ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 3 二人の剣の違い
俺とクゼは、表の庭園に出た。
ここなら構わないと、ズアイフさんがいってくれたからだ。
「断っておくが、クゼ君。この件に関しては何が起ころうと不問とするよ。
君が負けた後、騎士権力による彼の拘束は一切認めない」
厳しい口調で、ズアイフは言い切る。
クゼはそんなことは気にせず
「いいでしょう。しかし、一介の旅人に僕が倒せますかね?」
自身ありげに言ってのける。
「御託はいい。かかって来い」
ユウイチはすらりとディザイアを抜く。
周りには、マイにサユリ。カズヤやジュンも騒ぎを聞きつけやってきていた。
ちなみに使用人の人々も。
「ふっ・・強がりも今のうちだけだ!」
クゼは腰から、やや大きめの騎士剣を抜く。
両手で構えるタイプの大剣と称される剣だ。
騎士剣にはこのタイプが多い。
「はあああああ!!」
クゼは肩に担ぐように、剣を振り上げユウイチに向かい突進する。
「せぇっ!」
ガアン!!
クゼが振り下ろした剣は、虚しく地面を打つ。
ユウイチは、軽く横移動しただけだ。
「ちぃっ!」
そこから、横薙ぎに剣を払う。
ユウイチはバックステップでそれをかわす。
断っておくがクゼの剣は、決して弱くは無い。
しかし、型にはまった剣を、忠実に繰り出すだけの剣は
数多の剣を見てきたユウイチにとっては次の一手を予想してくださいと
言っているようなものだった。
ひとつの型を突出して極めたわけではない彼の剣は、
ユウイチの前ではかすりもしなかった。
やがて、攻撃に疲れたのか間合いを取って息をつくクゼ。
「はあ・・はあ・・」
だいぶ息が上がっている。
無謀に攻めるだけだったのだから
当然といえば当然だが。
「終わりか・・?それじゃ次はこっちの番だな」
クゼが、彼に目をやった瞬間。
ユウイチはそこにいなかった。
ガキィン!!
「ぐはっ!?」
真正面からユウイチの剣撃を受け、宙に浮くクゼ。
ユウイチは懐から、切り上げで彼を浮き上げたのだ。
そして、落ちてくる彼の勢いに対し、
「リノーバス流・・・」
飛び上がる!
「双墜斬!!」
交差法による切り上げで相手を再び空にやや上げた後、
振りおろしで、地面へと落とす。
「うわあああ!?」
ズドオン!
派手な音を立て、クゼは地面に突っ伏した。
ズガン!
倒れたクゼの目の前にユウイチの剣がつきたてられる。
「もし、体に刺していればお前は死んでいる」
クゼは答えられなかった。
「お前の負けだ」
その瞬間後ろから歓喜があがる。
「すごいわ!見た!?今の技」
「すばらしい・・この国でもあれほどの使い手はいないぞ・・」
「ユウイチ様・・素敵・」
「ぐ・・・」
クゼはよろよろと立ち上がると
「貴様・・・。ユウイチだったな・・。
覚えていろ・・この僕に恥をかかせたこと
必ず後悔させてやる・・・」
クゼは後ろを振り返り、去っていく。
「やれるものなら・・・やってみな」
その言葉にキッと振り返るが、
何も言わずそのまま去っていった。
「マイ、サユリさん、大丈夫か?」
俺は、二人の下に駆け寄る。
「あはは〜大丈夫ですよ」
「・・平気」
「そうか・・」
二人の様子を見てユウイチは安心した。
「ところで、さっきのあいつはなんなんだ?」
なんとなく不満げなジュン。
さてはあいつも暴れたかったな。
「それについては私が説明しよう」
ズアイフさんが丁寧に話してくれる。
「彼は、クラタ家に次ぐ名家「クゼ」の長男でな・・。
貴族のお茶会でサユリを見てから、求婚を申し込んできているんだよ」
ずいぶんと、行動が短絡だとユウイチは思った。
「彼は、名ばかりで役職につくこの国では珍しい実力もあるタイプなんだが
