ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 38 運命の分岐点
要塞が出現した翌日。
早くも町から去る人々もいた。
しかし、もともと人の住まない土地にはモンスターがあふれている為
旅慣れてない人がろくに生きられるはずは無かった。
逃げ出してもいい、という発言はこのことからだった。
現在、ファグナス城内会議室に貴族達全員が、
そしてカノンメンバーの招集が行われ、前代未聞の会議が行われていた。
「陛下!いったいどうなさるおつもりですか!?」
貴族の一人が声を荒げて怒鳴る。
落ち着きの無い・・。
俺はそう思った。
フォルンケスに従い裏切った四人の貴族はかなりの力を持った貴族だった。
ズアイフさんを除けば権力的にも財政的にも立ち向かえる貴族はここにはいなかった。
圧倒的戦力差・・・。そして敗北の意味するところ。
それらが他の貴族から余裕を奪っているのは事実だった。
「私は引く気はない。どの道このままでは彼奴の思う壺だ。
何とか突破口を開かねばならない」
「しかし・・このままで勝ち目があるとお思いか!?」
ガルヴァ王は黙っていたがやがて口を開いた。
「勝ち目の無い戦いではない。とはいえ戦うかを決めるのは諸君だ。
各々で答えて欲しい。私には表立って戦うことは出来ぬ。
ゆえに善戦に赴く物立ちの支援しか出来ぬ」
悔しそうに歯を噛みしめる。
ガルヴァ王はそれでも言葉を続ける。
「それでも私と共に戦う者は申し出てくれ。なおこれは強制ではない。
幸い、安全な海路を用意した。町の者の大半は残ると申し出たので
一部の者達とともにそれを使って脱出するとよい」
つまり安全な脱出路は用意されている。
それでも戦うか?逃げるか?
ある意味分岐点だ。
誰も責めはしない。ただ自分の答えがどうであるか。
とりあえず俺は立ち上がった。
「俺は今からこの街を出る気はありません」
「ユウイチと同じです」
俺とジュンは迷い無く答えた。
「サユリたちももちろんユウイチさんたちを助けます」
「・・私も」
「私もお手伝いするよ〜」
「及ばずながら僕も力を貸します」
カノンメンバーは戦うことを申し出た。
「もちろん私もだ。このまま黙ってこの国をくれてやるほど
私はお人よしではないのでな」
ズアイフさんも立ち上がる。
ガルヴァ王は微笑を浮かべながら
「ありがとう、諸君」
そうお礼を述べた。
その後、ズアイフさんを慕う貴族の人たちが進んで協力を申し出た。
今答えを出していないのは四人の貴族だ。
その中にはクゼの顔もあった。
「諸君らは・・どうする?」
やがて最初に怒鳴り声を上げた貴族がこう答えた。
「そもそも・・あの時の襲撃事件の時だって我らは被害者だったではないか!」
襲撃事件?
いきなり何を言うんだ?
「これ以上まだ我らに何かを犠牲にしろと!?もうたくさんだ!
私は付き合うつもりは無い!悪いが私は脱出させてもらうよ」
言いたい事だけ言うとマイの方を見て
「ふん・・親と一緒だな。偽善者め!あの時、騎士の本分を放り出した
貴様の両親のことは忘れぬわ!おかげで家の被害はひどかったんだ!!」
マイはその言葉に顔をしかめる。
俺はかっとなって拳を振り上げた。
ジュンも一緒だったらしい。
バキッ!!
だが、彼を殴り飛ばしたのは別の人物だった。
「言いたいことはそれだけですか」
クゼだった。
「僕も以前彼女の両親のことをひどく侮辱したものでね・・。
あなたの言うことを聞いて自分がどれだけ醜いことをしたのか
理解できましたよ」
反面教師というやつか。
クゼは穏やかなそれでいてひどく怒りに満ちた表情でこう言った。
「僕にあなたを非難する権利は無い。確かに騎士の本分は
【国のために剣を振る】です。ですが・・・」
一息ついてクゼは、
「この国を、そしてあなたの生活を支えている民衆も国の一部なら
カワスミ殿の取った行動は間違いではないのでは・・?
