ブレイブハート 〜奇跡は心〜 TRAVEL 27 勝者
すでに試合が開始してから、どれだけの時間が過ぎただろうか。
舞台上のカズヤは、かなりのダメージが蓄積していた。
息は荒く、体もあちこち痛む。
対してルミは、息こそ切れているが決定的なダメージというものは喰らっていなかった。
全て、氣で強化した肉体で防いだのである。
スピードに特化したカズヤの剣は、手数では彼女に圧倒的に勝るが
決定的な攻撃力に欠けた。
逆に彼女の一撃は、カズヤの体力を存分に奪う。
極めて1対1の戦いとしてはカズヤに不利な条件がそろいすぎていた。
にもかかわらず、カズヤは善戦しているのである。
一方的な試合には決してならなかった。
しかし、それが相手との実力が拮抗している証拠になるかと問われれば
答えはノーである。
それは、舞台上の彼らの姿が物語っているといえよう。
大分日も、傾いてきて本日の最後の試合の幕が下りようとしていた。
「・・はあ・・はあ・・」
「・・ふう・・・・」
舞台上の二人は口を開かない。
すでに語るべき体力の余裕もないとこだろう。
(・・・・一撃・・彼女の防御を上回る・・)
カズヤにはそれしか手がなかった。
彼女の防御力があれほど高くなければ、手数で押せただろうが
それがダメージになってないとすれば話は別だ。
事実、新たな技、ストームランサーでさえ初手で見切られてしまったのだ。
それを上回る技。
カズヤはその一手は撃てる。
ユウイチと当たる時に使うはずだった、切り札。
(出し惜しみ出来る相手じゃない・・・・)
カズヤは覚悟を決めた。
当てる自身はある。読みの速い彼女ならなおさら。
カズヤは勝負に出た。
(・・・勝負に出たわね・・・)
カズヤの目で、彼がどう出るかを読んだルミ。
数多の人間と退治した彼女は洞察力に優れていた。
ましてや、あれだけ真っ直ぐなカズヤが相手となれば、
目線だけでも、次の狙いを読めたのである。
(・・嫌いじゃないけどね。そういう真正直な性格)
あえて、こちらからでるのは止め、反撃に徹することにした。
こちらから攻めて、彼の出鼻をくじくことも出来たが
予感・・・のようなものがルミによぎった。
こちらからでるのは危険だと。本能がそう察知したらしい。
観客は皆、息を飲んでいる。
辺りは水を打ったように静かだった。
カズヤは剣を引いた構えを取っている。
ソニックエッジの時の構えだ。
彼は、スピード勝負に出るつもりなのか・・?
観客の誰もが、ユウイチ達でさえそう思った時、
カズヤが動いた!
「はああああ!!」
やはりソニックエッジだった。
先ほどまでの疲労はどこへやらのスピードだった。
「スピードで勝負か・・・。残念だけどその手は食わないわ」
そして、防御を高める氣を発し、剣を構え
「これで終わりよ!!」
交差法を狙い、思いっきり剣を払う!
「カズヤさん!!」
シオリの叫びがあたりに響いた。
「ここだあ!!」
突然、カズヤの剣が光ったかと思うとカズヤのスピードが上昇した。
「なっ!?」
ルミの払う剣を、しゃがみ込みでかわす。
しかし、その勢いは殺されず結果、ルミは懐に自ら
敵を招いてしまった。
「これで勝負だ!!」
カズヤが剣を払い、そのまま向こう側へと駆け抜ける。
「ソニックバースト!!」
放った剣に込められた氣が、ルミの上半身で炸裂した。
氣のこもった剣に、氣によって最大限のスピードを超えたスピードでの払いぬけ。
これが、カズヤが特訓の末、編み出した大技だった。
「くっ・・」
ルミがふらつく。
だが、倒れることはなかった。
一方カズヤの方は、
「ダメ・・でしたか」
すでに意識を失いかけている。
己の限界まで力を使った結果だった。
「惜しかったけどね・・。せめて、相手の防御力に左右されない
一撃だったら・・あたしは負けてたでしょうね」
ゆっくりと、近づきながら語るルミ。
「防御を無視・・・」
カズヤが呆然とつぶやく。
「君なら出来る。さらに伸ばしてみなさい・・自分の技を」
「ええ・・・必ず・・次があれば・・今度は・・・」
カズヤは目を閉じた。
その先の台詞は口に出されることはなかった。
