ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 21 目指せ!優勝!
イグサムの事件が片付いてから1週間が過ぎようとしていた。
結局、何もわからないままイクーサ家の火事は事故として片付けられた。
俺たちも現場の捜索にあたったが、痕跡は何も残っていなかったのである。
ただ・・地下室のような場所があり、そこにコールズ氏の死体があったことは
ふに落ちなかったが。
とはいえ、今のところは特に事件も起きず、俺たちは街を見回って
時々、野菜の配達をしたり、ジャムの材料を調達したりと
便利屋として働いていた。
今日も、そんな見回りを終えた午後のことだった。
「ただいま〜っと・・あれ?シオリ?」
「あ、ユウイチさん、カズヤさんお帰りなさい」
事務所に戻るとシオリがいた。
他のメンバーも、戻ってきている。
「お帰りなさい、ユウイチさん」
「お帰り〜ユウイチ」
「・・お帰り」
「よっ、お疲れ」
それぞれがねぎらいの言葉をかけてくれる。
「ただいま。それでどうしてシオリがいるんだ?」
「はいっ、それはですね。お弁当を持ってきたからです」
シオリがテーブルの上の包みを指す。
確かに、重箱のような弁当箱が置いてある。
「今日は診療所の方も暇だったので・・良かったら
皆さんと食べようと思いまして」
「ああ、たまにはいいか」
「そうですね、シオリさんの料理はおいしいですから」
カズヤがそう言うと
「ありがとうございます・・カズヤさん」
「お礼を言うのは僕だと思うけど・・」
シオリは何故か顔を赤くしてしまった。
昼飯中・・・・・・・・・・。
「そういえば、自警団の人がこんなチラシを持ってきたよ」
名雪はそう言って、お茶を飲んでいた俺たちの前に
一枚のチラシを見せる。
「ファグナス武術大会開催!
腕に覚えのある強者達よ集え!
開催日時・・・場所 ナナセコロシアム
日程・・・」
「「武術大会?」」
俺とジュンがハモる。
「そういえばそんな時期でしたね〜」
「・・結構由緒正しい大会」
「・・・・・・」
カズヤは、じっとチラシを眺めていたかと思うと突然
「ユウイチさん、これに出場しませんか?」
そんなことを言い出した。
「いきなり何を言うかと思えば・・どうしてだ?」
「せっかくですから、この中で競い合ういい機会だと思うんです」
なるほど・・そういえばここのところ忙しくて
ジュンと組み手すらやってないからな・・。
「なるほどな。お互いの実力を知るにはいい機会か。
それに思わぬ強敵もいるかもしれないし」
「ええ、自分を知るいいチャンスです」
俺は納得して出場することにした。
「それじゃ、俺と・・・カズヤと・・そういえば
制限はないのか?」
「はい、武器は模擬戦用のものを使用しますが
特に制限はないですよ」
「てことは、ジュンも決まりだな。マイはどうする?」
「・・母様の剣以外で聖剣は振るいたくない」
ふるふると首を振って否定した。
「じゃあ、俺たち三人で決まりだな。よし!それじゃ
1週間後に向けて、少し特訓するか」
「「「おお!」」」
三人で声をそろえと、気合を入れる。
「カズヤさん!頑張ってくださいね」
「ええ、頑張ります」
シオリがカズヤに声援を送り、
「ユウイチさん、目指すは優勝ですよ〜」
「頑張ってね、ユウイチ」
「・・・頑張って」
「おう、ありがとな」
三人がユウイチに声援を送る。
「あの〜俺も出るんですけど・・・・」
ジュンが一人で忘れられていた。
翌日・・・・仕事が終わり夕方より少し前の時間。
クラタ邸の中庭
早速三人が、準備を済ませて出てきた。
ギャラリーは何故か知り合い一同が勢ぞろいしていた。
アキコさんやズアイフさんまでいらっしゃる。
「まあまあ、やっぱり男の子は強くなくちゃね」
「そうですな、カズヤがどれだけ腕を上げたか・・私も少し期待しとるんですよ」
親同士の会話だった。
「よっ!そろってるな!!」
威勢のいい声と共に、キヤイタさんが入ってくる。
「試合までの間は、俺が特別メニューを届けに来るからよ!
期待してくれよ!」
それは願ってもない。何しろキヤイタさんといいアキコさんといい
この二人を始め、サユリさん、ナユキ、シオリと料理上手が多い。
すっかり俺とジュンの舌は肥えてしまったのである。
「アユ!手伝いはいいから、友達と一緒にいな。
たまにはそういうのもいいだろう」
「ありがとう!お父さん!」
アユは心なしか嬉しそうだ。
さてと・・
「組み合わせはどうする?」
「三人だしな・・。バトルロイヤルでいいんじゃないか?
