ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 34  王女凱旋





     
    
  コンコン

  俺はドアをノックする。

  「すまない遅れた」

  俺はリビングに入るなりそう言った。

  「あはは〜ユウイチさんが一番最後ですよ〜」

  サユリさんが楽しそうにそう言った。

  「それじゃあ全員そろったし話すとしようか」

  今日はズアイフさんがカノンメンバーの招集をかけたのだ。

  何か特別な話があるそうだったが・・。
 
  「実は今日午後2時にわが国の王女が帰国される」

  王女?

  「王女は類まれな魔法の才能の持ち主でな。扱いかねるとよくないので
   友好国の魔道王国レイジスに留学なさっていたのだ」

  へえ、そんなことがあったのか。

  「ズアイフさん、それで王女が帰国されるのと俺たちが集まったのは
   何の関係が?」

  「まあそう急くなジュン君。それで帰国を祝いしてパーティが本日
   王城で開かれる。もっとも参加できるのは貴族だけだがな」

  話の先が見えないが俺は黙ってズアイフさんの話を聞いていた。

  「もちろん私も出席するわけだがそこでだ。君達に護衛として
   同行してもらいたい」

  これにはさすがにびっくりした。

  「しかし、貴族以外は参加できないんじゃ・・・」

  俺が反論すると、

  「君達の身柄は私がすでに保証しているし、何より君達はこの街で
   数え切れないほどの武勲を上げている。申請したら即オーケーだったよ」

  すでに承諾済みか。さすがはズアイフさんといったところか。

  「それに、クーデター派の顔を知っておくにはまたとない機会だと思ってな」

  なるほどそれなら手が打ちやすい。
 
  「わかりました。では俺たちも同行します」

  「うむ、着替えを各自の部屋に運んでおいたから着替えてくれ。
   サユリ、マイ。二人はナユキ君を着替えさせてあげてくれ」

  「はい、わかりました。ナユキさん行きましょう」
 
  「うん」

  「それじゃ、30分後に玄関で」

  俺たちは待ち合わせをしてリビングを出た。

















  25分後

  「よっ!カズヤ待たせたな」

  俺とジュンはタキシードに着替えて玄関に集合した。

  しかもこのタキシード何気に戦闘用だ.

  動きやすいうえに丈夫だった。

  「二人とも気品がありますよ」

  そういうカズヤもタキシードに着替えている。

  あれ?俺はカズヤの腰に見慣れない剣が下がっているので
 
  聞いてみた。

  「カズヤその剣は?」

  「これは昨日父から譲り受けたクラタ家に伝わる名剣「グロウザー」です」

  なるほど道理で厳かな雰囲気のある剣だと思った。

  「僕はこの剣に恥じぬようまだまだ精進するつもりです」

  「ああ頑張れよ」

  やがて待つこと5分。

  ドレスに着替えたサユリさんとマイが現れる。

  サユリさんは淡い青。マイは赤とどちらも似合っている。

  「二人ともよく似合ってるぜ」

  ジュンがそう誉めると

  「ああそうだな」

  俺もそれに習う。

  「ふたりともありがとうございます」

  「・・ありがとう」

  しかし、俺はちょっと別のことが気になっていた。

  「サユリさんナユキは?」

  「いらっしゃいますよ〜。あはは〜ナユキさん照れてないでこちらへ
   来てください。ユウイチさん待ってますよ?」

  そうサユリさんが声をかけるとおずおずと出てきたのは

  ドレス姿のナユキだった。

  「ど、どうかなユウイチ?変じゃない?」

  俺はしばし言葉もなく沈黙してしまった。

  すごい可愛い・・いや綺麗か?

