ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 7  持つ力の重みは





     
    「古代魔法・・・・・」

  ユウイチは、その言葉の意味を理解するのにしばし時間を要した。



  それは、現在はすでに解読のみが可能となった、古代文字「ルーン」。

  それぞれの文字に、「意味」を持ち、言語としてよりは、

  魔法陣を書くときなど、呪法的な意味合いに用いられてきた。



  しかし、制御するのに特殊な才能や、人間の中にはめったに現れぬほどの
  
  膨大な魔力を必要とするのと、

  現在、使用されている形態の魔法の発達に伴い、徐々に失われ、

  消えていったのである。






  すでに失われてから久しい強大な力。

  それは、その場にいたものに少なからず衝撃を与えた。




  「ナユキは生まれた時から、すでに魔力の塊と呼べるほどの魔力を体内に
   宿していました。しかし、それ自体は別に珍しいことではありません」

  実際、そんな状態で生まれる子供もいる。

  その後、魔力はそのままに器が成長するので

  じきに他の人との違いはそれほどでもなくなっていく。

  「しかし、ナユキの魔力はいまだ成長段階にあるのです」

  「でも、別にそれ自体は不思議でもないでしょう?
   魔力の成長って確か、止まらないんじゃなかったんですか?」

  ユウイチは疑問に思ったことを尋ねた。

  だからこそ、老いてなお盛んと言うぐらいの老魔法使いがいたりするのだ。

  「ええ、しかしいまだ成長を続けるその魔力の大きさが問題なのです」

  アキコさんはゆっくりと言葉をつなぐ。

  「・・・・ナユキの現在の魔力を、ある事柄に例えると
   破壊ならばこの国一つ。創造ならば居住区を一日で立てることも可能でしょう」

  「な、なんだって!?」
 
  ジュンは大声を上げた。

  「ゆえに、ナユキは自身の力を使わないよう心がけてきました」

  確かに、うかつなことではそんな力は使えない。

  「でも、どうしてそれなのに僕たちを助けに・・・」

  カズヤが口を開く。

  「・・・嫌だったから」

  それまで黙っていたナユキが話し始めた。

  「皆を・・だまして友達だっていうのが嫌だったの。
   私・・・こんな力があるけど・・それでも・・
   友達でいてくれる?って・・聞きたくて」

  涙声になりながら、それでも

  「わ・・私・・皆を守りたかった・・。
   サユリさんも・・いつも笑顔で一緒に・・
   い・・いてくれたし、カズヤ君も・・
   あそ・・遊びに来てくれたし・・」