最初だし」
それもそうだな。
「よし、やるか。いっとくが手加減はしないぞカズヤ」
「のぞむところです」
「久しぶりに楽しめそうだな・・」
それぞれが構えを取る。いかに手合わせとはいえ
訓練だ。あたりに緊張した空気が走る。
「サユリさん・・・悪いが合図を頼む」
「あ・・・・はい」
雰囲気に飲まれていたサユリさんが慌てて立ち上がる。
そして、
「はじめ〜」
少し拍子抜けのする声の合図だったが、さすがにこけたりはしなかった。
俺は、目の前のカズヤにまずは攻撃を仕掛けた。
カズヤはジュンを狙うつもりのようだ。
視界に、ジュンの攻撃が見え、俺は慌ててそっちを迎撃する。
「ちっ!」
ジュンの拳を、剣でけん制し間合いを取る。
動きの止まったジュンにカズヤの剣が迫る。
「はっ!」
「うおっ!?」
速い・・!?かつてここで手合わせした時とは比べ物にならないほど
剣速が上がっている・・・・。
ジュンも若干目測を誤ったらしい。いつもの余裕がなかったからだ。
俺たちは互いに顔を見合わせる。
まさかここまで成長してるとはな・・・・。
「・・・?」
当のカズヤは疑問符を浮かべた顔をしている。
「ジュン、悪いがサシでやらせてくれ」
「なんだよ・・俺が先にやりたかったんだがな」
「え?」
カズヤは一人でわからないと言う顔をした。
「お前の成長が俺たちの想像をはるかに上回っていたからさ。
・・本気で試してみたくなった」
俺は、あらためて氣を高める。
「サシのほうが・・相手の力がわかる・・。
ジュン、合図」
「おう」
ジュンがさっと小石を上にほうる。
「カズヤ、これは手合わせじゃない。本気で俺を倒すつもりで来い」
「・・・!わかりました!全身全霊でかかっていきます!」
あたりが再び緊迫した空気に包まれる。
ゆっくりと・・・小石が地面につく。
ザッ!
ザザッ!!
二人が同時に飛び込む。
俺は正眼から振り下ろしを放つ。カズヤはそれを払い抜けで止める。
「はああああ!!」
「やああああ!!」
二人から、ビリビリと氣の波動が放たれる。
あたりに微振動を起こすほどだ。
しばらく、つばぜり合いをしていたがやがて、どちらからともなく離れ
撃っては返し、返しは撃っての乱打戦に変わる。
そして、
(今だ!)
(ここだ!)
お互いがほぼ同時に技を放つ。
「リノーバス流・・」
「クラタ流古流剣術・・」
氣が剣に集い、二人の剣士の剣から解き放たれる。
「剣舞・乱風!!」
「スラッシュゲイル!!」
奇しくも同系統の技同士の勝負となった。
ガガガガ!!
すさまじい音を立て、お互いの剣をお互いに押す。
しかし、若干スピードで押しているカズヤの技は、
徐々に俺の手数を封じていく。
そして、フィニッシュの一撃が入る。
お互い、振りかぶった渾身の一撃。
ガギィイイイイン!!
わずかに、カズヤの剣圧が俺を吹き飛ばした。
ダメージにこそ至らないもののこの勝負はカズヤに分があったと言える。
俺は、そのままの姿勢で後ろの方に弾かれた。
(まいったな・・・)
技でせり負けたのは久々だ。
だが、このなんともいえない楽しさは、嬉しくもある。
(1週間後が楽しみだ・・)
俺は、しばらくの間、カズヤと打ち合っていたが
お互い無理の残らない程度で引き上げることにした。
「お疲れ様です。カズヤさん」
シオリがあれやこれやとカズヤの世話を焼いている。
「ありがとう、シオリさん」
カズヤも飲み物をもらってシオリと楽しそうにしゃべっている。
俺は軽く一息ついたので
「さ、ジュンやるぞ」
「待ちくたびれたぜ・・。さっきから体がうずうずしてんだ」
ジュンがひょいと飛び起きると早速やるぜと言う雰囲気をかもし出している。
「ユウイチ〜頑張って〜」
ナユキが手を振る。
「ああ」
俺は軽く振り返す。
「ちくしょう・・ユウイチのやつ・・」
ジュンはとほほな表情をしている。
「何を言ってるの・・」
カオリが呆れ顔で見ていた。
「カオリか。いや・・やっぱ声援があるのとないのじゃ気合が違うと言うか・」
「じゃ、声援をもらうために頑張るのあなたは?」
「いや、そういうわけじゃないが・・」
「そ、思ったよりも軟派でもないのね」
「思ったよりもって・・」
「見ててあげるから頑張りなさい」
カオリはそれだけ言ってさっさと離れていく。
「・・・おうよ!」
ジュンはそれだけで元気になる。
・・・単純なやつだな。それにカオリの行動も・・。
わからんな。
「それじゃそろそろいいか?」
「ああ、いつでもいいぞ!!」
俺が構え、ジュンも構える。
「はじめ〜」
サユリさんの合図で俺たちは久しぶりの手合わせを始めた。
続く
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