ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 13  ミシオの依頼





     
     「なるほど・・転送石か」

  ユウイチは、ジュン達の捜索結果を聞きながら青い石を眺めていた。

  光を通し、キラキラと小さな光の屑を生み出すそれは、さながら神秘的に映った。

  「こうなると、この事件は誰かの思惑の元に動いてると考える方が
   自然だな」

  「ああ、俺もそう思う」

  ジュンはユウイチに相槌を打つ。

  マイはしきりに何か考えている。
 
  「・・ユウイチ」

  「なんだ?」

  やがて、マイが口を開く。

  「・・仮に、人が相手だとしてもユウイチは戦えるの?」

  「どういう意味だ?」

  マイはさらに続ける。

  「・・この国の重要な役職には、腐った貴族が多い。
   義父様のような人はわずかしかいない」

  ユウイチは黙って話を聞いている。

  いつのまにか、他のメンバーも聞き入っている。

  「・・そのような人たちが相手だとしても?」

  「もちろんだ」

  ユウイチは即答した。

  マイは少し驚いている。

  「俺は、はなっから権力なんて物に屈する気は無い。
   そんなものに、罪も無い人が踏みにじられていいはずが無い。
   だから・・俺はそんな奴らが出てきたとしても戦うさ」

  「おい、ユウイチ。俺達、だ」

  ジュンが、笑ってそう言った。

  「マイ、ユウイチの言うとおりだ。俺達はな、
   権力にすがる気も、屈する気もねえ。
   あがけるだけあがくさ」

  よっとといって、ジュンが立ち上がる。

  「この国が、中から腐ってるってんなら、それを正してやるのも一興さ」

  窓から外を眺め、誰にともなく言うジュン。

  窓には・・夕日を背に家路へ急ぐ人々や、笑い声を上げながら
  
  解散する子供達がいた。

  「絶対に・・・そんな奴らの犠牲にしてはならない。
   今を平和に生きる人たちを」

  その場にいた、誰もがうなずいた。

  やがて、迎えの馬車が来て夜の連絡を自衛団員に任せた後、

  俺達は家に戻ることにした。











  夜・・・・・ズアイフの部屋。

  「そうか・・・。やはりそうなのか」

  「まだ、はっきり決まったわけじゃありませんが・・。
   一般人である可能性はきわめて薄いです」

  ユウイチは、今日の出来事を報告していた。
 
  犯人が、貴族の人間であるならズアイフにも

  危険が及ぶかもしれないと判断したからである。

  「そういう腹黒い連中は多すぎて見当がつかんよ」

  はははと苦笑いを浮かべ、ズアイフはパイプをふかす。

  「すまないな、ユウイチ君。すっかり君達を巻き込んでしまって。
   本来、正すべき大人がしっかりしていないから・・」

  「それは違いますよ。俺達のような子供だからこそできることもあります。
   俺とジュンは、少なくとも自分の行動に迷いはありません」

  ユウイチはまっすぐな目で答える。

  「そうか・・。すまない、変なことを言ったな。
   わかった、今後は同僚の動きにも気を配っておこう」

  同僚、というのは大臣連中のことだろう。

  ズアイフさんは、国王補佐というトップクラスの役職だからな。

  「ええ、気をつけてください」

  ユウイチは一礼して部屋を出た。









  あけて翌日

  「連れてきたぞ・・・・」

  朝から、ぐったり疲れた様子のユウイチが

  ナユキを連れて事務所へ入ってきた。

  「く〜・・・・く〜・・・・」

  「はえ〜ナユキさん、歩きながら寝てます・・」

  さすがにサユリさんもびっくりしたらしい。

  「結局、何度も起こしたがこの様子でな・・」

  仕方なく、アキコさんにナユキを着替えさせ

  夢遊病状態を利用して、ここまで連れてきたのである。

  断じて、俺が着替えさせたわけではない。

  それではただの変態だ。

  「さて、それじゃ今日の組み分けをするか」

  そういってくじを出そうとした時

  「あの・・少しよろしいでしょうか?」

  おっとりした感じの声、

  「ユウイチ〜」




  元気な少女の声。
 
  「ミシオ!マコト!」

  ユウイチは振り返り少女達の名を呼んだ。

  「実は・・皆さんにちょっとお願いしたいことが」

  「まあ、座ってくれ。話はおいおい聞くよ」











  「リオラハ遺跡?」

  聞きなれない地名に俺は、首をかしげた。

  「ええ、次元神オネを祭っていたらしい遺跡なんです。

   この街のはずれから一本道で簡単にいけるんですけど・・」

