ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 37 狂気の象徴
もはや「人」であったものとしか呼べないその化け物は
図体には似合わない俊敏さでカズヤ、マイを追い詰めていく。
二人は反撃を試みるが相手の反応速度が恐ろしく速く手詰まりの状態だった。
接近戦ではこちらの詰み手は封じられている。
(・・だが遠距離攻撃では倒せない)
この化け物の生命力は高すぎる。
カズヤの技は威力こそ高いが接近戦がメインだ。
遠距離の攻撃はけん制用等威力の高いものは少ない。
加えて伸縮自在の相手の二本の腕は間合いをつかみにくい。
一撃で沈められる可能性を含む特攻を仕掛けるにはあまりに部が悪すぎだ。
(どうする?)
カズヤは相手の動きを観察しつつどう攻めるかを考えている。
マイもしばらく打ち合っていたがやがて決意したようにカズヤに振り返る。
「・・カズヤ。一人であいつの動きをどれだけ止められる?」
カズヤはマイの意図が掴めなかったがそんな疑問よりも
マイの問いに答える方が先だと思った。
しばし相手の能力と自分が足止めに徹した場合の打てる限りの手を
考察に入れた結果。
「・・・1分」
過小評価はしていないつもりだがもったとしてもこれぐらいだと
カズヤは思った。
「・・・十分。サユリ、スピードアップの魔法を私に」
「ふぇ、いいですけど・・マイ?大丈夫?」
サユリはマイが特攻をかける気なのを知り心配そうに聞くが
「・・心配無用」
「わかったよ、マイ」
それ以上は何も言うまいとサユリは精霊魔法を使用する。
「偉大なる陽の四元素を司る精霊の一人に我、問い掛けます」
「我との盟約の元に、その力、我に示せ!」
「風の精霊シルフよ!今一度、我が戦友に、疾風のごとき速さを与えん!!」
「フット・エア!」
風の精霊の加護を受けマイの素早さが上昇する。
「よし!それじゃ行きます!!」
カズヤは名もなき化け物に対峙する。
マイは剣に全ての意識を集中する。
(・・剣を自らの体の延長と意識し・・氣を持って一体化とする)
マイの体は剣を通し徐々に氣に包まれていく。
一方カズヤは足止めに徹し襲い掛かる腕による攻撃を
ひらりひらりと避け左右上下を使い化け物を翻弄する。
すっかりカズヤを狙うことに集中し、先ほどまでは的確だった攻撃も
だんだん大雑把な大振りの攻撃になってくる。
(・・・いける)
その間にマイの準備も整った。
だがこの攻撃はタイミングが命。
「・・カズヤ!完全に動きを止めて!」
「了解!!」
カズヤは相手の体の上に乗り挑発した。
そして化け物はそのカズヤをたたき落とそうと腕を頭上に振るった。
すかさずカズヤは懐に入り先ほどから練っていた氣を開放する。
「スパイラルエッジ!!」
螺旋を描く氣が化け物を包む。
ダメージこそほとんどないがそのすさまじい衝撃に化け物は身動きが取れなかった。
「・・カワスミ流聖剣技」
そう言ったとたん、マイの体は青い氣に包まれた。
そしてわずかにマイの体が浮く。
「聖剣・流浄殺!!」
マイが軽やかに地を蹴ると氣に全身を包んだまま
高速で相手の懐まで一気に間合いを詰める。
走ったのではない。氣により体がわずかに浮いた状態では
摩擦抵抗が存在しない。常に最高速を維持できる突進連撃技。
それが流浄殺なのである。
そして駆け抜けるように一瞬六連斬を放つ。
マイの軽やかな剣閃は糸状に化け物に走り、
いつのまにやらマイは化け物の後ろにいた。
氣は剣閃と共に放たれている。
「・・手ごたえあり」
パチンとガーディスを腰の鞘に収めると静かに化け物は綺麗に六等分され
床に消えていった。
「ふぇ・・」
サユリは目の前のあっという間の出来事にぽかんとしている。
「・・つかれた」
ぺたんと尻餅をつくとマイはその場に座り込んだ。
「お疲れ様マイ姉さん」
カズヤはマイの側に来るとそう声をかけた。
「・・カズヤも囮ご苦労様」
わずかにその顔をは笑っていた。
だが、
ドオオオン!!
