ブレイブハート 〜奇跡は心〜   TRAVEL 40  決戦前日  後編





    

  クラタ邸、リビングにて。

  ナユキ行方不明の報告はカノンメンバーに多大なショックを与えた。

  作戦の執行の困難よりも敵側が、何故ナユキをさらったのか

  そちらの行動の不可解さが大きな理由だった。

  一番動揺していたのはユウイチである。










  「街中をまわったが目撃者はいなかったよ・・・」

  俺はそれだけを伝えると椅子に腰掛けた。

  サイトウから伝えられたことは事実だった。

  「奴らの目的のためにナユキの力が必要だってことか」

  ジュンはそうつぶやいた。

  「ナユキの身が心配だが作戦は予定通り決行する」

  ユキトは全員に聞こえるようそう言った。
 
  「ただし、突撃メンバーのユウイチ達はフォルンケスの撃破よりも
   ナユキの安全の確保を優先してくれ」

  この発言にはその場にいた全員が驚いた。

  「ナユキの魔力は古代魔法を制御できるほどだ。そしてあの要塞も古代の遺物。
   関係ないとはいいがたい」

  「だったらなおさらだ」

  俺はユキトの言葉をさえぎった。

  「それなら・・なおさらフォルンケスの近くにナユキがいる可能性のほうが高い。
   ユキト気持ちはわかるが、やっぱりフォルンケスの撃破を優先するよ」

  俺はそう言うと立ち上がり、

  「決行の時間まで・・休む」

  パタンとドアを閉め俺は自分の部屋に向かう。

  









 
  「ユウイチさん・・。やっぱり」

  カズヤは心配そうにドアの向こうを見つめた。

  「多少メンタルな部分で心配はあるが・・・それ以上にあいつには
   ナユキを助けるって大事な目標がある。心配するな」

  ジュンはそう言って自分廊下に消えた。

  「他の皆も休んでくれ。こんな時だからこそな」

  ユキトのその言葉に全員はその場で解散となった。

  








  「ナユキ・・・・」

  守ると・・約束したのに・・・。

  俺は自分の不甲斐なさを呪った。

  あの時から全然変わってない。

  無力な・・父や母に守られていた頃から・・・何も。

  「くそっ・・」

  自分は一体何をしてきたのか。

  二度とあんな悲しみを起こさせないために剣を取ったんじゃなかったのか。

  大切な物を守りたいから剣を取ったんじゃないのか。
  
  浮かぶのは自分への責め苦。
 
  キィン・・。

  突然あたりに不思議な音が響いた。

  その音にはっと我にかえる。

  「え・・・?」

  見渡してもどこにもそんな音がしそうな物は無かった。
  
  だがそのおかげで落ち着くことは出来た。

  まだ・・悔いるには早すぎる。

  俺はまだ全てを出し尽くしていないのだから。

  ナユキ・・待っててくれ。必ず・・助けに行くから。



















  「ご苦労だったなマンセム」

  「いえ・・フォルンケス様の言うとおりでしたな」

  彼はサイトウの行動を報告した。

  「まあいいさ。もう奴の仕事は済んだからな」

  「では、始末するので?」

  「その必要は無いさ。明日報酬を渡す時にわかる。それよりも・・」

  「他の三人ならばすでに準備を整えております。ケヴィルは西、アルーストは東、
   そして空を使いエルンゼが城を急襲する手はずになっております」

  「ごくろう。では明日明朝8時を持って総攻撃を開始する。
   おそらく抵抗があるだろうが容赦はするな」

  マンセムは敬礼をすると部屋から出た。

  暗い部屋にフォルンケスはただ一人

  「まあ・・最後に笑うのは私だがな」

  そのつぶやきは誰にも聞こえることは無かった。






  そして運命を分かつ運命の陽がのぼる。

  準備を整えたファグナス軍の前に音も無くモンスターは現れた。

  そしてあの声がファグナスに響いた。

  『諸君らの考えは良くわかった。ならば私に逆らった愚かな行為を
   噛みしめながらあの世に行くがいい!!』

  その言葉を合図に両軍は動いた。

  もちろん、ユウイチ達も。

  今、決戦の火蓋は切って落とされた。

                                  続く

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