ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 11 深まる謎
マンイーターは、何本かの触手を封じられたものの、
依然、その攻撃力が衰えた雰囲気はない。
むしろ凶暴化している。
「行くぞ!ほっとくと被害が広がる!」
ジュンが、真っ先に駆ける。続いて、マイ、カズヤが続く。
「俺は、少し体力を温存するか」
ユウイチは剣を地面に突き立て、なにやら空中に陣を書き始める。
「ユウイチさん・・もしかして方陣魔法を使用できるんですか?」
サユリは驚いた表情で陣を見つめている。
「まあね・・・母親がかなりの使い手だったからな。
基本を覚えてからは・・・我流で」
キン!と音を立て、陣が完成し、淡い光をたたえ始める。
「ナユキ!炎の魔法を奴に放て!!」
「うん!」
ナユキは、呪文の詠唱に入る。一方、ジュンたちは、
無数の暴れまわる触手に、攻撃を阻まれ本体へのダメージが与えられずにいた。
マイの聖剣も、カズヤの剣も、ジュンの拳もベールのように
広がる触手の前に無力だった。
「ちっ・・これじゃキリがない」
ジュンは、氣を込め斬撃力の持つ手刀で触手を薙ぎ払う。
しかし、その間に他の触手が再生しほとんどジリ貧の状態が続いている。
「・・効果がない」
マイの攻撃は、本体に当ててこそ意味がある。いくら触手の先を
凍らせても、後ろの部分を自ら削ぎ落とすことで無効化している。
思ったより知性もあるらしい。
(このままじゃ・・体力が尽きてしまう)
カズヤは、戦いながら本体の動きを監察していた。
中央の花の部分・・・・その中心にグロテスクに動く物体がある。
(あそこまで剣が届けば・・・)
しかし、カズヤはそこまでの道程がないことに焦りを感じていた。
だからかもしれない。普段なら避けられるであろう触手の一撃を
サユリの声がかかるまで気づかなかった。
「カズヤ!危ない!」
「え!?」
しまった!!カズヤがそう思ったときには触手は目の前にあった。
しかし、それをかばうように、ユウイチがカズヤを横っ飛びにかっさらう。
二人で地面に転がるものの、何とか直撃は避けた。
「大丈夫か?カズヤ」
「あ・・はい。すみません」
しかし、ユウイチはにやっと笑い
「気づいたな」
「え?」
くいっと首でマンイーターを指し
「あいつの弱点。お前の目線が本体に向いてたからな。
しかし、敵を観察するのはいいが、近視眼的にはなるな。
常に視野は広くもて」
「あ・・はい」
ユウイチは、二人でもとの場所に戻り
「みんな!いまから本体への道を開く!
ナユキの攻撃魔法が合図だ!
ジュンは、右から!マイは左から!
サユリさんは、奴の足止めを頼む!」
「おう!」
「わかったよ!」
「・・はちみつくまさん」
「わかりました!」
そして、カズヤを向き直り
「お前がとどめをさせ。中央から一気に本体をねらうんだ。
出来るな?」
ぎりっとカズヤの剣を握る力が入る。
しかし、目は迷いなく前を見据えている。
「はい!まかせてください!」
「いい返事だ」
ユウイチは、痛む体を抑えながら陣を開放する。
「行くぞ・・ナユキ!」
「うん!」
ユウイチは、開放のための呪文を詠唱をはじめた。
「我が呼び出しは、その力の解放の陣」
「門をくぐりしその力」
「自身の存在を凌駕する姿となる!!」
陣が変化し、印を作り出す。
「スペル・ブースト!!」
そして、ナユキがその印に魔法を放つ。
「古代の魔印より紡ぎだされし炎よ・・・邪悪なる者に」
「聖炎の裁きを与えん!!」
「ルーン・オブ・マジック」
「セイントフレイム!!」
そして印をくぐると、その炎は信じられないほど
巨大な炎となる。そしてその先にはマンイーター。
炎が直撃する。
しかし、マンイーターは自身の水分を用い炎の威力を半減する。