上のほうから大きな音が響きその場にいたものはお互いに顔を合わせる。
「上か・・国王の間しかないな。奴らが占拠しそうなのは」
ガルヴァ王は静かにそう言った。
「行きましょう。ユウイチさんたちもきっとそこです」
カズヤはそう言った。
誰も異論をはさまない。
廊下に飛び出し彼らは二階の国王の間に急ぐ・・・。
「でもどうして陛下を狙ったんでしょう?」
特に以上のない廊下を走りながらカズヤはぽつりとそう言った。
石造りの廊下では足音ともに声も良く響く。
「・・革命とやらを進めるにはトップが倒れたこと公表するのが一番早い。
私を殺すか・・さもなくば幽閉しておけば自分が実権を握ったと
国民に思わせるのはたやすいことだ」
道理だった。
ましてや彼の側にはそれなりの実権を持つものが四人いる。
一人でそのようなことを叫んでも狂言とも思われぬかもしれないが
正式な手続きの上、国王が姿をあらわさず重臣がそれを真実だと言えば
民は皆それを信じるだろう。
「もっともあのようなものをけしかけてきたという事は、首が欲しかったのかも知れんな。
幽閉など甘い手を使うつもりはなかったのかもしれん」
ズアイフは抑揚のない声でそう答えた。
「少なくともフォルンケスは革命を起こせるだけの力があります。
絶対に止めなくては・・・」
カズヤの言葉に皆うなずく。
放っておけば不幸になるものが必ず増える。
この迅速な行動に彼らはそう思わざるを得なかった。
同時刻 国王の間
「冗談だろ・・・?」
先ほどの轟音はナユキの魔法に俺が合わせて技を放った衝撃音だった。
いかに金属製のゴーレムとはいえ波状攻撃にならいささかの手ごたえがあるだろうと
俺達は連携で攻撃したのだが。
ゴーレムは傷一つついていなかった。
「ジュン、とりあえず殴る蹴るはよしたほうがよさそうだ」
「ああ。間違って殴った日にゃこっちの拳が砕けそうだ」
お互いに軽口をたたくがそれは余裕からではない。
ある程度の、そうほんの少しでもダメージの兆しがあれば
これほど驚きはしなかっただろうが。
ダメージが全く無いとなるとこちらの戦力でゴーレムを破壊するのは
ほぼ不可能だからだ。
これにアカネの魔法とジュンの気功撃を加えてもおそらく結果が見えている。
「物理的な力でも魔力でも無理か・・・」
ならばこのゴーレム自体の機能停止・・。
おそらく動力および命令系統を司る原石のようなものが本体にはあるだろうが・・。
これを取り出すというのはボツだな。
理由は考えるまでも無い。
「ナユキ、ゴーレムの原石がどこにあるかわからないか?」
「ユウイチ、原石って何?」
お前・・ゴーレムの構造を知らないのか?
「ユウイチ、おそらく人でいう心臓部に当たる場所です。金属製の物を見るのは初めてですが
おそらく古代遺産の物と同型です」
代わりにアカネが答えてくれた。
それにしても・・古代遺物をベースにオリジナルを開発したのか・・。
フォルンケス・・お前はいったい何者だ?
こんな人から外れた力を使いお前はただこの国の支配だけを望むのか?
力を持てば・・人は皆狂うのだろうか?
様々な思いが思考を支配する。
「ユウイチ!」
ナユキの叫びに我を取り戻す。
眼前にゴーレムの腕が見える。
俺はそれをぎりぎりでかわした。
「っと・・」
そして素早く移動して間合いをとる。
「戦闘中に物思いにふけるのは感心しません」
アカネにきつい突っ込みをもらう。
全く持ってそのとおりだ。
今は人と力のあり方について考えるべき時ではない。
「外からではなく・・内に干渉する・・」
ジュンが何かぶつぶつ言っている。
「ユウイチ、リノーバス流の「貫き」の極意覚えているか?」
「「貫き」・・・!」
それは外側には干渉せず内にのみ全衝撃を伝えるリノーバス流の特殊打法だ。
詳しい理屈は未だに良くわからないが(そもそも理屈で技を使ってないが)
氣を直接外側にたたきつけるだけではなく相手の内側に発生させ
その衝撃を全て内部に伝える物理的防御を無視する発氣法。
それが「貫き」の極意。
「だがあれは体術の専売特許だ。ジュン・・いけるのか?」
「さてな。だがやってみないとわからん」
そう言うとジュンは軽くステップを踏み
「だが原石の場所はわかってるんだ。当たるまで乱発しなきゃいけないわけじゃない。
・・一応技は習得してるんだし」
そういい残しいきなり全速力でゴーレムに飛び掛る。
「後は野となれ山となれだ!」
そう言って心臓に当たる部分めがけて掌底を放つ。
ゴーレムに当たる刹那の瞬間!
ドン!
鈍い音が響いた。
・・失敗か・・・?