  ナユキは話しつづけた。
   
  「カオリはいっつも・・私の側に・・
   いてくれたし・・シオリちゃんも
   ・・・」
  
  それは、自分の正直な思いを語っていた。

  「だから・・だか・・ら」

  そんなナユキを、サユリはそっと抱きしめ、

  カオリはそっと手を握る。
  
  「大丈夫ですよ〜。ここにはそんなことで
   ナユキさんの友達をやめるような人はいませんから」
  
  さとすように、優しく語るサユリ。

  「今更、親友をやめるだなんていうわけ無いでしょ?
   大丈夫よ、ナユキ」  
  
  ずっと側で支え、そしてナユキに支えられたカオリが答える。
 
  「ねえ、みなさん?」

  サユリがその場にいる全員を見回す。

  「もちろんですよ」
 
  カズヤが答え

  「今更水臭いですよ〜」

  シオリも笑顔で

  「・・大丈夫。ナユキのこと、かなり嫌いじゃない」

  マイが少し不器用に

  「俺は、そんなことで人を判断しない。
   ナユキはいい奴だ。今俺がそう決めた」

  ジュンがやや的外れに、そして

  「俺たちは・・ここにいる皆は友達だ。
   そうだろう?」

  ユウイチが、温かい言葉でそれをまとめた。

  力が何だというのだ。

  それをいったら俺も・・・。

  ユウイチは最後の思いは口に出さず

  「アキコさん。心配しなくても大丈夫。  
   ここには、ちゃんとナユキの友達がいます」

  笑顔で、アキコに答えた。

  「ええ。そうですね、本当に・・ありがとうございます。
   みなさん」

  アキコは頭を下げる。
  
  ナユキはまだ泣いていたが、それは悲しみの涙ではない。
 
  新たな一歩を祝福してくれた、友達への歓喜の涙だった。
  














  「さて、今後のことだが」
 
  話が一段落し、ズアイフさんが全員に話しはじめる。

  「正式に、私がスポンサーを務めるということで、
   ユウイチ君たちの、この国での行動に制限は無くなった」

  「それは、騎士団のような存在になったということですか?」

  ジュンが尋ねたが、ズアイフさんが首を振り

  「違う、君達の考えを優先して動く、つまり
   権力などに左右されず、自分達が正しいと思うことをすればいい」

  一同は、ああと納得した表情を見せた。

  「その際、必要な協力は私がする。また、今日
   町で助けた自衛団の方からも、お礼の書状が届いているよ」

  ズアイフさんがそれを広げる。

  「本日の加勢、真に感謝する。
   貴君らの、迅速な行動によって
   死者を出さずにすんだ。

   重傷人も、何とか命を取り留めることが出来た。
  
   なお、我々自衛団は貴君らへの助力を惜しまぬ次第である。

   何分、力こそ及ばぬものの人海戦術だけならば、
   取れるだけの人員はいるので
   協力が必要とあらば喜んで助力いたします。

   それでは、貴君らへの感謝をこめて
   
                      自衛団団長および自衛団員一同」




  ズアイフさんは手紙をたたむと

  「だそうだ。君達の行動はこうして、戦う人々への勇気にもなっている」

  ユウイチ達は少し照れくさそうだった。

  「それに伴い、組織名を町に報告した。
   その名は、「奇跡の音色」ともよばれる・・」

  一呼吸おきその名が告げられる。














  「カノン・・・だ」









  「カノン・・・」

  俺たちはその名をしばしかみ締めていた。

  奇跡の音色・・・か。

  ずいぶん大層なことになったな。

  そんな風に考えていると、ズアイフさんが、次に構成の説明をはじめた。

  「メンバーは、ユウイチ君をリーダーに、
   その全体的な補佐にサユリ。実働部隊の
   主力には、ジュン君、カズヤ、それにマイ。
   そして、先程申し出があったようにナユキ君。
   医療関係のバックアップは、ミサカ姉妹の両親にもお願いしてある」


  「ここにいるメンバー全員がほとんどカノンの一員なんですね」

  ユウイチは、答えた。

  「君達だけに負担をかけるわけにいかぬし、それに・・」
  
  ズアイフさんは笑って

  「街を守りたいという思いを持つものを拒むわけには行くまい」

  ああ、そうか・・・。

  自発的に守ろうとする人々。そういう人たちが自衛団を作った。
  
  ズアイフさんはそういう気持ちを大事にしたいんだと。

  ユウイチはこの人の懐の広さに感心した。

  「さて、皆さん、今日はもう遅い。ここに泊まっていくといい。
   アキコさん。娘さんたちは先程迎えにいかせましたから」

  「あらあら、それじゃマコトとミシオさんも?」

  「ええ。あと今日のお礼をしたいとかで、喫茶店の親子もいらっしゃってますよ」

  今日の事件のあったあの喫茶店か・・・・・。

  こうもたやすく一般人を迎えるあたり、ズアイフさんの人柄が

  すばらしいんだなと実感する。

  




  しばらくして、



  ガチャとドアが開く。

  「あう〜お母さん〜!」

  ツインテールの可愛らしい少女がアキコさんに飛び込んだ。

  「あらあら、マコトったら・・・」

  よしよしと頭をなでるアキコさん。

  「ごめんなさいねミシオさん。マコト迷惑をかけてなかったかしら?」
  
  「いいえ、マコトのおかげでずいぶん助かりましたから」

  どことなく仕草がアキコさんに近い少女が答える。

  「あ、そうそう。マコト、皆さんに自己紹介なさい。
   知らない人も来てるでしょ?」

  マコトは、アキコさんから離れ周りを見回した。

  確かに、あの二人の男の人は知らない。

  「あ、あう・・えっと・」
  
  先程のおっとりした少女が、

  「ほら、ちゃんとあいさつなさいマコト。」

  「あう、えっと・・・マコトっていうの。初めまして・・」

  あう〜といいながら頭を下げ、少女の後ろに隠れ

  顔だけ出してこちらを見ている。


  人見知りをするタイプなのか・・。

  「俺は、ジュンだ。よろしくなマコト」

  「ユウイチだ。よろしく」

  二人は、マコトに軽く挨拶をし

  「それで君は?」
  
  少女に尋ねた。

  「ユウイチさんにジュンさんですね。
   申し送れました。私、ミシオと申します。以後お見知りおきを」

  深々と頭を下げる。

  「よろしく。でも普段どおりに接してくれないか?
   そんなに堅苦しいこと無いからさ」

  ミシオは、少し首をかしげて

  「これが、私の普段どおりですが・・何か?」

  そうなの?といった視線をアキコさんに向けるが

  「ええ。ミシオさんはいつも丁寧ですよ」

  丁寧というか・・・・。

  少しおばさんくさいかな?

  「そんな酷なことは無いでしょう」

  「・・・・口に出してたか?」

  ユウイチは恐る恐る聞いてみたが
  
  「ええ、それはもうはっきりと」

  少し、怒りを含んだ口調で答えは返ってきた。

  「ぐあっ・・・・」

  ユウイチが苦悩してしゃがみ込む。

  「まあ、悪気があったわけではないようなので勘弁して差し上げます」

  ミシオが微笑みながらそう言った。

  へえ、優しい笑顔をするんだな。
 
  面倒見がいいからか?

  「・・・・(赤)」

  と、ミシオが赤くなる。

  何故?

  「また口に出てるわよ・・ユウイチ君」

  「ぐはぁっ!」

  「う〜」

  「えぅ〜」

  「あはは〜」     

  そしてそんな様子に無言のプレッシャーを放つ三人。

  そんな時、別のドアが開き

  カチューシャをつけた少女が、ワゴンと共に
  
  料理を運んでくる。

  「おお!」
 
  ジュンがそれを見るなり感嘆の声を上げる。

  しかし、緊張していたのだろう。突然の大声にびっくりした

  少女は、

  「うぐぅ!?」

  ワゴンを、そばにあったいすに引っ掛けた。

  当然、慣性に従い皿はワゴンから落ちる・・はずだった。
 
  しかし、そのまま少女がひっくり返り、

  ワゴンの向きが変わり、のっていた料理はすべて

  テーブルの上に綺麗に並んだ。




  

  「・・・・・・・」


  その光景にしばし、固まる一同。


  「うぐぅ・・・」

  こけた少女をほって置いて。

                                    続く

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