ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 12 巣くう疑惑
「全くたいした人ね。そのサイトウって人」
ユウイチに包帯を巻きながら、カオリは感心したような
それでいてあきれたように言った。
「何が?カオリ?」
「ユウイチ君の傷よ。一歩間違ったら、どれも致命傷に至る部位を
狙ってるわ。ユウイチ君じゃなかったらとっくに墓の中に入るぐらいの、ね」
その言葉に、あらためてぞくっとするナユキとサユリ。
「まあ、それを覚悟して生きてるからな」
祐一はそんな二人に向き直って言う。
「・・俺達の戦いってのはこういうことだぞ」
動揺したらしい二人にユウイチは続ける。
「時には、悪意の持った人間だって相手になる。命の奪い合いだ。
死ぬ覚悟は必要ない。ただ、生きる覚悟が無ければ、
土壇場で死ぬことになる。それは・・・・自分以外の誰かかもしれない」
重苦しい沈黙が流れる。サユリもナユキも心のどこかで甘かったのかもしれない。
自分達の誰かが死ぬことは無い。
冷静になって見れば、そんなことはありえないのだ。
事実ユウイチは死にかけたのだから。
「今ならまだ引き返せる。どうするんだ・・?二人とも」
ユウイチは降りろとは言わなかった。
それは、相手のことを気遣うようで気遣っていない。
自分で決めさせたい。ユウイチはただ、その覚悟が聞きたかったのである。
二人には決して死んで欲しくないからだ。
自分がいかに強くなろうとも、守りきる自身は無かった。
だから、二人に生きる覚悟が欲しかった。
つい最近まで、こんな世界に縁の無かった二人だからこそ。
それが必要だとユウイチは思っていた。
「わたしは・・・・戦うよ。甘いのかもしれないけど
誰も死んで欲しくないよ」
ナユキはまっすぐな目で答えた。
「私もです。中途半端では生きられないのは分かりました。
だからこそ、今からでも頑張ります」
サユリは、カズヤとそっくりな目でユウイチを見つめた。
「わかった。改めてよろしく頼む」
ユウイチは、笑顔で答えた。
「さて、お話はそれでいいかしら?」
カオリが、白衣をバサっと羽織ると、
机の上から簡単な地図を持ってきた。
「どう考えても不自然よね。こんな見晴らしのいい場所で
あんな、巨大な化け物が突然現れる、ってこと自体が」
中央通りは、比較的広い。おまけに周りに人通りが多い。
俺達がついた時は、すでに避難が済んでいたおかげで
被害が出なかったが・・・。
そんな真剣な話をしていると、
「お姉ちゃん!!ユウイチさんが大怪我をしたって・・・あれ?」
シオリは、両手いっぱいに薬を抱えて治療室に飛び込んできた。
「シオリ・・・何?それ」
実の姉ですらあきれている。
「え・・えーと、家にあった傷薬全部・・・・」
「置いてきなさい」
「・・はい」
そして、薬を片付けたシオリも合流して再び相談。
「それじゃ、最近のモンスターもみんなどこから来たのか
目撃例が無いのか?」
ユウイチは驚いた。
サユリさんの話では、モンスターが出るようになってから
結構な時間がたっているらしい。
にもかかわらず、出現した瞬間の目撃者はいないのだそうだ。
「ますます人為的な事件な気がするな」
「そうですね・・・。魔法でしょうか?」
サユリがユウイチの意見に同意する。
「・・現場を調べた方が早いかもしれないわね」
カオリが地図を眺めながら答える。
「それなら、今ジュン君たちが調べてるよ」
「そうだったな。よし、俺達も戻るか」
ユウイチ達は席を立つ。
「ま、また怪我したら来なさい。もっとも、ユウイチ君の
体は、医者いらずのようだけど」
ふふふと笑うカオリ。ユウイチは
「いや、これでしっかりとした治療がないと、意外とつらいんだ。
無茶はしなきゃいけないときだけでいい。また来るよ、ありがとう」
「お大事に」
三人は、診療所を出る。
「えう〜ユウイチさんと全然、お話できませんでした〜」
「あんたが入ったって何も分からないわよ」
カオリは、午後からの診療の準備をはじめた。
「えう〜そんな事言う人嫌いです」
ぶつぶつ言いながら、シオリも薬の準備をはじめた。
「やっぱり目撃談はなしか」
ジュンは、一通り情報を集めてまわったが、これと言った
情報は無かった。
結局、現場に戻ってきたのである。
現場は、すでに人がちらほら通り始めている。
街路樹も植えられ、馬車が通りやすいよう舗装された道。
人の道は土だが、それでも一度慣らされていて歩きやすかった。
「・・ジュン」
「おお、マイどうだった?そっちは?」
「・・ぽんぽこたぬきさん」
マイは首を振ってそう答えた。
ジュンは最初何のことか分からなかった、マイのコミュニケーションにもなれたらしく
「そうか・・。後はカズヤだな」
そういってあたりを見回した。
特に異常は無い・・すでに戦いの後も片付けられていて
目に付くものは無かった。
「ジュンさん!すみません遅れました」
「ああ、いいっていいって。で、どうだった?」
カズヤが息を切らしながら、
「残念ながら・・・・」
「全滅か・・・。仕方ないこのあたりを捜索するか」
三人はうなずき合い、あたりに何か無いか探し始めた。
三十分後・・・・・・・・・。
「何も無いか・・・・」
ジュンは、一通り捜索を終えた。
やはり、何も見つからない。
そのことがかえってジュンの疑惑をあおる。
(・・やっぱり、誰かが意図的にモンスターを使ってるとしか考えられねえな)
その時、
「・・・ジュン」
「ジュンさん!これをみて下さい」
二人が駆けより持ってきたのは、
「・・・・なんだこれ?」
ジュンにはただの、青い石に見えた。透明度は高いが宝石の類ではない。
「これ・・転送石ですよ」
「・・知らないの?」
「すまん。説明してくれ」
マジックアイテムの類はやや知識の無いジュンは二人に説明を求めた。
「任意の場所に置いておくことで、対となる転送石を通して
物や人を転送する魔法石です。比較的、量があるらしくて
トレジャーハンター達を中心に、結構な数が出回ってます。
でも・・・・」
「・・・大きさ、人数、物体の種類に応じて、転送に必要な
魔力の大きさが異なる。特に・・・」
「生物は、人間の魔力じゃ転送不可能だって言われてます」
その言葉が何を意味するのか、ジュンは即座に理解した。
「・・・つまり、こいつを使ってるのは」
「とんでもない魔道士だということです。それも下手をすれば
ナユキさんクラスの」
ジュンは、しばらくその石を見つめていたが、
「とにかく、一度ユウイチ達と相談しよう。
とんでもないことになってきたな・・・・・・」
三人はその場を離れ、事務所へと向かった。
天気は、良好だったが三人の雰囲気はこれからのことで
あまり、楽しげではなかった。
(アレを回収されたか・・・・。コールズ様に報告だな)
裏通りに消える影。
その足取りは、まっすぐとある貴族の家に向かっていた。
続く
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