ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 49  奇跡の英雄





    「く…」

  ホロズオープはその体をゆっくりと起こした。

  あちこちにダメージはあるがどうやら消滅には至らなかったらしい。

  辺りを見回すと屋根が丸々吹っ飛んでいる。

  ユウイチは反対側の床に倒れこんでいる。

  「所詮は人間か…」

  さすがに命の危険を感じさせられたが、この勝負は自分の勝ちだと

  彼は思った。

  そしてとどめをさすべく、ゆっくりとユウイチに近づいていく。

  「これで終わりだ、人間よ」

  手には巨大なエネルギー。

  そしてユウイチの頭に向かい振り下ろされる。















  「まだ終わりじゃねえ」
 
 














  ズガアアン!

  ホロズオープは後方にまで吹き飛ばされた。

  「何者だ!?」
 
  その人影は砂煙から徐々に姿をあらわした。

  「ここに来るのはもう決まってるだろ? 俺の名は拳聖 ジュン―キタガワ」

  ホロズオープが立ち上がると頭上から光の雨が降り注ぐ。

  「くっ!」

  バックステップでそれを避けるが、何本かは体を傷つけた。

  華麗な剣技にて舞う聖騎士。

  「…クラタ家が次女、聖騎士 マイ―オル―クラタ」

  マイはそう名乗った。
 
  そして同時に反対側から二つの影。

  「ぬう!」

  反射的に動いたが一つの影はその前に立ちはだかる。

  目にもとまらぬ斬撃がホロズオープの足を止め、

  後ろからもう一つの影が炎を放つ。

  ホロズオープはそれを翼で制した。

  「クラタ家が長男! 剣士 カズヤ―オル―クラタ」

  「同じくクラタ家が長女、精霊魔道士 サユリ―オル―クラタ」

  剣を構えりりしく立つカズヤ。

  杖を構え後光すら見えそうなサユリ。
 
  そしてユウイチの側に立ち、一言つぶやく少女が一人。

  「ユウイチは…冗談も言うけど、意地悪もするけど…」















  「約束は守ったよね」














  さして長い付き合いでもないがナユキは確信していた。

  「私はここにいるよ? ユウイチ…」

  そして紡ぐ古代の魔法。
  
  忌み嫌いみずから使用を禁じていた力。

  彼との出会いにより、自分を好きになれた。

  その思いを胸に彼女は戦う。

  「天より、地より、海より来たれ」

  「万物は全てそこから生まれ、そこに帰す」

  「始まりは終わり、終わりは始まり」

  「輪廻の定めに従い、終わりを導け!」

  「ゴッド・カタストロフ!!」

  ナユキから巨大な三本の光の槍が放たれる。

  ホロズオープは避ける術もなくその槍に体を貫かれる。

  「ぐああああ!!」
  
     「私の名は古代魔道士 ナユキ―ミナセ」

  そしてそっとユウイチを守るように立つ。
  
  それを見てジュンが大声で怒鳴る。

  「ユウイチ! いつまで寝てるんだよ!」

























  暗い……

  眠い…

  俺は死んだのか?

  やっぱりダメだったのか?

  ダメだ俺はまだ…。

  でも体が動かないんだ。

  沈んでいく…このまま…もう…。


















  『私はここにいるよ? ユウイチ』


















  !
 
  俺は失いかけた意識を呼び覚ます。

  そうだ! まだ俺には…。

  俺の帰りを……待つ人が!

  守らねばならない約束があるんだ!
























  「ぐああ!」

  ジュンが吹き飛ばされ、カズヤも立ち上がれなかった。

  「…強い」

  マイが立ち上がろうとするが体が動かない。

  「人間にしてはやるが…我をやるにはちと足りんな」

  お互いぼろぼろのはずだがホロズオープのほうがまだ余力がある。

  「さて…そろそろ奴の元に送ってやろう。せいぜいあの世から
   世界が地獄と化すところを見ているがいい」

  ホロズオープが魔法の詠唱をする。

  全員がそれを阻止できるほどの力は残っていない。

  「ちくしょう…まだだ」

  ジュンが立ち上がろうとする。

  ナユキはただひたすらに、

  「ユウイチ…」
 
  その名を

  「ユウイチーーー!」

  呼んだ。























  「ああ、呼んだか? ナユキ」

 
















  聖剣を構えた少年は答えた。

  自分を信じる者達の思いに。














  「貴様!?」

  動揺している奴に向かい、俺は聖剣で斬りかかる。

  蓄積した魔力は霧散し、俺はにらみ合う。

  「みんなの呼ぶ声がしたからな。帰ってこれたよ」

  見ると聖剣が淡く光りだしている。
 
  あたりから光が集まっていく。

  聖剣に。

  「これはみんなの思い。奇跡を望みつかもうと運命に立ち向かう人々の心」

  俺はその力を噛みしめるように。

  「さあファイナルラウンドだ。決着をつけようぜ」

  気がつくと皆は立ち上がっている。

  「俺たちはカノン! 奇跡を呼ぶ音に集いし者たち!」

  その言葉に聖剣はますます輝きをましていた。

                                   続く



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