僕は最近こう思えるようになりましたよ・・」
貴族は鼻血をふき取るとクゼを睨みつけ
「ふん・・。エリート気取りの坊ちゃんが何をえらそうに・・。
好きにすればいい。どうせ皆死ぬんだ!」
バタンと乱暴にドアを閉め彼は出て行った。
「随分意外な台詞だったな、クゼ」
「誤解しないでくれ、僕は僕なりの信条に反するから
取った行動だ」
ふんとまたそっぽを向く。
結局残りの二人も会議室を出た。
一言も口を開くことなく。
城門前・・・。
「だ〜か〜ら〜ユウイチは中にいるんでしょ?
ちょっと話があるだけだからさ〜」
ルミが門番を相手に押し問答していた。
「申し訳ありませんがただいま会議中ですので・・」
「融通が利かないわね〜。あたしのことは知ってるでしょう?」
「ですが規則ですから・・・」
彼女の後ろから一人の男と女が来る。
「ユウイチ・・彼の知り合いか。おいお前」
男の声に門番は反応する。
そして突然気をつけの姿勢をとってかしこまる。
「あ・・貴方様は・・」
「彼女も連れて行く。いいな?」
「は・・はい」
その男はルミに
「ついてこいよ、用事があるんだろ?」
「え・・ええ。どうも」
「どう考えても戦力的に無理だな・・」
俺は頭を抱えた。
要塞は北門の周辺に砦に囲まれて立っている。
城を中心に六角形の形をしたこの国に地理的には
どうしても二面作戦を取る必要がある。
つまり9時の方向から12時に向かい攻める部隊と
3時の方向から12時に向かい攻める部隊の二つがどうしても必要だ。
ちなみに住民および商店街はすでに南門周辺への移動が昨日のうちに完了している。
こちらの実質的防衛ラインは城門から中央広場にかけてということになる。
「対人間戦なら戦力的には十分だが向こうにはモンスターがいる」
ジュンが発言する。
「純粋に戦力として見れるのは・・」
ズアイフさんがそういいだすとクゼが答えた。
「以前の襲撃事件の際に生き残った部隊を中心に編成します。
雑魚ならば何とかなるでしょう」
後は大物を相手にする場合か・・。
「どのみち俺たちの誰かが要塞に潜入できなきゃ戦いは終わらないんだよな・・」
俺はつぶやいた。
「もう少し・・・僕たちと同等の力を持つような人がいれば・・」
カズヤがそう言ったときドアが開いた。
「だったら俺たちが協力しよう」
銀髪の目つきの悪い青年と髪の長いどこかぽーっとした少女が立っていた。
後ろにいる青髪のツインテールは・・。
「ルミ!?」
「やっほーユウイチ。随分悩んでるわね」
大き目の大剣を背負った剣士は間違いなくルミだった。
「ユキト・・もう来たのですか?」
アカネが突然声を上げた。
「ああ急ぎで来た。準備の方もばっちりだ」
どうやら二人は顔見知りらしい。
「ユキト王子・・どうして今ここに?」
王子!?
ガルヴァ王、今王子って言わなかったか?
「友好国のピンチを放っておくほど冷血漢じゃないですよ。
それにアカネの声が真に迫ってましたから」
「・・・・(赤)」
話が見えない。
「すまない、自己紹介が遅れたな。俺はユキト―リュウ―クニサキ。
隣国レイジスの第一王子だ。かたっくるしい肩書きだがヨロシクな」
「・・魔道将軍のミナギ―トオノです。符術魔法を得意としています」
そう言って二人は頭を下げる。
「ちなみにアカネとは婚約者同士の間柄だ。誤解するなよ?