だがゴーレムはぴくりとも動かない。
「・・成功か・・・天震掌」
ジュンがぽつりとそう言った。
「ははは・・今更ながらに手が振るえてやがるぜ」
その言葉に俺たちはジュンに駆け寄った。
「やったじゃないか!」
ばしっとジュンの頭を叩く。
「いって!おい・・ユウイチ。手加減しろよ」
そういいながらジュンも笑っている。
「ユウイチさん!無事ですか!?」
その声に振り向くとサユリさんたちが後ろに来ていた。
俺たちは事情を説明しあった。
「だが、テラスから北入り口を見ろとは・・?」
ガルヴァ王が首をかしげた時
ゴゴゴゴゴ・・!!
ものすごい地震が起こった。
「うわ!」
「きゃあ!」
立っていられなくなり俺たちはその場に座り込んだ。
やがて地震が収まるとやな予感がして俺はテラスに駆け込んだ。
皆も後からついて来る。
そして、俺は北入り口の門の前にありえない物を発見した。
北入り口付近は貴族達の住宅街がある。
それらの一角をつぶしてとりでが形成され、北門の外側には巨大な要塞が構えていた。
そう、まるでちょうどファグナスの北門を中心にちょっとした戦争施設が整っている。
「あれは・・・まさか魔道要塞!?」
ズアイフさんが叫んだ。
「魔道要塞・・?古代時代の?」
俺が聞き返すとズアイフさんはうなずき
「でもよ世界各地に点在しているが起動は不可能なんじゃなかったのか?」
ジュンがそう言うと
「確かにな。我々は古代の人に比べ魔力が落ちている。ナユキ君のようなケースも
珍しくないとはいえ、あれを起動できるほどの人材はそろわないはずなのだが」
現実にそれは起動してしまった。
しかも奴は通常の兵力に加え、モンスターの部隊まで抱えている。
奴なりの宣戦布告ということか・・・・・。
『ファグナスの諸君このようなものを目にかけさぞかしおどかれたであろう』
フォルンケスの声!?
「魔道伝達器によるテレパシーか」
ズアイフさんは冷静にその声に耳を傾けた。
『私は今この時よりファグナスへの宣戦布告を行う』
町の人々が何事かと外へ出る。
『この国はもはや堕落した。怠惰な貴族達による陳腐な統治、
国民の自主性を重んじるという建前による、民心の不管理』
要塞を見ようと集まり始める人々。
『よって私はこの国を一から作り直そうと思う!諸君らの生活を管理するのは私だ!
ファグナスに再び栄光を取り戻さんがために!!』
やがてどこからともなく不満の声も上がり始める。
『とはいえいきなりこのような方法で私に従えといえど納得できるほど
諸君らも愚かではないだろう・・。そこでだ』
要塞からフォルンケスがテラスに現れる。
手には杖を持っている。
まさか・・?
『私の力を見せてやろう!それを見た上で決めるがいい!!』
ガカアァァン!!
眩い閃光と共に貴族街の一部に落雷が生じた。
着弾点を中心にかなりの範囲を破壊した。
すでに口を開く物はいなかった。
『諸君らへの猶予は二週間だ。逃げるなり従う心構えを作るなり好きにすればよい。
無論戦う準備も可だ。あれをみてなおも戦おうというのであれば私は相手をしよう』
それきりテレパシーは途絶えた。
要塞付近は不気味な沈黙を保っている。
要塞内部
「逃げるのも自由だと?それじゃあんたは空っぽの国を手にするのか?」
「すでに労働力は確保してあるのさ。従う気のない人間を置いておいたところで
役に立ちはしないのでね」
サイトウはつくづくこの男の周到さに半ばあきれていた。
「それに時間が無ければ君も対象の捕獲はできんだろう?」
「・・まあな」
だったらと付け加え
「猶予は二週間だからな。それまでには頼むよ」
「俺を誰だと思ってやがる?」
「君が通り名どおりの男であることを期待するよ・・」
ちっと舌打ちをするとサイトウは部屋から出た。
「ケヴィル」
「はい」
部屋の隅からケヴィルが姿をあらわした。
「彼の手配は?」
「済んでおります。しかしサイトウは本当に動くでしょうか?」
「動くさ・・奴の信条どおりならな」
フォルンケスはくくくと静かに笑うと
「どちらに転んでも手に入るさ。ナユキ―ミナセはな」
そして床の魔法陣を見つめ
「その時が私が絶対の存在となるのだ。この世でただ一人
頂点に君臨する者としてな・・・」
どこまで奥の見えぬ野望を抱く男はただそうつぶやいた。
続く
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