故・・・俺だけ・・?」

  自身の存在について自問自答を繰り返していたらしい。








  「あれ?マイ?」

  何気にホールに行くとマイとサユリさんが困った顔で立っている。

  ズアイフさんが、どうやら問答しているらしい。

  相手は・・俺と同じくらいの年の男だ。

  豪華な鎧を身にまとい・・胸には国旗のエンブレム。

  騎士か?
  

  俺はそっと聞き耳を立てる。

  「何度もいったろう。帰りたまえ。
   君に娘はやれん」
 
  いきなり凄い発言が聞こえた。

  「そう言わずに・・ズアイフ様。
   僕ならば、必ずサユリさんを幸せにして見せます。
   ひいてはクラタ家が、王家の実験を握るほどに
   成長させて見せますよ」
  
  自身たっぷりに言い切る男。
  どこからくるんだその根拠は。

  ユウイチは嫌いなタイプの人間を目の当たりにし
  すこし不機嫌だった。
  
  「いったろう?私はそのようなものは必要ない。
   娘が幸せなら、相手が貴族であろうとなかろうと
   関係ないのだ」

  「ふう・・相変らずの答えですか?
   いったい僕の何が不満だというのか・・」

  その存在自体だと思うが。

  ユウイチは心で突っ込みを入れる。
  
  「・・もう帰る。これ以上はなしても無駄」

  マイはサユリをかばうように前に出て言った。

  「君は?・・・ああ、あの「カワスミ」の娘か。
   ずうずうしくもクラタ家に居座る気かい?」

  マイが悲しげな表情をする。
  
  「クゼさん!取り消してください!マイは・・
   マイはそんな子じゃありません!」
  
  サユリが大声を上げる。
  親友を罵倒されたことに憤りを感じたのだろう。
  
  丁寧な言葉だがその言葉には怒りが混じっている。

  「サユリさん・・。君のそういうところは理解できませんね。
   何故このような下賎の者をそんな風にかばいだてするのか・・」

  ふっ・・とクゼが笑う。

  おいおい、そろそろ俺のほうが限界だぞ。

  俺は腰の剣に、手をかける。


  「僕達は、貴族ですよ?根本的に平民とは生まれが違うんだ!
   その立場もな!君のようなもののいる場所じゃないんだよ?カワスミさん!」




  「平民のために命をかけて敵と戦い、挙句に死んでしまうような
    義務を放棄した騎士の娘のいるような場所ではね!!」




  「・・!」
  マイが激昂する。

  しかし、



  ガキィン!!

  

  クゼの鎧を砕きながら吹き飛ばしたのは彼女ではなかった。

  「ぐはぁっ・・だ・・誰だ?貴様!!」

  クゼの目の前には、剣を握ったりりしい姿の少年が
 
  サユリとマイをかばうように立ちはだかっていた。    
  
  「お前のようなクズに名乗る名前は無い」

  ユウイチはディザイアを向け
  言い放つ。

  「もう少し女性に対するマナーを考えた方がいいな。
   仮にも貴族だって言うんならな・・」

  ユウイチは剣を突きつけ、

  「・・ここで血を流すつもりは無い。おとなしく去れ。
   これ以上彼女らを侮辱するつもりなら」

  ヒュっと剣がクゼの顔に向けられる。





     「ここの主との契約どおり、弱きものを傷つけるものを
    俺は斬る!!」

  
  


  俺は、見下ろすように彼をにらみつける。
 
  「ユウイチさん・・」
  「・・ユウイチ・」
  
  二人の少女はその姿に見とれている。
  
  「貴様・・・。表へ出ろ!!この僕に傷をつけたこと
   後悔させてやる!!」

  その様子を見て、さらに気分を害し、
  
  ヒステリックに叫ぶクゼ。

  
  そのとき彼は、 
  
  ユウイチの目が怒りに燃えていたことに

  果たして気づいていただろうか?

                                     続く

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