  ミシオが困った表情をする。

  「何回言っても、肝試し気分で入ろうとする子がいるのよう」

  マコトも困り顔だった。

  「それで、危険が無いように見回っていただけませんか?
   幸い作りがしっかりしているので、落盤等の心配は無いのですが・・」

  「モンスターがいたら、危ないでしょ?」

  ユウイチは二人の発言にうなずいた。

  「わかった。二人ともそのことは俺達に任せてくれ」

  「ありがとうございます」

  丁寧に頭を下げるミシオ。
  
  「なんていうか・・やっぱりミシオっておばさんくさいな」

  「物腰が丁寧だとおっしゃってください」

  間髪いれずに反論するミシオ。

  マコトがこそこそとユウイチを連れ耳打ちをする。

  「だめよう。ミシオにそれは禁句だよ?
   マコトもそう思うけど・・」

  「だろ?別に悪いこととは言わないがな・・。
   確かに丁寧なのはいいことだし」

  「でも、ミシオって趣味もおばさんだよ?
   あんまり派手な服は着ないし・・」

  「実生活までおばさんかよ・・」

  そんな話をしていると、マコトの後ろに般若が立っていた。

  「マ・コ・ト?」

  「あうっ!?」

  がしっとつかまれたマコト。

  「さあ・・行きましょうか?」

  にっこりと笑うミシオ。

  目が笑ってない。俺には見える。

  ミシオの目の中に怒りの炎が・・・・!!

  「あう〜ユウイチ〜」
  
  マコトが服の首元をつかまれ引きずられる。

  マコトがユウイチに助けてと目でサインを送る。  

  「お、おい・・ミシオ」

  あんまりやりすぎるなよと言おうとしたが

  「何か?」

  「なんでもないです!お気をつけて!」

  俺は、何故か敬礼していた。
 
  許せ、マコト。

  「あう〜〜〜〜〜〜〜〜」

  ツインテールの少女の悲しい悲鳴だけが事務所に残った。










  「それじゃ、遺跡へと向かうか」

  先ほどの事は無かったことにしよう。
 
  念のため、道具を準備して俺達は遺跡へと向かう。

  「あはは〜遺跡探検ですね〜」

  勘違いしている人が約一名。

  「・・遠足」

  失礼、二名だった。

  「リオラハ遺跡ってどんな遺跡なんだ?ナユキ」

  一連の後、ようやく目を覚ましたナユキに俺は尋ねる。

  「えっと・・最近発掘された遺跡で、発見物から
   次元神のオネの遺跡だって言われているよ」

  オネか・・・・・。

  カズヤが続けて話してくれる。

  「後は・・その遺跡を立てた人はコウヘイという人なんですが、
   その遺跡を立てた後、失踪してるんです」  

  「あの遺跡の立ったと思われる年数は?」

  ユウイチはカズヤに尋ねる。

  「200年前です。あの遺跡は割と新しいんですよ。
   で、その後1年で帰ってきたんです。その遺跡の中から」

  「最初から遺跡の中にいたんじゃないのか?」

  「歴史上のことですから本当のところは分かりませんが・・。
   その後、彼は「オネは戯れに人で遊ぶ」と言ったそうです」

  「オネのイタズラ好きのルーツはまさか?」

  「ええ、彼の言葉です。何しろ、彼が遺跡の中から消え、
    封印が施され誰も入れなかった遺跡の
    中から出てきたんですから」

  その言葉にはびっくりした。

  「さすがにそれじゃ信じないわけにも行かないか・・」

  カズヤはさらに
 
  「ええ、それに一年経っているはずなのに、年こそ取っているものの
   服や持ち物が、風化していなかったんです。疑うには
   要素がそろわなかったんでしょうね」

  「で、そいつはどうなったんだ?」

  「その後も建築家として名をはせてますよ。彼を待ちつづけた女性
   ミズカと結婚もしてます。「永遠の建築家」と言う別名もあります。
   彼の人生をモチーフにしたラブロマンスの小説「one」はあまりに有名ですよ」

  俺は、疑問に思ったことを口にした。

  「それにしてもずいぶんと詳しいな、カズヤ」

  「歴史は好きなんですよ」

  カズヤは少し照れながら答えた。

  そうこうするうちに遺跡が見えてきた。

  「あ、ユウイチ見えてきたよ〜」

  ナユキが嬉しそうに振り返る。
 
  ピクニックじゃないぞ。

  「永遠の建築家・・・それに次元神オネ・・・」

  何となくただじゃすまなそうな雰囲気のする遺跡だ。

  ユウイチは眼前に広がる遺跡を見ながらそう思った。



                                    続く

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