ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 45  永遠と希望





    
    俺たちは要塞の一番奥の間に到達した。

  地中に埋まっていたためかなりの遠回りをさせられたが、

  おそらくここが最後の部屋だろう。

  重厚な扉をジュンと共に開ける。

  そしてゆっくりと俺たちは中へと踏み込んだ。


















  中は教会のような作りだった。

  高い天井にステンドグラスの窓。差し込む夕日が神秘的な雰囲気をかもし出している。

  しかしそんな考えも目の前の光景にはあまり似つかわしくなかった。

  「サイトウ!?」

  血まみれで槍を握り締めたまま倒れているサイトウ。

  そして魔法陣の書かれた床に寝かされているナユキを俺は見つけた。

  「ナユキ!」
 
  俺は側に駆け寄った。
 
  ジュンがサイトウの方に走っていくのを横目に見ながら。

  俺はナユキの脈を探る。

  ……弱いがまだ息はある……!

  マイは俺達の前に立ちあたりをうかがっている。

  俺はジュンの方を見た。

  「まだ息はあるが……」

  そう言ってかぶりを振る。

  もう……助からないのか……。

  「ようこそ、カノンの諸君」

  そして良く響くこの空間に先ほど聞いた声が響く。

  「……フォルンケス!」

  俺はナユキを寝かせ剣を抜いて怒鳴る。

  「くくく……そうがなるなよ。今ここにいるのは人でありながら
   人ではない希少にて高貴なる存在だぞ」

  フォルンケスは芝居がかった口調でそう言った。

  「何が高貴な存在だ……反吐が出るぜ!」

  ジュンが怒鳴る。俺も同じ気分だ。

  「長かった……一族に伝わる知識を元に魔王の封印をまわって
   10年……。ようやく私は魔の力を手中に収めたのだ」

  「何?」

  フォルンケスはにやりと笑うと語り始めた。

  「この国は世界に点在する魔王の封印なのだよ。国という形のな。
   何故この国があんな規則正しい形を作っているか疑問に思わなかったか?」

  確かにこの国は綺麗な六角形を中心に統制の取れた街づくりだった。

  奇妙といえばそうかもしれないが……。

  「もっともそのこと事態が抹消されてはいるから誰も知りえないがな。
   ……私の一族を除いてな」

  「お前の一族だと?」

  俺は訊ねた。

  「魔王の脅威にさらされていた時代から、封印のことは少しずつ世間から抹消されていった。
   しかし、我が一族はそれを秘密裏に受け継いできたのだ。……その目的は知らぬが
   私はその知識を持って魔王の力を利用することを考えたのだ」

  浅ましい。こうも卑しく考えることができるのか。

  俺は憤慨した。

  「しかし、いくつかの封印をまわったが使えるものはなかった。
   一度は封印を守っていた村が一つ消えたこともあったな」
 
  俺はその言葉を聞き逃さなかった。

  守っていた村……消滅。

  「だから優秀な魔力を媒体に、魔王の魔力のみを封印から解き放つことにした。
   幸いにもこの国には古代魔法を制御できるほどの存在がいた。
   天すらも私は味方につけたのだ!」

  心の奥底から湧き上がってくる怒り。

  「まあその娘は魔力を急激に、しかも大量にはがされたことで
   死に掛けているがな。戻ってこれるかはその娘次第だろう」

  フォルンケスの言葉が遠い。

  貴様が……全てを。

  「おしゃべりは終わりだ! 私の力試しをさせてもらおうか!」

  フォルンケスがマントを翻す。

  だが俺はそんなことは聞いていない。

  「貴様が全てを奪ったのか!!」

  怒りも、任せ剣を抜いて突撃する。

  だがその剣も軽々と受け止められる。

  「ふん……このような剣など」

  「父さん、母さん、村の皆、故郷、そしてナユキ」

  目の前が真っ赤に染まる。

  俺を突き動かすのは怒り。

  「全てを……お前が奪うのか!」

  「ほう? あの時の村の生き残りか?
   私のような人間の礎となったのだ。光栄だろう?」

  バン!

  軽い衝撃で俺は壁まで吹き飛ばされる。

  痛みはない。こんなものよりも…!