別に政略結婚じゃないからな。俺が16歳の時に14歳のアカネにアタックしてから
3年。ようやくここまでこじつけたんだ」
「まあ私が最後まで難色を示したからなあ・・」
はははとガルヴァ王は笑った。
この人も意外と親ばかか・・。
娘を持つ父親ってのは皆こうなのか?
とりあえず俺たちも順に自己紹介をした。
「・・よし覚えたぜ。後、敬語はよしてくれ。
ユキト王子様なんてがらじゃないからな」
バリバリと頭を掻く。
謙遜というよりは本心らしいな。
「わかった。そうするよユキト」
「ああ、それで詳しい話は聞いてるが一応現段階の作戦を確認させてくれ」
俺はユキトに地図を広げ現在のプランを簡潔に話した。
「レイジスの精鋭部隊が2日後ここに到着する。
対人用の戦力はそれで足りるはずだ。
後は大物を相手にするための人員の配置か。
まずは防衛ラインにルミ、ミナギ。西方面に
俺とアカネがつく。東方面に、カズヤ、サユリがつけ。
突撃部隊がユウイチ、ジュン、ナユキ、マイだ」
適材適所だ。魔道士と戦士が上手い具合に配置されている。
だが・・
「ユキトお前の技能はなんなんだ?」
「俺か?俺は魔法剣士だ。魔法と剣技を同時に使いこなす」
珍しいな・・だが立ち居振舞いを見る限り、
中途半端な剣を使っているわけじゃなさそうだ。
「奴は調子こいて2週間なんて時間をくれたんだ。
せいぜい利用させてもらうさ」
それでは今後の準備のため俺たちはそこで解散した。
夜・・城内テラス。
「ユキト・・」
「ん?アカネか?」
ユキトは風に当たっていた。
「ごめんなさい、無理を言って」
「気にするな。むしろ頼ってくれて嬉しいぜ」
そう言ってユキトはそっとアカネの肩を抱き寄せる。
「違います。本当は・・これを口実にして貴方に会いたかっただけなのかもしれない」
「・・・」
ユキトは黙って聞いている。
「一年は・・待つには長すぎます」
「そうだな」
「貴方は・・どこか風のような人だから」
見上げるアカネの目は涙で潤んでいた。
「側に・・いないと不安で」
ユキトは真っ直ぐアカネを見つめそして抱きしめる。
「例え今は側にいられずとも心はすぐそこにある」
あやすようにユキトは優しくささやく。
「お前が・・例え俺に会いたいための口実に使ったとしても
俺はかまわん。お前の中にこの国を守りたいという思いが無いわけじゃないんだから。
お前は・・背負いすぎなんだよ。自分の気持ちを優先したっていいだろう・・」
「ユキトが・・放り出しすぎるんです」
「そうかもな」
「それにな・・」
「?」
ユキトはアカネを見つめて
「お前の頼みを断れるか。またあのクソ甘いワッフルを食わされるのはごめんだ」
「あれはユキトが約束を破ったからです」
「お前はおいしいから食べてみろといったんじゃないか」
「おいしいです」
「俺には甘すぎるんだよ・・・」
「わかってます。でないと罰になりませんから」
くすくすとアカネは笑った。
「やっぱりお前は笑った顔のほうがいい」
「そうですか・・・?」
「ああ」
ユキトはアカネの三つ編みをいじりながらそう言った。
「・・嫌です。ユキト、髪をいじらないでください」
「留学中もそう言ってたな」
しばらく二人はのんびりと逢瀬を楽しんでいるのだった。
俺はクラタ家の一室に戻っていた。
窓から外を眺める。
ちょうど要塞が目の前にある。
といってもかなりの距離はあるが。
フォルンケス・・お前の野望は必ず俺たちが打ち砕いてみせる。
たった一人の傲慢なまでの意思と・・
この国が一丸となって生まれる団結力・・
それがおのずと答えを出してくれるだろう・・。
この国が・・どうあるべきなのかを・・な。
続く
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