ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 30  夕日の浮かぶ舞台





     
    
  「ふんっ!」

  ルミは、完全に攻撃態勢に入った。

  常に体を覆っている氣が薄れていくのが感じられる。

  そして、その全てが剣に収束する。

  俺の目の前には巨大な気光剣を構えたルミがいた。

  防御を捨て、完全に攻撃に徹するつもりか・・・。

  俺は、臆することなく剣を握り締める。

  相手から発する気に飲まれたら負けだ。
   
  お互いにこれが最後の一撃になるとわかっている。

  はずした方の・・負け。

  この、一瞬の駆け引きが勝敗を分かつ・・。

  






  周りの観客も、クライマックスへと向かう二人を前に

  固唾を飲んで見守っている。

  あたりには、再び静寂さが戻っている。

  他のメンバー達も、黙って勝負の行方を見守っている。

  (ユウイチ・・奥義を撃つ気か。果たして、出来るかな?)

  リノーバス流の奥義・・ユウイチもジュンも型は全て学んだ。

  だが、二人とも未熟ゆえにその技を制御できなかった。

  技の威力に振り回されたのである。

  ゆえに、ユウイチがここで奥義を放てるかは、

  これまでに自分達がどれだけ成長してきたのかを知る機会でもあった。

  (俺も・・試してみるべきかもな)

  ジュンは、ユウイチとの試合で奥義を試せなかったことを

  ほんの少しだけ、後悔していた。


   







  


    




  すでに、辺りはひが落ち始めあたりはオレンジに染まり始めている。

  二人の視界に太陽は入らない。

  今の二人にとっては、それすらも己の敗因につながってしまう。

  不気味な沈黙が続いた。

  その沈黙は、ほかならぬルミによって破られた。

  ドン!

  大きな音を立て、地を蹴りユウイチに向かうルミ。

  異常なスピードだ。だが、ユウイチも素早く反応しそれを横に避ける。

  ブン!

  まるで巨大な戦斧のような風切り音を立てるルミの剣。
 
  気光剣はそのままだ。おそらく命中時に、何らかのアクションを起こす気か・・。

  俺は、ルミに対し剣を振り、けん制する。

  そして、やや横にずれる。

  「逃げ切れると思ってるの?」

  ルミがやすやすと間合いを詰めてくる。

  俺はまた、剣を振る。ルミはかまいなしに突っ込んでくる。

  ぎりぎりでそれを避ける。

  さらに間合いを後ろの方に取る。

  「これで終わりよ!!」

  ルミの剣が金色に輝く。

  「情熱一刀派・乙女流!!奥義!!」

  ルミの剣が勢いを増す。俺は完全に間合いに捕らわれた。

  避けることは出来ない。

  「不浄!断砕剣!!」

  オーラの剣と化したルミの剣は金の剣閃を放ち、眩い輝きを辺りにもたらす。

  夕焼けとは別の輝きに視界が奪われていく。

  だが、その剣が届くことはなかった。

  「この一瞬に全てをかける!!」

  そう、ルミが勝利を確信し全力を攻撃に注いだその瞬間、確実に彼女が防御に回れなくなる
 
  瞬間だけを待って。

  今、奥義を放つ!!

  「リノーバス流剣聖奥義!!三の太刀!!」

  ルミの手前で剣を振る。すると、ルミの周りの空間がゆがむ。

  高めた氣で空気が変わったためだ。

  その地点で剣をつきたてる!!

  「きゃあっ!?」

  ドゴオオオン!!

  舞台の石と共に、中へと浮くルミ。

  いや、そうではない。放たれた氣が彼女を空に固定している。

  まるで、気流のように剣をつきたてた場所から氣があふれ出てきているんだ。

  ここまでは上出来だ。後は最後の一撃!

