ブレイブハート 〜奇跡は心〜   NEXT TRAVEL   そして旅は続く





    「え?」

  サユリさんは突然のことに驚いたようだった。

  「今何ていったんですか?」

  俺はもう一度、告げた。

  「明日にはこの国を発つよ」

  あの戦いからすでに2ヶ月が経過していた。


















  すでに国は以前の姿を取り戻していた。

  いや以前よりもよくなったというべきか。

  騎士団の横暴がなくなり、自衛団は統括部隊として騎士団直属の部隊となった。
 
  まだ、度々モンスターの襲撃こそあったが彼らの団結力で

  幾度となく撃退された。

  この事態を見てズアイフさんはカノンを解体した。

  それに伴ってのことだった。








  「すでに町の人たちには知らせたよ。アユたちは明日見送りに来るそうだ」

  俺はそう答えた。

  「もともと旅の途中だったからな。ズアイフさんからたくさんの資金援助も
   もらったしな」
  
  ジュンが後にそう続ける。

  「そうですか……さびしいけど仕方ないですね」

  カズヤは本当に残念そうにそう答えた。

  「おいおい、別にこれで最後ってわけじゃない。
   またいつかこの国には来るさ」

  しんみりとした空気を払おうとジュンがおどける。

  「…ユウイチ達には世話になった」

  マイはぺこりと頭を下げた。

  「お互いさまだよ、マイ」

  俺はやんわりと笑った。

  ただ終始サユリさんだけが黙ったままだった。

















  「失礼します」

  俺とジュンはズアイフさんの私室に来た。

  最後の挨拶のためだ。

  「二人とも明日発つそうだな?」

  「ええ、あまり長居も出来ませんし」

  俺は短く答えた。

  「私としてはかまわんが…君達に気持ちが一番大事だ。
   ならばせめて明日は笑顔で見送らせてくれ」

  「ええ、ありがとうございます」

  何気なく俺たちはズアイフさんの視線を追った。

  あの戦いの後、絵描きに書かせた俺たちカノンのメンバーの集合した時の絵。

  動かないでいるのつらかったっけな。

  「いい笑顔だ。この絵のように君達と私たちの絆も変わらないだろうな」

  「そうですね。もう忘れろといっても無理ですよ」

  声をそろえて笑った。
  
  本当にこの人には世話になりっぱなしだった。















  夜…

  俺は荷物と掃除を済ませベッドに転がった。

  コンコン

  ノックの音だ。

  ドアを開けるとサユリさんがいた。

  「あの…少しお話をしてもよろしいですか?」
  
  「ああ、いいぜ」

  ではといってサユリさんは部屋の椅子に腰掛けた。

  「早いものですね。初めて会ったときのことが
   すごく昔のようですよ」

  「そうですね」

  俺たちは同じように窓を眺めている。

  「言わずにおこうかと思いましたが…」

  「え?」

  「このままだと前に進めないので言っちゃうことにしますね」

  サユリさんが真っ直ぐ俺を見つめている。










  「私はユウイチさんのことが好きですよ」











  それはきっと……俺がナユキのことに対する「好き」と同じ意味だ。

  だから…いい加減に答えちゃいけない。
 
  でないと…サユリさんの勇気が無駄になる。

  「ごめん、俺はナユキのことが好きなんだ」

  「あはは…やっぱりそうでしたか〜」

  つらかったがサユリさんから目をそむけることはしない。

  「そんな顔をしないでくださいユウイチさん」

  「え?」

  気づくとサユリさんの目には涙が一筋流れている。

  「ふぇ…でないとサユリの方が泣いちゃいますよ」

  「泣いたっていい」

  それは多分俺ができる最後のこと。

  「悲しい時は全部涙に流してしまった方がいい。その方がきっと…
   サユリさんが前に進めるはずだから」

  「ふぇ……ユウイチさんは…優しいですね」
 
  そっと俺の肩に顔を預けて、
 
  「う…うええ…え」

  静かにサユリさんは泣いていた。























  翌朝……

  ファグナス門の前には多数の見送りの人たちが集まっていた。

  アキコさんが近づいてくる。

  「ユウイチさん、ナユキは…」
 
  来てくれないのか…

