ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 24 前哨戦
俺たち、本戦出場者は控え室に集まっていた。
それぞれ、模擬戦用の武器を渡される。
「相手を殺すのは禁止です。決着は相手が完全に気絶、戦闘不能と判断された場合、
もしくは相手の降参とさせていただきます」
まあ打倒な説明だな。
ちなみにうしろからクゼが何か睨んでるようで居心地が悪いんだが・。
「それでは第1試合を行います。マシラさん、ユウイチさんは舞台のほうへ」
「はい」
「おう」
そして、舞台の上に俺たちは立った。
周りはすでに興奮の渦だった。
様々な声援が乱れ飛んでいる。活気にあふれているな。
その間で、アキコさんやキヤイタさんがせっせと商売に精を出しているのが見える。
ナユキたちが目に入ると、
「ユウイチ〜頑張って〜!!」
他の声援に負けないくらいの声で応援してくれた。
俺は軽く手を振り返す。
心なしかあいつが笑ったように見えた。
「おいおい、戦闘前に愛想を振り撒くとは緊張感のないやつだぜ」
ズンと音を立て斧を突き立てる。模擬武器とはいえ重量はある。
「緊張感がないわけじゃないさ」
俺は剣をすっと手に持つ。
「周りが見えないほど視野が狭くないんでね。俺のやることは
目の前の相手を倒せばいい仕事じゃないんだ」
「言うじゃないか・・。だが付け上がるのは程々にしとくんだな。
お前の前にいるのは惜しくも前回、優勝を逃した男だ」
下卑た笑いを浮かべる。コイツじゃさっきの男には勝てんわな。
「言ってろ」
短くそう言うと、審判が、
「それでは、始め!」
第1試合の始まりを合図した。
「うおりゃあああ!!」
力任せに振り下ろされる、斧。
形状は片手斧だな。斧の中では扱いやすいかもしれないな。
「ちええい!!」
マシラは器用にスピードとパワーの乗った一撃を放つ。
だが、軌道が単純だ。読みやすい。
俺はその攻撃を軽いステップだけでかわしていく。
「ぐっ・・このやろおおお!!」
大振りの攻撃で、バランスが乱れる。
背中ががら空きになったのを確認すると
俺は首筋に一撃を放った。
「こあ・・・」
妙な声を上げ、泡を吹きながらマシラは気絶した。
審判が確認する。
「勝者!ユウイチ!!」
歓声がひときわ大きくなる。俺はさっそうと舞台を下りた。
思ったほどの相手じゃなかったか。
向こうからジュンが歩いてい来る。
「おつかれ、すぐに行くからよ」
「ああ」
一言交わすと俺は控え室に向かった。
「それでは、始め!」
ジュンが右へ左へとフットワークを取る。
マウスが先に仕掛けた!
「シッ!」
右のナイフがジュンを狙う。しかし、あの動きなら右はフェイントだ。
「シャアッ!」
予想通り、相手が左の方のナイフで鋭くジュンの上半身を狙う。
ナイフのような武器では一撃で急所をつけるかどうかの技量が問題だ。
そういう意味では彼は強い。
だが、
「な・・!?」
ジュンはその両のナイフを指で止めた。
もちろん、模擬武器とはいえ相手が刃物であることを忘れてはいない。
リノーバス流の体術でおそろしいのはあの無刀取りだ。
様々な形が存在するが、武器があるだけでは決して有利にならないのが
リノーバス流の体術の恐ろしさだ。
「ふん!」
軽くひねるようにナイフを取り上げ、降伏しろと目で脅すジュン。
「・・・参りました」
こうして、俺たちは準決勝でぶつかることになる。
そして、今は舞台にクゼとカズヤが上がっている。
「カズヤ君、遠慮は要らないからね」
余裕の表情でそんなことを言うクゼ。
「ええ、もとよりそのような失礼をするつもりはありません」
すっと静かに剣を構える。
「・・!そ・・そうか」
クゼの表情が曇る。そりゃそうだろう。
ここにいてもビリビリ感じるくらいカズヤからは放たれているのだ。
威圧感が・・・・。
「やばいな・・。今戦ったら・・」
俺がそう言うとジュンも
「勝てないかもしれないな・・」
ジュンもそう思ったらしい。
「始め!」
合図がかかる。勝負は一瞬だった。
キィン!
その音に皆が静まり返る。
カズヤはややクゼの後方にいる。
クゼは立っていた。
刀身のなくなった剣を持って。
そのあまりの芸当に皆が静まり返る。
「戦闘不能です・・・あきらめてください」
その一言に審判がはっと我にかえる。、
「しょ、勝者カズヤ!」
その声に歓声がひときわ上がる。
「す、すげえええ」
「カズヤ様、バンザーイ!!」
クゼは放心したように控え室に戻る。
カズヤは少し照れたように俺たちのところに来て
「ははは・・勝ってしまいました」
「俺たちもお前に勝てるかどうか疑問に思ったところだ」
そんなことはないですよとカズヤは笑った。
通り過ぎる時、彼女が来た。
「ユウイチだったよね?それにジュンにカズヤだっけ」
ルミだ。俺に挑発を仕掛けてきた少女。
「最近骨のない男ばっかりだったけど・・。あんた達は
そうでもないようね。やっぱここに来て正解だったわ」
「腕だめしの旅か?」
ジュンが彼女の発言にそう答える。
「そんなとこよ。それじゃカズヤ、準決勝で会いましょう」
そう言ってルミは舞台に上がる。
彼女の凄さを見るのはそのすぐ後だった。
「始め!」
ズドオオン!!
轟音と共に相手の姿は消えていた。
壁の方に彼がめり込むほど叩きつけられている。
氣を込めた剣だ・・・・・・。
とはいえ、並みの使い手ではあれほどの威力は出せない。
相手の完全気絶を確認すると
「勝者!ルミ!」
と宣言された。
辛くもベスト4には俺たち4人が残ったのだった。
「誰が優勝するかは・・・」
「本当にわからないな」
俺とジュンはそう言った。
「とりあえず、お前を倒すのが先か」
「何を言う。それは俺の台詞だ」
二人でにやっと笑う。
「それでは準決勝を行います!出場者は前へ!」
俺とジュンは舞台に上がる。
「始め!」
久しぶりの真剣勝負。俺たちは遠慮なく真っ向からぶつかる。
俺の連撃を手甲でさばくジュン。そしてジュンの攻撃を受け流しながら
機会をうかがう俺。
ギィン!
音と共にお互いに若干の隙ができる。
「氣掌!」
ジュンお得意の氣光掌が放たれる。
「せえや!」
俺は発氣を行い、氣光波をかき消す。そして、その陰に隠れて突進し
「剣舞・桜花!!」
乱撃術で攻める。最初の攻撃こそヒットしたが、
次の攻撃を流されスキだらけになった上半身に
「はっ!」
蹴りを入れられ俺は吹き飛ばされた。
舞台に倒れた俺にジュンが一言こう言った。
「おいおい、もう終わりか?」
俺は首跳ね起きでがばっと起き上がり
「冗談だろ」
そう返してやった。
「そうこなくなちゃな」
嬉しそうに再び構えるジュン。
この攻防に見とれていた観衆も再び声を上げ始める。
まだ、戦いは始まったばかりだ。
続く
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