  「天地鳴動!!」

  地の鳴動・・・。

  つきたてられた剣は、大地の鳴動を模して相手を捕縛。

  そして、天の鳴動とは。

  「いけえええええ!!」

  天高く跳ね上がるような切り上げの一撃。

  青く光るその剣閃は、天へと届かんばかりの勢いでルミの体にヒットする。

  剣閃は、ルミを切り裂きつつ天へと跳ね上げ、そして地面へと落下させた。

  普通の人間ならとっくに死ぬような威力だが、ルミは微かに氣を防御に回した。

  一瞬、俺が天への二撃目をつなぐ瞬間がずれたからだ。

  彼女は、やや荒い息をしているが、意識はないように思えた。

  これで立ち上がられたら・・。

  頼む、このまま寝てくれ。

  正直、もう戦える力は残ってない。

  やがて、審判が確認する。

  「勝者!ユウイチ!!」

  その言葉で、俺はぺたりと舞台に座り込んだ。

  勝った・・かろうじてだけど。

  ワアアアア!!

  歓声が上がる。だが、まるで遠いところからのようによく聞こえない。

  







  「やった〜ユウイチ優勝だよ〜」

  ナユキは慌てて、舞台のほうへと下りていった。

  その様子を見ていたジュンたちも、
 
  「俺たちもいくぞ!」

  次々に舞台へと向かっていった。









  「う・・」

  ルミがようやく目を覚ます。

  「あ・・あたし負けたんだ・・」

  辺りの様子で、どうやら自分がどれだけ気を失ったかに気づいたらしい。

  「紙一重だったがな」

  俺はそれだけ答えた。

  「もっと気の利いたことはいえないの?」

  イタズラっぽくこっちをみながらそう言ったが、

  「俺にそんなことを期待するな」

  俺はそう答えた。

  「ユウイチ〜」

  ナユキの声がする。

  こっちに向かって走ってくるのを俺は立ち上がり、

  「って・・わあ!?」

  飛び込んできたナユキを慌てて受け止める。

  ぐあっ・・ちょっと待て・・。

  「ナ・・ナユキ・・俺は・・怪我のうえに体にも力が入らないんだが・・」

  何とか支えているが、そう長くは持たないぞ。

  「よかった・・ユウイチ。おめでとう・・」

  ナユキは泣き笑いでそう言ってくれた。

  俺は、今にも倒れそうな意識を呼び起こして

  「お前の・・おかげだ。ありがとう」

  何とかそれだけ言うと、ナユキをはがした。

  「うん?何が?」

  「いや、なんとなく言っておきたかったんだ」

  「変なユウイチ〜」

  今度はくすくす笑っている。本当によく表情の変わるやつだな。

  







  「あらあら、ナユキったら大胆ね」

  嬉しそうにその様子を眺めているアキコさん。

  「ふぇ・・やっぱりユウイチさんは・・」

  サユリは少しだけ悲しそうだった。

  「出て行く瞬間を逃しましたね・・」

  カズヤは、ちょっと間の悪そうな顔でそういう。

  「わ・・なんだか劇のようで素敵です〜」

  シオリはなんだか興奮した様子でそう言うと

  「さ、そろそろ行こうぜ」

  ジュンの一言で、皆が舞台に上がる。

  舞台の上でユウイチは仲間たちから賛辞を受けたのだった。






 









  「では、ユウイチよ国王陛下の前に!」

  そして、表彰式。

  俺は緊張しながらも、何とか国王の前に立った。

  「そのままで聞いてくれ」

  「?」

  どう考えても儀式的なことではない。

  そう直感した俺は、周りにはいかにも表彰されてますというように

  国王の話を聞いた。

  「君達のことはすでに、ズアイフより聞き及んでいる。
   これは、わたしからの贈り物だ。そして、国王ではなく 
   一個人として、私の頼みを聞いて欲しい」

  俺は、表面上は儀式を続けながら国王の言葉に耳を傾けていた。

  「簡潔に言う。現在この国にクーデター派が存在する。我らの方でも何らかの対策を講じるが
    もしも有事の際には・・」

  俺は次の言葉を待った。

  それは俺の予想をはるかに越えた言葉だった。















  









  「民の安全を第一に行動してくれ」

























  言葉はなかった。

  てっきり、クーデター派の一掃を頼まれるかと思ったが・・。
 
  だが、陛下の目が嘘を言ってないのはよくわかる。

  俺は、小声で、

  「俺たちで出来る限りはします」

  そう答えた。

  陛下に微かに微笑みがうかんだ気がするのは・・気のせいじゃないだろう。

  そうして、夕焼けのうかぶ舞台を背に、

  武術大会は幕を閉じた。

  新たな波乱の幕開けの予感と共に・・・・・。

                                 続く

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