  「殺す! 貴様だけは許せねえ!」

  怒りが憎しみに変わる。

  ジュンもマイもただ黙って立っていた。

  そして俺が飛び出そうとした瞬間。

  「エターナルよ! 狭間の扉を開け!」

  サイトウが起き上がりエターナルをかかげた。

  フォルンケスは黒い何かに引きずり込まれようとしている。

  「くっ……この死にぞこないが!」

  言葉とは裏腹にあの塊は相当の力がこもっているらしい。

  俺は我にかえりサイトウの元へと走った。

  「サイトウ……」
 
  「だから言ったんだよ……大切な物を失っても…って」
 
  俺は先ほどの自分を思い出していた。
 
  全てが憎いと……そう思った自分。

  「憎くなるのは当然だ。…だがそれに身を任せるにはお前はまだ足りない」

  サイトウが息も絶え絶えに言葉をつなぐ。

  「お前は…まだ全て…を失っていない。譲ちゃんも生きてる。
   仲間も…いる。まだ……終わっていない」

  俺は黙ってその言葉を聞いていた。

  まだ……終わりじゃない。

  「俺は…自分の運命があらかじめ決まっていると思っていた。
   エターナルの話を聞いてから……」

  ごふっと口から血を吐く。

  「サイトウ!」

  「怒鳴るなよ…最後までしゃべらせろ。永遠を継ぐ一族……俺はそのために
   生まれたといわれた。そして「ディザイア」を持つものを試し
   「エターナル」の力を渡すために生きる。それだけの存在だと」

  そんな過去が……。

  「ディザイアは自由に持ち主を選ぶのに、エターナルだけが何故決められた者が
   継がなければならない? 何故自由になれない? 俺は自分の人生を歩くため
   エターナルを継いだ後、里を逃亡した」

  いつのまにかサイトウの言葉ははっきりと語られている。

  奴なりの強がりだろうか……。

  「だが俺はお前に出会った。そして甘っちょろい考え方にいらいらした。
   何より自分の人生があらかじめ決まっているのかと、そのことに一番いらいらした。
   だから俺は……お前を否定することで運命をねじ伏せたかったのかもしれない」

  そしてエターナルを握り締める。

  「だが今ならわかるよ。運命なんて決まった道筋はない。これは俺が信じた生き方の結果だ。
   だから俺は今一度、永遠の守護者としてお前に問う!」

  サイトウがその目に最後の命の輝きを宿して発した言葉に、

  「お前が望むのは全てを超越する力か? それとも希望と共に奇跡を掴める力か!」

  俺は今の正直な気持ちを答えた。

  命がけで教えてくれたサイトウに敬意を込めて。

  そしてあの日の誓いを思い出して。


















  「俺は奇跡を掴める力を望む!」




















  瞬間ディザイアとエターナルが持ち主の手から離れる。

  そして二つが融合していく。

  光が止んだとき、そこには翼を模した鍔に白く輝く刀身。

  そして黒いラインの入った剣が突き刺さっていた。

  「聖剣ディザイナル。「奇跡の英雄」が振るう「永遠なる希望」。
   受け取れユウイチ。それはもうお前の物だ」

  サイトウの言葉に俺はその剣をつかんだ。

  不思議な感触が俺を包む。

  「ふう……」

  サイトウが深く息をつく。

  「これで……俺の意地は果たした……。せいぜい生き抜いて見せろ。
   地獄から……見ていてやるからよ」

  そして徐々にその体から力が抜けていくサイトウ。

  「今……行くよ。……そっちにな」

  かすかに笑顔を残しサイトウは力尽きた。

  皮肉にもこんな時になってはじめて見た。

  彼の微笑を……。

  やがてその力を破ったのかフォルンケスが力を取り戻した。

  「くっ……愚物が…傲慢な考え方で怠惰に時を過ごしただけの存在が!」

  俺が、ジュンが、マイがその言葉に素早く反応して動く。

  「てめえにサイトウを侮辱する権利はねえ!」

  ジュンの拳が唸る。

  だがフォルンケスは意にも介さない。

  しかし、マイがその影から飛び出して頭上を狙う。

  それをあっさりと避けるフォルンケス。

  「はっ! ゴミはゴミ同士仲良くあの世に送ってやろう!」

  そう言って手に魔力を集めた時、

  ヒュン!

  目に見えぬほどの剣閃が奴をかすめた。

  顔から血が流れている。

  「何?」

  先ほどは全くダメージがなかったので動揺しているらしい。

  「サイトウが命をかけてつないだ希望だ」

  俺が聖剣を構え言い放つ。

  「絶対に俺は奇跡を掴む!」

  戦友より託された剣を手に高々と宣言する。

  最後の戦いが今始まる。


                                   続く

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