そこにサユリの詠唱が入る。
「偉大なる陰の四元素を司る精霊の一人に我、問い掛けます」
「我との盟約の元に、その力、我に示せ!」
「地の精霊ノームよ!地に足付けし物を、その大地の中に封じよ!!」
「アース・バインド!!」
サユリの呼びかけに突如、マンイーターの周りの土が、
まるで縄のように絡みつきその動きを封じる。
触手の力では、この土は吹き飛ばせない。
ジュンとマイは、
「今がチャンスだ!道を作るぜ!任せたぞ!カズヤ!」
「・・・任せる」
二人が同時に技を放つ。
「爆裂掌!!」
「聖剣・氷河!!」
二人の攻撃は、それぞれ左半身と右半身を吹き飛ばし
一時的にだが、完全にマンイーターを無防備にした。
「はああああああ!!」
カズヤはすでに走りこんでいた。
ジュンやマイが思うよりも、彼は早く近くにきていた。
尊敬し、信頼する仲間たちがミスなどするはずがない。
そんな思いから、カズヤは寸分狂わぬタイミングで
マンイーターの懐に飛び込む。
そして、ふと脳裏によぎるのはユウイチの華麗な剣技。
『剣舞・乱風!!』
一撃では無理だ。だが、連撃ならどうだ?
今の持てる力をすべて攻撃に変える!!
「僕の剣で!終わらせてやる!!」
彼の剣に光が宿る。氣の光が。
使い方など知りはしない。ただ、思っただけだ。
自分ならできる、と。
「スラッシュゲイル!!」
カズヤの剣閃はすでに風だった。彼の剣はもともとスピードに特化した剣。
それに加え、風の氣を宿した連撃は、真空波が乱れ飛ぶようにすら見えた。
一瞬にして本体を木っ端微塵にされたマンイーターは、徐々に溶けるように消えていった。
「やったじゃないか!カズヤ!」
ジュンがわしわしとカズヤの頭をくしゃくしゃにする。
「わわわ・・やめてくださいよ〜ジュンさん」
逃げ回るカズヤ。
ユウイチは、嬉しそうにその姿を眺めていたが、
「つつつ・・」
ようやく自身のダメージを思い出したか、その場に座り込んでしまった。
「わ、ユウイチ大変だよ」
ナユキが慌てて支えた。
「そういえば、最初から怪我してたな。一体どうしたんだ?」
ジュンが尋ねてくる。
ユウイチは少し深刻な顔をしながら
「・・サイトウに会った」
「な・・?それ本当か?」
ジュンは動揺を見せる。サイトウの事を知らない他の面子は
何気に首を傾げるだけだった。
「ま・・その話は後でするさ。俺はこれからカオリ達のとこに行く。
ちょっとやばそうだ」
「それじゃ私が付き添うよ」
ナユキが名乗りをあげたが、
「あはは〜ナユキさん一人じゃ大変ですから私も行きますよ〜」
サユリもそれをさえぎるように名乗りをあげる。
「それじゃ、二人にきてもらうか。ナユキ一人じゃ心もとないし」
「う〜〜〜」
「あはは〜」
何故か不機嫌とご機嫌な二人。
知らぬが仏の天然鈍感男ユウイチ。
「それじゃ、俺達はコイツの出所を探ってみる。
昨日のことといい、どうもコイツはなんか裏がある気がする」
「ああ、俺もそう思う。後で事務所で落ち合おう」
ユウイチがそう言うと、二人を連れ(られて?)診療所へ向かう。
「・・ジュン。気づいてる?」
「ああ」
ジュンが、周りを見ながら答える。
「あんな化けモンが突然現れるなんて不自然もいいところだ。
確かにモンスターは、どこから現れているのかは不明だ。
だが、基本的に人間の匂いの染み付いたような場所から
突然現れた、なんてのは聞いたことがないからな」
「・・・思ったより頭はいい」
「マイ姉さん・・・ちょっときつい」
カズヤがフォローを入れるものの
「俺はどうせ・・・・・・」
ジュンがいじけだしてしまった。
その後、カズヤのフォローの元
ジュンたちが動き出したのはその30分後である。
続く
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