  見慣れない姿に思わず俺は見とれてしまった。

  とたんに脇に突っ込みが入る。

  「黙ってないで何か言ってやれよ」

  ジュンがそう言って脇を小突く。
 
  「あ・・ああ。その・・・よく似合ってて・・綺麗だ」

  「あ・・ありがとう」

  二人してそれきり赤くなりうつむいてしまった。

  「さあ鑑賞会はそれぐらいにして」

  ズアイフさんがドアを開ける。

  すでに馬車が待機していた。

  「城へ向かうとしようか」

  俺たちは暗雲渦巻く城へと向かったのだった。















  王城内広間

  すでにパーティの準備は整ったらしく、名だたる

  貴族達がすでに談笑を始めていた。

  とは言っても、

  「いやいやこちらこそすっかり・・」

  「お久しぶりですな。先日はお世話に・・」

  といった社交辞令がほとんどだったが。

  「皆様大変お待たせしました。ただいまガルヴァ王より
   ご挨拶があります。ご静粛に願います」
 
  その言葉に一同がシンとなる。

  やがてガルヴァ王がその姿をあらわした。

  「皆の者、本日は我が娘アカネの凱旋祝いに集まってもらい
   真に感謝している」

  アカネ・・それが王女の名前か。

  「昨今謎のモンスターの襲撃、国内の不穏な事件等心休まる時が
   なかったため皆には随分と心労がたまっているかと思う」

  むしろ心労をためているのは貴方だと思うが・・。

  俺は口には出さずにそう思った。

  「しかし、このような時こそ国が一丸となり立ち向かわねばならぬ。
   皆のよりいっそうの団結を期待する」

  パチパチパチと拍手が沸き起こる。

  「それでは皆さん思い思いにおくつろぎください」

  その言葉で一人また一人と話し始めパーティは厳かに始まった。











  「ユウイチ君」

  「はい」

  ズアイフがある一角を悟られぬよう見ろと指で促がす。

  俺は5人組の一角を見た。

  比較的壮年の男性が5人・・・。

  「中心にいる男がクーデター派の筆頭フォルンケスだ」

  フォルンケス・・。一番油断ならないな。

  頭の切れるだけの男じゃなさそうだ。

  「そして取り巻きにいる男たちが、ケヴィル、アルースト、エルンゼ、マンセムだ」

  俺は瞬時に頭に叩き込む。

  この先何か起こすとすれば必ず彼らを中心に起こるだろう。

  だが、軽く話をすると彼らは広間を出た。

  「あの先は?」

  「城の城門にしかつながっていない。大丈夫だ」

  完全に隔離されているなら大丈夫か。

  「お父様。そろそろアカネに挨拶がしたいのですが・・」

  「そうだったな。大丈夫話はつけてある。皆で会いに行くとしよう」

  「え?」

  まあいいからついておいでとズアイフさんが言うので

  俺たちは連れられて一室に通された。

 







  「久しぶりです、サユリ」

  そこに入って来たのは金髪を三つ編みにした気品あふれる王女だった。

  「久しぶり〜アカネ」

  サユリさんは嬉しさに顔をほころばせている。

  「マイもお元気そうね」

  「・・アカネも元気で安心した」
 
  マイとも知り合いなのか・・。

  「おや、待たせてしまったかね?」

  そこにズアイフさんと入ってきたのはガルヴァ王その人だった。

  「な・・陛下!?」

  俺たちは一斉にかしこまったが

  「そう硬くならんでもよい。ここではただの老人だよ」

  陛下はそうおっしゃるが・・。

  「私とガルヴァは20年来の親友なんだよ。よく彼が子供の時には
   親同士が知り合いだったので話をしてね」

  「私が城を抜け出した時にはよく彼の家に行ったものだよ」

  はっはっはと声をそろって笑い出した。

  「さて、まずは重要な話からしようか」

  ガルヴァ王は真面目な顔になる。

  「そのまえにちょっと・・」

  俺は方陣を張った。

  「これで中の様子が外に漏れることはありません」

  俺はかしこまった。

  「ではまずお互いに自己紹介をしましょう。アカネ王女もいらっしゃいますし」

  「アカネ、でいいです」

  とその言葉は俺の発言を区切ってしまった。

  「私は、王女である前にアカネという一人の人間ですから」

  「・・わかったよアカネ」

  あらためて俺たちは自己紹介をした。











  俺たちはアカネに現在の状況を説明した。

  「あまりよろしい状態ではありませんね」

  全くだ。何しろ敵の手の内は全くわからないのだから。

  「コールズの死因も不明のままだしなあ」

  ジュンの言葉で思い出した。

  そうだモンスターを研究・・捕縛していたと思われる男。

  結局彼が謎の死を遂げたことで事件はうやむやのままだったからだ。

  「陛下は・・どうなさるおつもりですか?」

  ナユキはガルヴァ王にそう尋ねた。

  「とにかく国民の安全が第一だ。彼らが国のためを思ってやるというのなら
   国王の座などくれてやるが、彼らのやろうとしているのは・・支配だ」

  支配・・統治ではなく支配。

  それは彼らの思考が独裁に向かっているのをあらわしていた。

  「確かに個を思っては全を救うことなど無理かもしれん。だが、あって
   当然の犠牲など私は認めん。犠牲を前提とした政治では民が不幸になるだけだ」

  そうかもしれない。結果として犠牲が生まれるのはどうしようもないことかもしれない。

  生まれないことに越したことはないが、何かの拍子に犠牲が出来てしまうこともある。

  だがそれを前提に何かを行うというのは非道だ。

  その犠牲を苦しむのはそれを行ったものじゃない。犠牲になった人々なのだから。

  「わかりました。有事の際には我らカノンが動きます」

  その言葉に全員がうなずく。

  「今のこの国が好きですから私は」

  「父や母が守ろうとしたのは今の国」
  
  「私もこの国が大好きだよ」

  「僕が守りたいのは今のファグナスです」

  この国に住む四人はそう答えた。

  「ユウイチ君、ジュン君はどうしてだね?本来君達には関係のない話ではあるはずだが?」

  ズアイフさんがそう聞いてくるが、

  「俺たちは理不尽な犠牲になろうとしている人々を見過ごせないんです。
   それにこの国は大変世話になりました。見捨てていくなんて出来ません」

  ジュンはそう答えた。

  「俺はこの国に来てようやく答えが出た。自分の生きる意味である剣を振るう理由。
   その理由に従い俺は戦う」

  俺はそう答えた。

  「二人とも・・ありがとう」

  ズアイフさんは頭を下げる。

  「よしてください。俺たちは感謝されるために戦ってるわけじゃないです」

  「それでも、だ」

  やがて、話は方向性が変わり昔話へと変わっていった。

  ズアイフさんとガルヴァ王は未だ身分を越えた友人であること。
 
  家族ぐるみの付き合い上、サユリさんとマイとアカネが友人同士であること。

  アカネもまた精霊魔法使いであること等。

  俺たちの話も含め、笑い声が絶えることはなかった。

  その時、

  ドオオオオン!!

  辺りに轟音と衝撃が響く。
 
  「な、なんだ!?」

  俺たちはその場に身構えた。

  俺はそっと部屋の外をうかがう。

  そこで俺は目を疑った。

  通路にはモンスターが歩いていたからだ。

                                    続く

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