あのように、格下の者に対する見方も偏見的でな。
彼のもとにいる騎士団は全て、家柄で生まれたものなんだよ」
それでは、町の人たちを守るどころじゃないな・・。
ユウイチは先程の騒ぎを思い浮かべていた。
「絵に描いたような最低な奴だったな」
ジュンがぽつりと漏らすと
「そう思いますよね?ジュンさん」
カズヤもそう思うらしい。
そんな話をしていると
「・・・・ユウイチ」
「ん?なんだ、マイ?」
厳しい顔をしながら、
「・・さっきの話は忘れて欲しい・・。」
「わかった。今は何も聞かないよ。話したくなったら話してくれ」
ユウイチはそっとマイの肩をたたいてやる。
「・・ありがとう。いずれ・・機会があれば」
マイはやっと笑顔を見せてくれた。
夕食を終え、一人、部屋でユウイチは物思いにふけっていた。
「やれやれ・・とんでもない国だな」
今までも、暴君の治める国を見てきたが、
この国はそんな言葉で片付けるには内容が複雑だ。
とはいえこの国の内情がわからないから表面上のことだけだが。
コンコン
ノックの音がする。
「はい?」
「俺だ。入っていいか?」
「ああ」
ガチャとドアが開いて、
入ってきたのは、ジュンだけでなくカズヤも一緒だった。
「カズヤ?どうした」
「ええ、少しお二人に話がしたいと・・」
カズヤは、俺達に向き合いながら話す。
「姉さんも・・マイ姉さんも・・そしてこの家も・・」
「僕は守りたい」
カズヤの目は真剣だった。
「こんなことは勝手だと思いますが・・。僕もお二人の手伝いをさせてください!」
「それは・・俺達と一緒に何でも屋をやるってことか?」
ジュンが確認するように尋ねる。
「はい!父には了解を得ました。クラタ家の力ではなく、
生まれてから、そして学んだ「僕」の力で僕は・・守りたい」
「・・・・カズヤ」
ユウイチが口を開く。
「はい・・・」
「覚悟は出来てるんだな?」
「はい・・この命をかける覚悟も」
「違う」
「え?」
ユウイチはすっくと立ち上がる。
「必ず生きる覚悟だ。死ぬのが怖くない奴は・・けして生き残れない。
大切なもののために・・・命を張っても・・必ず帰る。
俺が言ってるのはそういう覚悟だ」
「あ・・」
カズヤがぼうっとつぶやく。
「だいたい、お前が死んだりしてみろ?サユリさんたちになんていえばいいんだ?
俺達はさ」
ジュンがおどけて言う。
だが、いいたいことは伝わったろう。
「はい!わかりました。僕は、必ず死んだりしません」
「ま、まだまだ未熟だからな。たっぷり鍛えてやるさ。なあジュン?」
「そうだな。見所はあるしな」
そういって三人で笑っていると、
「あはは〜それじゃあ明日からはみんなで街へと行きますか〜」
ガタ!ゴン!ガッタン!
ユウイチが立ち上がり、カズヤがこけて、ジュンはいすごと後ろにひっくり返った。
「ふえ?どうしたんですか?」
サユリは、不思議そうな顔をしている。
「ね、姉さん!いったいいつから・・それに一緒に街って・・」
カズヤが何とかそれだけを口にする。
「サユリもお父様に許可をもらいましたよ?」
「いや・・そうじゃなくて」
ユウイチはカズヤのいいたいことが伝わってないといいたかったが
「あはは〜サユリはこう見えても、精霊魔法に長けているんです。
心配は要りませんよ〜」
ユウイチはあきらめたように、カズヤに振り向き
「カズヤ・・・・」
「はい・・」
「止められるか?」
「絶対に無理です」
「あはは〜これから皆で町の人たちのために頑張りましょうね〜」
三人の心配をよそに、サユリはご機嫌だった。
「「「はあ・・・・・・」」」
三人のため息が重なる。
これからが波乱の幕開けだ。
続く
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