ルミが、カズヤにとどめの意味の剣を首筋に打ったからだ。
無論、そんな必要はないのだが、
止めを刺すまでは油断してはならないという戦いの非常さからだろうか。
カズヤが床に突っ伏す。
審判は彼の意識が完全に途絶えているのを確認すると
「勝者!ルミ!」
やはりその後、歓声と拍手が巻き起こる。
主に、カズヤの健闘をたたえるものが多かった。
もちろんルミへの賛辞も。
ルミはよろよろと舞台を下りる。
ユウイチとすれ違う時に彼女は
「よいよ、あんたとね。ユウイチ」
「明日の試合、楽しみにしてるよ」
「こっちこそ」
それだけ言葉を交わすと、ユウイチとジュンはカズヤを
担いで医務室にはこぼうとした。
「あれ・・・?」
「気づいたか。カズヤ」
カズヤは辺りをきょろきょろと見回す。
「そうか・・負けたんですね」
「ああ。惜しかったな」
ジュンがそう言った。
本当に惜しかったと、そう思っていた。
「ええ・・もっと強くならないと」
「そうだな。お前ならもっと強くなれる」
ユウイチは、それだけ言うとカズヤの肩を担ぎ
医務室へと引き上げた。
医務室にはすでに、観客席から戻ったミサカ姉妹がそろっていた。
「診てやってくれ」
ユウイチはそう言って、二人にジュンとカズヤを引き渡す。
「えう〜・・残念でしたね、カズヤさん」
シオリは包帯を巻きながらカズヤにそう言った。
「すみません。せっかく応援してくれたのに・・。
でも、最後の時に僕の名前を呼んでくれたのは・・
嬉しかったです」
カズヤはそれだけ言って真っ赤になってしまった。
「わ・・聞こえましたか?」
シオリも真っ赤になる。
この二人はしばらくこんな調子で、治療がちっとも進まなかった。
「まあ、健闘をたたえて及第点ってとこかしら」
「微妙な評価だな・・」
カオリはくすっと笑うと
「ごめんなさい。素直に人を誉めるのは得意じゃないのよ」
ジュンは笑って
「そうなのか?まあ・・カオリらしいっていや・・らしいけど」
「ふふ・・一応誉め言葉かしら?」
少し悩んでジュンは、
「悪い、お世辞は得意じゃないんだ。思ったことをそのまま。
それが俺のポリシーだ」
「バカ正直って言うのよ、それは。でも・・そういうとこは嫌いじゃないわ」
ぴっと音を立て包帯を切る。
「今・・最後の方が聞こえなかったんだけど・・」
顔を真っ赤にして、カオリは、
「ひ・・・秘密よ」
それだけ言って、もくもくと治療を続けた。
だが、それでもジュンは、嬉しそうだった。
ユウイチはナユキと二人で舞台を見ていた。
すでに人は去り、夕日だけがコロシアムを照らしていた。
「明日は決勝か・・・・」
彼女・・ルミははっきり言って強い。
果たして俺の剣技が通用するだろうか?
「大丈夫だよ。ユウイチは強いもの」
ナユキが笑顔でそう言ってくれるが・・・
「俺より強いやつはごまんといるさ」
俺は遠くを眺めながらそう答えた。
「ねえユウイチ」
「なんだ?」
にこにこと笑顔で俺を見るナユキ。
「優勝したら、何かひとつだけ言うこと聞いてあげようか?」
「何!?何だよ急に・・」
俺は、突然の申し出に戸惑った。
「何かご褒美があれば気合が入ると思って」
俺はお子様かい。
「まあ・・いいたいことはわかるけど・・」
「ねえ〜、私に出来ることなら何でもいいから〜」
だだっこのように腕を引っ張るナユキ。
う〜ん・・。
「それじゃあ、一日デートってのはどうだ?」
「え?」
ナユキが固まった。もちろんその後に俺は冗談だと付け加えるつもりだったが
「うん、いいよ」
あっさりナユキはオーケーしてしまった。
「え・・あ・・いや今のは」
思わぬ返答に俺は、どぎまぎしてしまった。
「優勝したらデートだよ。ユウイチ」
何で、ナユキが喜んでるんだ?
「まあ・・いいか」
別にナユキとデートがしたくないわけじゃない。
むしろ・・少しは嬉しい。
よし!
「明日は絶対勝つぞ!」
「うん!ふぁいと、だよ」
俺たちは夕日の浮かぶコロシアムで誓いを立てた。
明日は・・必ず勝つ!
続く
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