  「いえ伝えてください。必ず迎えに行くからと」

  「ええわかりました。後これは餞別です」

  オレンジ色のジャムが入ったビンを渡された。

  「日持ちしますからゆっくり食べてください」

  「ありがとうございます」

  何のジャムかわからないが受け取っておく。

  「えう…ユウイチさんお元気で」
 
  シオリは今にも泣き出しそうだ。

  その側にはカズヤが立っている。

  「ああシオリもな。カズヤ、しっかり守るんだぜ」

  ぐっと親指を立て手を突き出す。

  「はい! ユウイチさんもお元気で」

  カズヤもそれにならう。

  「お二人とも体には気をつけてくださいね」

  ミシオがマコト共に現れる。

  「ああ、もちろんだ」
 
  「あうユウイチ、これ皆で作ったの」

  手渡されたのは色とりどりの石をつないだブレスレットだ。

  二人分ある。

  俺とジュンはそれを右腕につける。

  「ありがとうなマコト。他の皆にも礼を言っておいてくれ」

  「サンキュウな」

  「うん! バイバイ、ユウイチ! ジュン!」

  マコトは最後まで元気だった。

  「ユウイチ君、これお父さんからだって」

  「お! マスターの餞別か」

  俺は笑顔で紙袋を受け取った。

  「二人とも気をつけてね」

  アユが少し悲しそうに言った。

  「アユも元気でな」
 
  ジュンが軽く手を振る。

  「アユも元気でうぐぅうぐぅ言っててくれよ」

  「うぐぅ! 酷いよユウイチ君」

  「よし、その意気だ」

  「うぐぅ…」

  冗談めいたやり取りだったがアユの元気は出たようだ。

  「ふう…相変らずねユウイチ君は」

  「カオリか…悪いな連れてけなくて」

  ジュンの表情が曇る。

  「もういいわよ、散々言い合いしたでしょ。でもいつまでも待ってるとは限らないからね」

  「わかってるよ、他の奴の手に渡ってたって奪い返す」

  ふふふと笑うカオリ。

  「元気でね、また会いましょう…ジュン」

  「ああ、必ずな」

  カオリはそう言って雑踏の中に姿を消した。

  「よしそれじゃ皆! 元気でな!」

  そう言って俺たちは門をくぐる。

  後ろからものすごい歓声が上がっている。

  だがそれもやがて聞こえなくなり、俺たちは平原を歩いていた。



















  「そういやナユキだけ来なかったな」

  ジュンが歩きながらそう言った。

  「仕方ないさ。誰もが笑顔で見送れるわけじゃない」

  「案外寝てただけかもよ」

  あいつならそれもあるかな、とか思った。
  
  「それは……ないとも言い切れん」
  
  「だろう?」














  「二人とも酷いよ〜」

















  「いかん幻聴か?」

  「いや俺にも聞こえたぞ」

  後ろを二人でそうっと振り返る。

  いた。

  ナユキが。

  しかもカオリと一緒に。

  「ナユキ!?」

  「カオリ!?」

  びっくりしたのは俺達の方だった。

  「言ったでしょ? ナユキ。二人ならそう思うって」

  「う〜…二人とも酷い」

  まるでいるのが当然といわんばかりに二人は話している。

  「なんで?」

  俺はやっとのことでそれだけを口にした。

  「あたしは、世界の医療を探求する旅。ナユキはユウイチ君を追う旅」

  当然じゃないといわんばかりだ。

  「でもあっさり追いついちゃったわね。しょうがないから四人で行きましょうか。
   女二人放っておける?」

  確信犯だ、この計画はおそらくカオリが立てたに違いない。

  俺たちはまるでホールドアップのような気分だったが、

  せめてこのくらいのイニシアチブは取らせてくれ。

  さっと背中を向けて歩き出す。

  「遅れるなよ」

  「おいてくぞ」

  似たような台詞を残して俺たちは歩き出した。

  「素直じゃないわね、行くわよナユキ」

  走り出すカオリ。荷物を軽々と背負いナユキは

  「うん、皆一緒にね!」

  旅はどこまでも続いてく。

  俺たちが生きている限りずっと道は続いていく。

  これから先も…ずっと

                                  完


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